第26章−4 異世界のデートはイチゴが先です(4)

 馬車が止まり、目的地に到着したことを告げられる。


 馬車の扉が開くと、空気と一体化していたフレドリックくんが馬車を降りた。


 少しの間をおいて、エリーさんが席を立ち、フレドリックくんのエスコートで馬車からでていく。


「ドリア様」


 エリーさんの声がかかった時点で、はじめてドリアが動いた。

 馬車を降り、それに続いて、オレが王太子のエスコートで馬車を降りる。


 ふたりのエスコートは、流れるように美しくて洗練されていたよ。さすがだね。


 ****


 オレたちを運んできた馬車は、小高い丘の中腹あたりに止まっていた。


 規則正しい街並みと牧歌的な小高い丘が同時に存在していたことに、オレは少しばかり驚いちゃったね。


 人も少ないので、通りすがりを装っている変装した近衛騎士たちが、ものすごく不自然だな。


 少ないというか、関係者しかいないんじゃないだろうか?

 もしかして、貸し切りなのかな?


「マオ、こっちだ!」


 とまどうオレを、ドリアはぐいぐいひっぱっていく。


 今回は、爆走することはなかったが、小高い丘の頂上をめざして歩きはじめたドリアの足取りはとても軽やかだった。

 歩く、というよりは、小走りだ。


(また、走るのかよ……)


「フレッド! ちゃんと、エスコートしろ!」


(フレッド?)


 エリーさんの声が聞こえ、反射的に振り返ると、フレドリックくんと腕を組んで歩いているエリーさんの姿が見えた。


 ふたりは涼しい顔で、上品に歩きながらも、恐ろしいスピードでオレたちに近づいてくるよ。

 ふたりの息はぴったりだ。

 そのことに、なぜか、モヤっとした気持ちになっちゃった。


「ドリア、ちょっと待て」

「マオどうした?」

「後ろを見てみろ」

「後ろ?」


 オレの声にドリアは素直に振り返り、丘を登ってくるエリーさんとフレドリックくんを見る。


 ドリアの小走り歩みが止まり、目を大きく見開いてふたりの姿を観察する。


 オレの意図を悟ったのか、ドリアは自分の手を腰にあてる。その腕にオレは自分の両手をからめると、ドリアとともに歩き始めた。


 エリーさんを真似て、ドリアにぴとっとくっついてみる。


 ドリアがめちゃくちゃ喜んだのは言うまでもないね。

 そして、この時間が少しでも長引くのを狙って、ドリアの歩みが遅くなったよ。

 ふう……これで、ドリアは加速しようとは思わないだろう。


 緑の草が生い茂り、白い小花が咲き乱れている丘を、ドリアのエスコートでオレはのんびりとした足取りで登っていく。


 傍目からは、二組の若いカップルが丘の散策を楽しんでいる……という光景に見えるだろうね。


 まあ、傍目といっても、関係者ばかりだけどねぇ。



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