episode09 sideクロ
マクベルという男は、薬の受け取りがない日も遊びに来るようになった……のだけれど。
「魔女さん「にゃお」」
「ん? なんだい? ちょっと待っててね……魔女さ「んなー」」
「? 魔女「にゃー」」
「ま「シャー!!」」
ブンブンと抗議の意味を込めて尻尾を振ってじとりと睨みつけてやると、ハッとようやく僕の言いたいことに思い至ったらしいこの男は、ぼぼっと頬を赤く染めた。
「えと、の、のの、ノエル、さん」
おいおい、声が裏返ってるじゃないか。
「っ! は、はいっ」
やれやれ、二人とも顔を真っ赤にして。
そうだよ。この子には素敵な名前があるんだから、いつまでも『魔女さん』呼びはないんじゃないかい?
親しい仲になりたいなら、もう一歩踏み込まないと。
「猫くん、ありがと「んにゃあ」」
「あっ……えーっと」
再び僕の不満な声に頬をかき、男は君の側にスススと近づいて行く。
「ねぇ、あの猫くんの名前って……」
僕に聞こえないように配慮してるらしいけど、猫の聴力を舐めちゃダメだよ。筒抜けさ。まったく、この僕の気高き名前を知らないなんて、今度ちょっぴりお仕置きをしてやらないとね。
「ふふっ、この子はね、クロ。黒猫のクロよ」
「にゃーん」
ふん、と胸を張って見せると、男はふにゃりと表情を崩して僕の頭に手を伸ばした。
……仕方ないなあ。
頑張って名前を呼んだご褒美さ。僕の頭を撫でさせてあげる。名誉なことなんだよ? 光栄に思ってくれたまえ。
「クロくん。改めてよろしくね」
「んにゃん」
ふわりふわりと優しい手つきで僕の頭を撫でる。
ふーん、僕ほどにもなると、触り方で人となりがよく分かるんだけど、この男は根っからの善人らしいね。
ま、君にならあの子を任せられるかな。
せいぜい頑張りたまえよ。
ふんっ、と鼻を鳴らすと、君はおかしそうに笑った。
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