第37部 “
「中身」のない本というのがあるらしい。「中身」のないアニメというのもある。こうしたことを考える際に重要なのは、まず、「中身」とは何かをきちんと定めておくことだ。それから、その「中身」を規定する「枠組み」がどのようなものであるかを見定めておくことも必要になる。
SFという「枠組み」が成された漫画の場合、これまで考えられなかった新たな科学技術が提示されているか、あるいは、その技術と人間の付き合い方に関する問題とその解が提示されているかなどが、「中身」の有り無しの判定の基準になる。つまり、この場合の「中身」のないSF漫画とは、新たな科学技術が提示されているわけでも、その技術と人間の付き合い方に関する問題や解が提示されているわけでもないもの、ということになる。
「でも、そうした要素がなくても、面白く感じられる漫画があることは確かだよ」シロップは言った。
「面白く感じられるか否かは、今は関係がない」ルンルンが答える。
「ところで、その『枠組み』があやふやで、定位できない場合はどうしたらいいの?」
「あやふや、という『枠組み』を設ける」
「言うと思った」
しかし、それでは「枠組み」という概念を据えた意味がなくなる。すべての「枠組み」は同じ次元に並ぶものであり、それより高次の「枠組み」、つまり「枠組み」の「枠組み」を設けると、次々とその連鎖が続くことになり、収集がつかなくなるからだ。SFという「枠組み」にも、現代ドラマという「枠組み」にも、どちらにも収まりそうにないからといって、SFも現代ドラマも含みうる高次の「枠組み」として見ることにすると、「中身」の有無の判定は困難になる。そして、そもそも「中身」によって「枠組み」があやふやに見えたはずなのに、どちらかの「中身」が欠けているという判定も起こることとなる。
「そうか。だから、その逆を辿って、作り手の側が先に『枠組み』を定位してしまうのか」シロップはブランコを漕ぎながら話す。対照的に、ルンルンは今はブランコに座っているだけで、漕いではいなかった。漫画を開いて目を落としている。
「『枠組み』に捉えられないようにするには、どうしたらいいと思う?」ルンルンが言った。
「最初からどんな『中身』も用意しないこと」
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