第12部 ga

 外気に触れると、涼しい風が心地良かった。気分が徐々に晴れていくのを感じる。一時的に高い負荷がかかり、それから解放されたことで、それ以前にかかっていた微量な負荷ごと、さっぱり消えてしまったみたいだった。


 道路が微妙に湿っているように思える。しかし、雨が降ったわけではないようだ。けれど、もしかすると、雨が降ったのかもしれない。思い出せなかった。ただ、今、目の前にある道路の濡れは、雨によるものではない。なんとなくだが、シロップにはそう思えた。


「どうして、私の邪魔をするの?」


 後ろを振り返って、シロップは尋ねた。


 その先にルンルンがいる。


 彼女は、今は、シロップとは異なる姿をしている。


 ベレー帽を被り、ジャケットを羽織って、腕に銀色のブレスレットを付けていた。


 しかし、その姿も、次の瞬間には変わってしまうかもしれない。


 ルンルンはしゃがみ込んで、玄関の前に置かれている植木鉢を覗いている。


「別に、邪魔をするつもりなんてないよ」ルンルンは応えた。「でも、人の邪魔をするのって、面白くて、楽しいよね」


「そう、かな」


「面白くて、楽しいことをしたいんだ、私」


 シロップはルンルンを傍観する。その視線に気づいたのか、ルンルンは顔を上げて、こちらを見た。


 目が赤く光っていた。


「ちょっと、出かけようよ」こちらに近づいて、ルンルンは言った。彼女は下からシロップの顔を見上げる。「楽しいことをしたいんだ」


「出かけるって、どこへ?」


「どこへでも」そう言って、ルンルンはシロップの身体を抱き締める。「デートってこと」


 シロップは小さく溜め息を吐いた。けれど、それが何に起因するのか分からなかった。そして、ひょっとすると、そういう自分を演じたいことによるのかもしれない、と思いついた。なんとなく、その可能性が高いような気がする。


「うん、まあ、じゃあ、いいよ」


「やったね」シロップの身体を抱き締めたまま、ルンルンは飛び跳ねる。


「でも、それなら、デスクに言わないと」


「いいよ、そんなの。面倒だし」


「いや、駄目」


「なんでよ」


「心配かけたくないから」


「貴女のことなんて、心配してないよ、きっと」


「心配をかけるんじゃないかって心配する自分が、嫌なの」


 シロップがそう言うと、ルンルンは不服そうな顔をした。


「ふーん」ルンルンはその場で二回転する。「じゃあ、行ってくれば?」


 ルンルンに身体を離してもらい、シロップは家の中に戻る。


 部屋に入ると、すぐにデスクの声が聞こえた。


「オジョウサマ。ドコニイッテイタノデスカ?」デスクが言った。


「うん、ちょっとね……」シロップは応える。「あのね。ちょっと、出かけてくるから」


「ドコヘデスカ?」


「うん、ちょっと」シロップは答えた。「ちょっとね」

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