第12話 先輩のアレが揺れるだけで…

 すでに夕暮れ時。


 薄暗くなった街を夏川美月なつかわ/みつき先輩と共に歩いていた。


 明日から夏休み本番。先輩と過ごせるというだけで、気分が紅潮してくるものだ。


 先輩と一緒にやってみたいことは多々ある。


 その中で一番やってみたい事は……。


 大野裕翔おおの/ゆうとはチラッと隣にいる先輩へ視線を向けた。

 そこには先輩の爆乳が見える。

 制服の上からでもわかるほどの大きさ。


 いや、さすがにそういうのは……。


 あまり考えない方がいい。

 変なことを妄想して考えても、先輩に不快な感情を抱かせるだけだ。


 裕翔は無心になることにした。

 だが、暑さも相まって、非常に体がだるく感じてしまうのだ。




「なんかさ、さっきから何も話さなくなったけど」

「え……いいえ、なんでもないです。少し暑かったので」

「まあ、そうだね。今日も暑いから。口数が少なくなってしまうのも、それはしょうがないかもね」


 そう言い、夏川先輩はなぜか、胸元のところを弄っていた。


 先輩の胸が揺れているのがハッキリとわかるのだ。


 横目で見ると、ブラジャーの位置を直しているようだった。


 距離が近いからこそ、余計に性的興奮を刺激される。


 先輩って、こういうのを気にしないタイプなのか。


 裕翔はまだ高校生であり、そういったエロいことを考えたくなる年頃。

 異性の些細な嫌らしい仕草であっても過激に感じてしまうものだ。

 裕翔は頬を赤く染め、咄嗟に視線を逸らす。




「ん? 裕翔って、熱ある?」

「え、な、なんでですか?」

「だって、顔が赤いからさ」

「それは……」


 夏川先輩がさらに近づいてくる。

 距離が縮まると、余計に先輩の圧を感じてしまう。

 その上、瞳でも映しきれないほどの爆乳が、裕翔の左腕を圧迫してくるのだ。


「やっぱり、熱?」


 先輩は左手で裕翔の額を触る。


「ち、違うと……思いますけど」


 裕翔は緊張し、赤面したまま、小声になる。


「そう?」

「はい……」


 先輩はまったく気にしていないのだろうか。

 それとも、年下だから、そこまで気にしていないのか。それはわからないが、爆乳である事をもう少し意識して接してほしいと思った。




「やっぱ、頭、熱いよね?」

「そうじゃないですからッ」


 裕翔は強気な口調で言い放った。

 それがきっかけで先輩が驚き、目を丸くしたのち距離を取る。




 一瞬、無言になった。


「ごめんね、でも、心配になって」

「……すいません、俺も変に声を出してしまって」

「いいよ。今日は暑いしさ。嫌にもなるよね。私もいきなり触ってごめんね」

「大丈夫なので……」


 裕翔は俯きながら言った。

 本当は先輩に触られて嬉しかった。


「そうだ、どこかによって食べて行かない? こんな時間帯だし、夕食替わりにさ」


 夏川先輩から提案される。




 先輩が指さしているところは、とある店舗。


 この街では結構な利用客が多いハンバーガー店だ。


 ハンバーガー店の看板を見てしまったことで、裕翔は急に空腹感に襲われていた。

 今日の夜は母親が不在だった気がする。今、立ち寄って行った方が、夕食を作る手間を省ける丁度いいタイミングだと思う。


「では、行きます」

「じゃ、今回は私が奢るってことでいい?」

「俺が奢りますから」

「いいよ、夏休みは手伝ってもらうんだし」


 夏川先輩は頑なに拒んでいた。

 しょうがないと思い、裕翔は引くことにしたのだ。

 今回は奢ってもらうとして、次は絶対に奢ろうと思う。






 店内は涼しい。

 パッと辺りを見渡すと、学生の人が一段と多く感じた。


 ハンバーガー店の受付のところには数人ほどで列を作り、待っている人がいたのだ。

 混んでいるからしょうがない。

 夏川先輩と、メニュー表のチラシを手に一番後ろの列に並ぶことにした。




「何がいい?」

「そうですね……」


 夏川先輩と一緒にチラシへと視線を向ける。


 基本的なメニューの数々。

 大まかなメニュー変更はないが、新しいメニューが、そのチラシにはのせられていた。

 夏季限定的な商品だ。


「そう言えば、先輩は何が好きなんですか?」

「やっぱりね、ハンバーガーなら、照り焼きかな」

「照り焼きは美味しいですよね」

「そうなんだよね。濃いめの方がいいっていうか。食べた気がするんだよね。裕翔って、普段、何を注文するの?」

「……チーズハンバーガーですかね」


 メニュー表に掲載されたハンバーガーの写真。

 何を見ても、美味しそうに思える。

 だが、一番好みなのは、チーズハンバーガーだった。

 ハンバーグも美味しいと思うが、やはり、チーズの味が癖になるのだ。


「チーズか。それもいいよね。今回はそっちにしてみようかな?」


 先輩は再び、注文内容を選び始めていた。


「……やっぱ、チーズで。それにする」

「いいんですか。照り焼きじゃなくて」

「いいの。それと、サイドメニューを決めよ」


 夏川先輩は流れるように話しを進めていく。


 サイドメニューなら、期間限定でチョコクッキー味のシェイクがある。

 他には、チョコバナナ風味のジュースもあった。


「期間限定ってのは、絶対に食べないといけない気がするのよね」


 先輩は悩んだ結果、購入することを決定した。

 裕翔も、先輩同様に注文する事にしたのだ。




 裕翔らの番が回ってきて注文を伝え終えるなり、二人は会計近くの待場で佇んでいた。


 それから二分後には商品をのせたトレーを持ち、女性店員がやってくる。


 裕翔が率先して、トレーを受け取り、二人で空いている席を探す。

 入店時は混んでいたのだが、今では意外とお客の数が少なくなっていたようで、簡単に席を見つけられた。


 丁度いい感じの席を選び、夏川先輩と向き合うように座る。


 先輩と一緒に食事をするのは始めてだ。




 それにしてもデカい。


「ん?」


 ハンバーガーを手にしている夏川先輩から首を傾げられる。


「い、いいえ、なんでもないです……」


 裕翔は首を横に振った。


 暑くてどうにかなっているのかもしれない。


 裕翔はジュースを飲んで気分を切り替えるのだった。




 やはり、先ほどから、先輩のおっぱいが気になってしょうがなかった。

 向き合いながらだと、なおさら、先輩の方ばかり見てしまう。

 裕翔は、また気まずげにジュースを飲んだ。




「それでさ、明日からの事なんだけど」

「は、はいッ」

「明日って、何時ごろに起きられる?」

「いつも通りでもいいですけど」

「だとしたら、十時ならどう?」

「大丈夫ですけど。普段通りに八時半でもいいですけど」

「そんなに焦らなくてもいいわ」


 夏川先輩はハンバーガーをトレーに上において、優しく返答してくれた。


「最初っから、大きな業務なんてないからさ」

「えっと、実際、どんな業務になるんですか?」

「それは、校舎の身の回りの雑草掃除とか。最初の内は、そういうのになると思うわ」

「本当に雑用なんですね」

「そうよ。今年は用務員の人もね、この暑さで少し多くのことをできなかったみたいで。その結果、私たちもやることになったの」


 そういう経緯があったのかと納得した。

 確かに、今年は例年に比べて暑い。

 用務員の人を無理させるわけにもいかないのだ。

 ここは一生徒として、先輩のためにも、今年の夏を乗り切って行こうと思うのだった。

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