逃げよう
ベネットが騎士団に連れていかれ、何時間経っただろうか。俺は一人で宿の部屋にいた。
ベネットがいない部屋は静まり返っているが、落ち着かない。
きっと、あいつの事だから、並みの騎士に酷い目にあわされることはいだろう。あの場にいた隊長クラスの騎士程度なら、何人いてもベネットに傷を負わせることは出来ないはず。
だが、騎士団長が出てきたなら話は別だ。この国を守る11騎士団のトップで、イセカイ王に力を授かって、人智を超越した戦闘力を持っているらしい。
真偽の程は定かではないが、その剣閃は一撃で山を砕き、海を割るとも言われている。いくらベネットが強くても、まだ騎士団長クラスには勝てないだろう。どうにかして助け出さなくては……。
ベッドに横になり、ぼんやり買い物袋を眺めていると、ドアの隙間からシュルシュルと糸状の物が入り込んできた。
その糸状の物は一か所に集まると、みるみるうちに人型になり、美しいベネットの姿になった。
「おま……、無事だったのか?」
ベネットはニッコリ笑って答える。
「うん、この通り」
「よく逃げられたな。魔力を封じる魔道具を嵌められていたのに」
「騎士団に連れていかれたアレは、菌糸で作った偽物だよ。騎士団の気配を感じたから、偽物を作って本体は気配を消して潜んでいたんだ。今、偽物は牢に入れられているけど、きちんと調べられたらすぐにばれるだろうから、今すぐこの街から逃げよう」
ベネットは真面目な顔で俺の手を引くが、白い肌のすべてがあらわになっており、目のやりどころに困る。
「ちょ、待て待て、お前、素っ裸じゃないか」
「あの黒い服は、偽物に着せているから……」
「あ、そうか」
「買い物しているとき、騎士団が迫ていたのを感知していたから、買い物が終わった後に黒い服に着替えたんだよ。ウィルに買ってもらった服を、一着でも無駄にしたくなかったんだもん」
だもんって……。かわいいが、裸で外を歩かせるわけにもいかんよな。
「とりあえず、買ってきた服を着てくれ」
ベネットはベッドに座っている俺の膝に座って、体を擦り付ける。
「でもさ、このまま服を着てもいいの?」
ベネットの美しい体を見て反応してしまった俺の一部分に、ベネットは手を伸ばして握る。
「速く逃げないといけないんだろ?」
「大丈夫だよ、ウィルって早いから」
「一応言っておくけど、それ、誉め言葉じゃないからな」
「そうなの? どっちでもいいや、早く頂戴」
速く逃げなければと思いながらも、ベネットのかわいいおねだりに負けてしまうのだった。
* * *
またも、年甲斐もなくハッスルしてしまったが、思ったより疲労感は少ない。さぁ、騎士団に囲まれる前に街から離れなければ。
二人してコソコソと宿の外に出る。そのまま闇夜に紛れて、誰にも見つからないように街の外に出ることができた。
俺は、楽しそうに軽い足取りで歩くベネットを見た。
「これからどうする?」
「人間のいない山奥にでも行って、二人っきりでスローライフしない? 私はウィルさえいればどこでも幸せになれるから」
そう言ってベネットは嬉しそうに笑っている。
「嬉しい事言ってくれるねぇ。俺もベネットと一緒ならどこでも楽しめそうだ」
二人で笑いながら話していると、突然近くに赤く輝く魔法陣が現れた。
あれは転移魔法陣! 超上級魔法で、使用できるのは最上位の魔術師のみだ。当然それを使用し移動してくるとなれば、最上位の実力者という事になる。ベネットを討伐する為に、騎士団長クラスの実力者が動いたってのか?
俺とベネットは緊張し身構えていると、魔法陣の赤い光の中に人影が浮かぶ。
魔法陣が消えた後に立っていたのは、20代前半と思われる若い男だった。
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