第47章−6 異世界の所有の印は激ヤバです(6)

 フレドリックくんの匂いと温もりに包まれて、ちょっとだけ気分が和らぐ。


「あのバ……いえ、王太子殿下が少々、暴走してしまったようです」

「暴走?」


 オレの右腕を恭しい仕草で手に取る。

 

「ここに……王太子殿下は所有の印を刻まれました。少々、印に込めた想いが強すぎたようですね」

「え…………『しょゆうのしるし』?」


 また、なにやら異世界専門用語がでてきたぞ。

 呪いの類いだろうか。


「王太子殿下は、勇者様が自分のものだと主張されたかったようですが……。あれはやりすぎです。わたしからも、宰相閣下からも強く注意しておきましたから、今後は大丈夫でしょう」


 フレドリックくん情報によると、やりすぎたらしい王太子殿下は、宰相サンにめちゃくちゃ怒られ、オレとの面会を禁止されたらしい。


 マオの様子が見たい、とドリアは泣きながら書類にサインをしているらしく、書類に涙の跡が残っているとか……。


 しばらくドリアの「マオ――。会いたかったぞ」というセリフが聞けないのはちょっとさみしいかもしれない。


「えっと……その所有の印って、マーキングみたいなものか?」


 フレドリックくんにスリスリしながら、オレは聞き慣れない『所有の印』とやらについて質問する。


 そういえば、こちらの世界のひとたちって、やたらと所有権を主張したがるよな。

 たまたまなのかもしれないけど、独占欲が強いヒトが多いよなぁ。


「みたいではなく、そのものです。わたしのものを消したかったというのもあるのでしょうが、ここまで強烈な……相手に負荷を与えるような行為は、強姦と同様、褒められたものではないのですが……」

「へ…………?」


 手の甲へのキスが強姦と同じ……?


 どうなっているんだ? この世界の倫理観は?


 まあ、あのとてつもない衝撃に襲われ、三日間も気を失うとなれば、印をけられた相手にしてみれば、とてつもなく迷惑行為でしかないよな。


 そう考えると、手の甲へのキスと強姦は同じようなものなのかもしれないね。


 やっぱり、異世界は異世界だ。


 オレの理解できる範囲をはるかに逸脱している。


「まあ……これだけ主張が激しいものであるのなら、雑魚は近寄っただけで失神するでしょうから、ちょうどよい虫よけになりましたね」


 なにそれ……フレドリックくんの発言が怖いですよ。

 にっこり笑いながら言うセリフでしょうか?


「所有の印って怖いな……」

「…………」


 オレの呟きに、フレドリックくんは目をパチクリさせる。


「勇者様、本来の所有の印は、全く違うものです。アレがつける印がおかしいだけです。異常です」


(あ、フレドリックくん、今、ドリアのことをアレ呼ばわりしたよ……)


「……………………」

「……………………」


 長い、長い沈黙の後、フレドリックくんがおもむろに口を開いた。


「つけて……よろしいでしょうか?」

「え……?」


 フレドリックくんの声があまりにも色っぽくて、オレの心臓が驚きのあまり飛び跳ねる。びっくりしすぎて、口から心臓が飛び出すかと思ったよ。

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