第69話 漆黒将軍テスタロッサ

俺達は建物の調査を続けていた。


「こっちはコボルトのガラスケースが並んでいるだけで、他に目新しいものはなさそうだな。」


「そうですねクリード先生、他の部屋に行きましょうか。」


「だな。ミリー達の所に行ってみるか。」


俺達はミリーとマリーを通路で見つけて声を掛けた。


「ミリー。何か見つけた?」


「あっクリード、今のところは何もないかな。次はこの部屋の中を探そうと思ったんだけど。ねえマリー?」


「うん。そうだよクリードお兄ちゃん。」


俺はミリー達が入ろうとしている部屋を見て、ある事に気がついた。


「ミリー、マリーその部屋に入るのは待ってくれないか?」


「えっ、うん。いいけど。」


俺はミリー達が入ろうとしていた部屋に先に入った。


その部屋には特になにも置かれておらず、ただ壁があるだけだった。


「どうしたの、クリード。」


「この部屋の壁さ。」


「部屋の壁がどうかしたの?この部屋の中には特に変わった物はなさそうだけど。」


俺は壁に向かって水属性の上級魔法アクア・バーストを唱えた。


「けたたましき水の息吹よ、今ここに集いてその青き力で押し潰せ!!アクア・バースト!!」


そして俺の目の前に大きな水の塊が現れると、その大きな水の塊が部屋の壁に直撃したのだった。


水の高圧によって壁に凄まじい量の水が浴びせられた。


するとどこからともなく魔物の断末魔が響いてきたのだった。


「グギイイイ!!」


「ええっ??」


マリーが驚いていると、壁だった場所に通路が姿を現したのだった。


「これどういう事、お兄ちゃん?」


「ウォールメイラっていう魔物が壁に化けていたんだよ。」


「あそこの壁、魔物が化けてたって事?」


「そういう事だ。」


「だからお兄ちゃん私達に部屋に入るなって言ったんだね。」


「そう。にしてもわざわざウォールメイラを使って壁にみせていたって事は、この奥に何かありそうだな。」


「だね。」


「それじゃあ先に進もうか。」


俺達は部屋の奥をさらに進んでいった。


すると声が聞こえてきたのだった。


「一体何をしていたの?こんな場所に私を閉じ込めてほったらかしなんて!!」


俺が声をした方を見やると黒い衣装で黒髪の小柄の少女がこちらに向かって歩いてきた。


「あらライオスじゃないのね、ライオスは来ることさえしないつもりなの。」


ミリーが驚いた顔をしていた。


「し・・し・・漆黒将軍(しっこくしょうぐん)テスタロッサ!!」


ミリーが慌てて身構える。


「お、お姉ちゃん、テスタロッサってまさか。」


「魔王クレスタ配下の四天王の一人、漆黒将軍(しっこくしょうぐん)テスタロッサよ!!」


ミリーが言う通り俺の前にいる黒髪の少女は漆黒将軍(しっこくしょうぐん)テスタロッサという魔族で、魔王クレスタ四天王の一人であった。


みんなはテスタロッサに構えたのだった。


「みんな待ってくれ。」


俺はみんなを静止した。


「えっ?」


テスタロッサは怒りが収まらないようだった。


「このテスタロッサは復活させられてライオスの命令を無理矢理きかされてるのよ!!その上知らないふりまでさられるなんてどこまでライオスは私を馬鹿にすれば気が済むの!!」


テスタロッサは怒り心頭の様子だった。


「待ってくれ、テスタロッサ。」


「あらクリード。あなたもライオスの企みに参加したの?あなたは潔癖そうだから参加してないと思ってたんだけど。」


「いやテスタロッサ、俺はライオスの企てには参加していない。むしろライオスの企てを阻止しようとしているんだ。」


「そうなの?」


「ああ。」


「クリード、あなたまっすぐな人間だもんね。ライオスのふざけた企みに協力はしてなかったか。それならなおの事ここに何をしに来たの?あなたの口ぶりだと私がここにいるのは予想してたみたいだけど。」


「テスタロッサ、君の手を借りたいと思ってね。どうかな?」


テスタロッサは笑い出した。


「ふふふ、まさか本気じゃないわよね、私は魔王軍四天王の一人なんだから。」


「もちろん本気だよ、テスタロッサ俺達の仲間になってくれ。」


テスタロッサが訝しげに俺に見つめた。


「本気なの?私達魔王軍の行いを忘れたわけではないでしょう?四天王のデミオスやバルバッサが何をしてきたか!!」


「もちろん凍結将軍デミオスや破壊将軍バルバッサの残虐な行いは忘れてないよ。確かに凍結将軍デミオスや破壊将軍バルバッサなら手を借りようなんて絶対に思わない。魔王軍は本質的に人々を苦しめようとするし、実際にたくさんの人々を苦しめてきたからね。協力するのは無理だとは思ってるよ。」


「分かってるじゃない、なら。」


「だけどテスタロッサ、君は世界の人々に対して何もしていないだろう。君は他の魔族達は本質に違うんじゃないか。君は傷ついた人達には心を痛めてしまう魔族なんじゃないのか。」


「私がそんなに優しい魔族だと思ってるわけ?」


「もちろん思ってるよ。」


するとテスタロッサはため息をついたのだった。


「はあー、クリードあなたの洞察力は大したものね。確かにその通りよ。私は魔王軍の中では浮いた存在だったわ。大きな暗黒結晶を保持していたから四天王にはなれたけど、魔王軍では人を傷つけたら喜ぶのが当たり前だったからね。私はその魔王軍の当たり前を受け入れる事はとてもできなかった。」


「だから誰も傷つけないようにダールス地下神殿にずっと籠っていたんだろう。」


「ええそうよ、もう人々が苦しむ姿を見るのはうんざりだったから。」


凍結将軍デミオスや破壊将軍バルバッサは世界各地を暴れ回っていたが、漆黒将軍テスタロッサは一切そういう事をしていなかった。


「そういえば確かにテスタロッサが町や村を襲撃をしたって話は聞いた事がないわね。」


「クリード確かにあなたの言う通りではあるけれど、私は魔王クレスタ様を裏切る事はできないわ。だからあなたの誘いを断るしかないわ。」


「テスタロッサ、今は状況が変わっている。今君に命令をしているのは魔王クレスタじゃなくて勇者ライオスだ。君がライオスに忠誠を尽くす理由もライオスの命令を聞く理由もどこにもないんじゃないか。」


テスタロッサが笑みを浮かべていた、


「ふふふふ、ええそうね、その通りね。私がライオスの命令を聞く道理なんてどこにもないわ。分かったクリード、あなたの誘いに乗らせてもらおうかしら。」


「ありがとう。」


「でもいいのかしら、クリード?あなたのお仲間はいいと言ってくれるのかしら。」


「クリード、本気でテスタロッサを仲間にするつもりなの?」


「ああそのつもりだよ。恩恵崩しで石化された人々を元に戻すにはテスタロッサの協力が必要不可欠なんだ。」


「そうなの?」


「ああ。」


「クリードの言う通りよ、私がいればたぶん恩恵崩しの石化は解除できるはずよ。」


「そうなんだ。分かった、クリードを信じるよ。今までもクリードの言う事は全部正しかったもんね。」


「ワシも構わん、クリードを信じるのみじゃ。」


「クリード先生、私も先生を信じます。」


「みんなありがとう。」


「さてとそれじゃあここから脱出しよう。」


俺達はテザーの魔法でライオスの研究施設から脱出したのだった。


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