幼馴染との配信チャンネルをクビになった俺が、RTA配信を始めたら有名になった話

三口三大

第1部 サスケRTAチャンネル

1. クビ

 飛車成佐助ひしゃなりさすけは、生まれたときから飽きっぽい性格で、毎日刺激に飢えていた。だから、10年前にダンジョンが出現した時、刺激に満ちた光景に一瞬で心を奪われ、ダンジョン探索をすることが夢になっていた。そして大学へ進学すると同時に冒険者の免許を取得し、幼馴染の氷雨心ひさめこころに小言を言われながらも、毎日ダンジョンで過ごすようになった。


 そんなある日、心ともう一人の幼馴染である茶羅紀夫ちゃらのりおとご飯を食べているときに、紀夫に言われた。


「佐助ってさ、ダンジョンに詳しいんでしょ?」


「ん。まぁ」


「ならさ、ダンジョン配信ってやつをやってみないか? 最近、人気なんでしょ」


「最近というか、2年くらい前からかな。でも、何するの?」


「心と俺でカップル配信とかどう?」


「はぁ? 絶対に嫌なんだけど」


「いやいや、本当のカップルじゃなくてさ、友達的なやつだよ。そういう幼馴染同士でやる配信って人気があるんだ」


「佐助は何すんの?」


「撮影とかどうよ」


「撮影は別に良いんだけど、ただ、ダンジョンって思っているより危険だよ?」


「その辺は、佐助が何とかしてくれよ。詳しいんだろ?」


「私は絶対に嫌」


「まぁ、そう言うなって。配信がうまくいけば、バイトなんかしなくていいくらい金が手に入る」


 佐助の目の色が変わる。バイトをしなくていいのは魅力的だった。心に目配せするも、睨み返されたので、拝み倒す。すると心は、呆れたようにため息を漏らした。


「友達としてなら良いわ。あと、変な企画は絶対にやらないから」


「ありがとう! 2人とも」


 こうして3人によるダンジョン配信が始まった。最初は佐助が動画を撮って、編集する係を担っていたが、徐々に紀夫の彼女や友達が担うようになり、佐助の主な仕事は、ダンジョンの案内と配信時の安全確保になった。佐助としては、動画や編集の時間をダンジョン探索に使うことができるようになったので、喜ばしいことだったのだが、それが紀夫の策略だったことに気づいたのは、配信を始めてから半年後のことだった。登録者が8万人を突破し、徐々に軌道に乗り始めた頃、紀夫に呼び出される。


「佐助、お前は今日でクビだ」


「……何で?」


「お前の仕事が無いからだ」


「いや、ダンジョンの案内とか、撮影時の安全確保とかあるけど」


「ふん。それくらいの仕事なら、佐助である必要はない。俺の友達に、そういうの詳しいやつがいるから、そいつに頼めばいいかなと思っている」


「ちなみにその人は、どういう人なの?」


「レベルは42で、ジョブは剣士だ。これまで多くのモンスターを倒しているらしい」


 佐助は呆れてしまった。紀夫はダンジョン配信時の安全確保を勘違いしている。ただモンスターを倒せればいいというものではない。罠の位置だって把握しておく必要があるし、安全なルートをあらかじめ考えておく必要がある。しかし、この男にそれを説いたところで無駄なことは目を見ればわかる。絶対に自分を辞めさせるという強い意志を感じた。何が、この男を突き動かしているのだろうか。


(……心か?)


 紀夫が心に対して気があることは気づいていた。だから、このクビも心の気を引くための策なのかもしれない。


(こんなやり方で、心がなびくとは思えないけど。っていうか、こいつ彼女いるじゃん)


 下半身で物を考え、それを実行できる行動力は素直に感心するが、もう少し冷静に考えた方が良いのではないかと思う。


(っていうか、心はどう思っているんだろう?)


 この話を知っているのだろうか。


「心には言ったの?」


「賛成してくれたよ」


 佐助は戸惑う。あの幼馴染が自分に相談もなく、クビを了承するとは思えない。となると、考えられるのは、紀夫が嘘をついている、もしくは心に考えがあるか。いずれにせよ、私情を優先しているこの男と、これ以上付き合うだけ時間の無駄だ。


「わかった。辞める」


「その言葉が聞けて良かったよ」


 にゅっと笑う目の前の男を見て、佐助は、彼が自分の知る幼馴染ではないことを悟った。




☆☆☆




 紀夫と別れてから、佐助はいささか早計な判断だったと後悔する。ムカついて、その場で辞めることを認めたが、心に一度相談すべきだった。


(まぁ、でも、心なら大丈夫だろう)


 心とは物心ついたときから一緒だった。2人ともド田舎で生まれ、お互いの家は500メートルくらい離れていたが、その距離はさほど問題ではなかった。幼少の頃は、一緒にお風呂に入ったし、小学生になると、互いの親よりも長い時間を過ごした。中学校では夫婦と茶化されたりもした。同じ高校に進学し、大学も同じで、アパートの部屋も隣同士。恋人ではないが、恋人以上の関係だと思っている。ちなみに紀夫とは、中学生になった辺りから馬が合わなくなっていたので、今でも関係が続いていたのが不思議なくらいだった。


 家に到着。扉を開けると、心の靴があった。合鍵を渡しているから、彼女はいつでもこの部屋に入ることができる。


(でも、何で電気を点けていないんだ?)


 曇りガラス越しに見える室内は真っ暗だった。扉を開けると、やはり暗かったが、心の存在を示すシルエットが闇の中にぼんやり浮かんでいた。電気を点ける。金髪でツインテールの心が、ベッドの上に座り、顔を伏せていた。


「どうしたんだよ、電気も点けずに」


「……ねぇ、私に何か言うことないの?」


「ああ、その件なんだけど――」


 と言いかけて、心に睨まれた。ガチギレの雰囲気。佐助が戸惑っていると、心は佐助の前に立った。そして、鋭い眼光で佐助を再び睨む。


「どうして、私に何も相談してくれなかったの?」


「そのことなんだけど」


「佐助のこと、信じていたのに」


 心は佐助を押しのけ、玄関に向かおうとしたので、佐助はその手を掴む。


「ちょっと、待って。話を聞いて」


「嫌だ。佐助と話すことなんて何もない」


 ここで無理に引き留めても、建設的な議論ができないことは経験上わかっている。だから、手を放し、心を見送ることにした。


(……まぁ、そのうち機嫌は直るだろ)


 一緒に過ごす時間は長かったが、いつも仲良しというわけではない。たまには喧嘩だってする。ただ、その場合も、時間をおいて、お互いに冷静になることで問題を解決してきた。だから今回も、時間が2人の救いになると思った。


 しかし、翌日になって佐助は理解する。今回の件に関しては、その限りではなかった。

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