第33部 sa
サヤと名乗る少女の声は小さかった。しかし、特別小さいというほどでもない。声量の問題ではないかもしれない。音響に関する知識が足りないために、シロップにはそれ以上の表現は不可能だった。ただ、サイズからはほかの指標も連想されるから、イメージとして「小さい」というのであれば間違いないだろう。色で言えば濃度の「小さい」クリーム色という感じだった。
「貴女も、物の怪かもしれません」サヤが言った。「このドライバーは、物の怪の類です」
そのドライバーは、シロップの体内から出現したものだ。たしかに、本来物質を構成するルールから逸脱して現れた。彼女の身体を構成する物質の質、あるいは組み合わせが変化して、そのドライバーは生まれたことになる。
「物の怪だと、どんな問題がある?」シロップは質問した。
「問題、はないと思います」サヤは社の中を覗き込みながら答える。「先ほども言った通り、物の怪に存在する理由はありません。ただ、少しルールから外れているだけです。でも、ルールに例外は付き物です。そして、ルールを見出すのは人間です。世界はルールを見出されるようにはできていません。つまり、そもそも、人間の観察とは無関係に世界に順当なルールが存在するかどうか分かりません」
「人間の見方によって、物の怪かそうでないかが変わるということ?」
「そうとも言えます。しかし、私は、物の怪は物の怪として扱うべきだと思います」
「なぜ?」
「私には、そのルールが確かな実感を伴って存在しているように感じられるから、でしょうか」
ルンルンは物の怪だとシロップは思った。
自分も物の怪かもしれないとサヤは言った。
そうなのだろうか……。
「この社は、物の怪をそのルールに適用させるためのものです」サヤが話した。「言い換えれば、物の怪を物の怪でない一般的な存在に戻すためのものです」
「その修理のために、物の怪であるドライバーを使っているの?」
「直れば、何でもいいので」
「直りそう?」
「直りました」
社の中から頭を出して、サヤはその木製の扉を閉める。小さな鍵のようなものをかけた。
「どうもありがとう」そう言って、サヤはシロップにドライバーを返す。シロップはそれを受け取った。「何か、お礼ができますか?」
「お礼?」
「バームクーヘン、食べますか?」
「え?」
そう言って、サヤは背後から透明の袋に包まれた焼き菓子を取り出す。円形の内の一ラジアンほどが欠けていた。食べている途中のようだ。
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