第14部 i

 いつの間にか、三ヶ月と二週間が経過してしまった。ルンルンと一緒にいると、時間の流れ方が変わるようだ。あくまで、流れ方が変わるだけだから、速くなるのか遅くなるのかは、今のところ不明と言わざるをえない。今回は速くなったらしい。


 しかし、時間などというものは、本当に存在するのだろうか。そもそも、時間とは、存在という姿をとるものなのだろうか。自分の感覚を優先すれば、時間とは非常に気紛れなもので、速くなったり遅くなったりする。時計を信じなくなれば、時間とはそうした性質を持つものになる。逆に言えば、時計があるから、時間が流れる速度は一定だと思えるのだ。


 そうか、ルンルンは、時計を持っていないのかもしれない、とシロップは思いついた。だから、何でもできるのだ。時計を持たないことが、時間からの解放に繋がるのかもしれない。そして、時間からの解放は、同時に、死からの解放を意味する。そして、死からの解放は、生からの解放に違わない。


「変な理屈」


 隣に座るルンルンが言った。二人は、今は丘の上の公園にいた。ブランコに並んで座っている。シロップはとても漕ぐ気にはなれなかったが、ルンルンは大変な速度で前後に揺れていた。


「私って、変な理屈しか立てられないんだ」シロップは応える。「それって、もはや理屈と呼べるのかな? ある対象とある対象を結び付ける、その結び付け方が、おかしくなってしまうんだと思う。だから、人に理解されないことって、けっこう多いよ」


「私、そういうの、大好き」ルンルンが言った。「理解なんて、しなくていいんだよ。どうでもいいじゃん。理解できなくても、されなくても、誰かと一緒にいることはできるんだよ」


「でも、それって、おかしくない? 理解できるから、一緒にいられるんじゃないの? 何を介して繋がっているの?」


「何か」ルンルンはブランコを漕ぎながら答える。


「何か?」


「でも、その何かは、きっと永遠に分からない。だから、それを的確に表わす言葉は、いつになっても生まれない。何か、としか言えない。私は、その何かが欲しいんだ。貴女も、それを求めているんでしょう?」


 どうだろう、とシロップは考える。言われてみれば、そんな気がしないでもない。


 でも、そうだとすれば、自分は、誰と、あるいは、何との間に、その何かを求めているのだろう?


 そう考えて、しかし、すぐに思いついた。


 そのすべてだろう。


 つまり、世界との間に、その何かを求めているのだ。

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