第18話 強い敵だ。わーい。
早朝の朝日を浴びる『魚心号』では仕事終わりの一言が放たれていた。
「長旅、ご苦労様でした。決して安全でない旅で危険な事も多々ありました。ですが今回も皆のおかげで航海は無事に終わり、故郷の地に貴重な品々を届ける事が出来ます」
海色の長髪を纏める様にバンダナを巻いた『魚心号』の女船長――ココロは『港城下』へと停船した『魚心号』の船員達へ労いの言葉をかけていた。
「荷降ろしは町の商人の方々がやってくれます。チェックは私とサイカで行いますので、此度の賃金を受け取り、各々家族に無事な様を見せてあげてください」
一人、金貨30枚を手に船員達は船を降りる。
『魚心号』はジパングの近海を取り仕切る当主の娘――ココロが運営する国外長距離航海船である。
外航は長期の船旅に加えて、多くの海獣に襲われる危険からも、戻ってくるのは五隻に一隻ほど。
最近は『魚心号』しか行き来しておらず、事前に受けた注文や運ばれてくる荷はかなりの高額で取引されていた。故に35人の船員一人一人に金貨30枚を支払っても十分な利益が出る。
「アランさん、ユキミ」
ココロは『魚心号』の側面を開いて荷降ろしを始める架け板から、船を降りようとするゼウスの面子を呼び止める様に駆け寄った。
アランが気付き対応する。
「世話になったな、船長。忙しそうだから挨拶は良いかと思ってよ」
「お気遣い感謝します。私からはこれを」
ココロは金貨の袋をアランとユキミに差し出した。
「金貨20枚が入っています。航海に協力させてしまった手前、少なくて申し訳無いのですが……」
「良いのか? 俺たちは『
最後に仕留めたのも『宵宮の弓』である。
「貴殿方がいらっしゃらねば、死者が出ていたかもしれません。命をかけて頂いた代金としましては……安いと思いますが」
「いやいやいや。まぁ、そう言う事なら貰っとくぜ」
「ユキミも」
「…………」
受け取るアランとは対照的にユキミは受け取らず考える様に硬直する。
「ユキミ?」
「ユキミノ旦那?」
その様子にゼウスとゴーマも視線を向けた。
「僕はいいよ。アランにあげる。それじゃ」
そう言うと踵を返して、そそくさと架け板を降りて行った。
「なんだ? アイツ」
「……アランさん。ユキミに渡して貰えますか?」
「構わんが……」
代わりにアランがユキミの分を受け取る。
ここ『ジパング』はユキミの故郷であり、ココロとは何かしらの関係があるのだとゼウスは察した。
ありがとー。と手を振って町中へ行くゼウス達へ手を振るココロは、最後までユキミが眼を合わせずに歩いて行く背中を見る。
「お嬢様。彼は無理ですよ?」
そのココロへ、付き人兼『魚心号』の幹事役である、大女のサイカは後ろから声をかける。
「……解っています。彼の道は私とは交わりません」
ココロは『魚心号』の船長室へ、此度の航海日誌を取りに向かった。
「……やれやれ」
サイカは、ココロが幼い頃からユキミに抱いていた恋心がまだ残っていると察し、どうしたものか、と嘆息を吐いた。
「ゼウス、まずはどうする?」
早朝から朝の賑わいが始まり出した『港城下』では『魚心号』の帰還による物資を噂する町民達の声があちらこちらから聞こえる。
「アラン、まず大前提として意識して欲しいの」
「何をだ?」
「『創世の神秘』にとって、欠片を分けて貰うと言う事は己の身体の一部を削る行為なの。それを承認して貰うにはそれ相応の理由が必要になるわ」
「貢ぎ物でも持っていけばいいのか?」
アランもタダで貰えるとは思っていない。要求された事にはそれなりに応えるつもりだった。
「『始まりの火』が求めるモノは『物語』。聞いたことも経験したこともない『物語』だけが、彼女にとって価値のあるモノなの」
「『物語』か。それって、俺が経験した事でも良いのか?」
「もちろんよ。だからアランなら『始まりの火』を満足させられる『物語』を語れると思うわ」
「しゃーねぇな。アスラと、このブレイカーを賭けた世界を救うダンスバトルの話でもしてやるか」
とっておきの話題は幾つかあるが、予想のつかない話はこれ以上に無いだろう。
「旦那ノ『ブレイカー』ハ『魔王』カラ手ニ入レタンデスネ」
「ゴーマは『魔王アンラ・アスラ』を知ってるの?」
「会ッタ事ハ無ェガナ。『魔族』ノ間ジャ、超有名人ダゼ。無類ノ武器コレクターッテ話サ」
と、アランを陣頭に『宵宮』へ向かって歩き出す一行。すると、足を止めるユキミにゼウスは気づく。
「ユキミ? どうしたの?」
「……ごめん、僕は少し別行動を取るよ」
そう言って、返答も聞かずに別の道へ歩いて行った。
「ユキミノ旦那、『ジパング』ニ来テカラ、オカシイデスネ」
「まぁ、故郷だしな。知り合いとか家族とかに積もる話もあんだろ」
ユキミが
しかし、ジパングは島国であり航路の安全性も確立されていない。外へ出れば二度と戻れない覚悟が必要な国と言う事はゼウスも理解する。
「アラン、ゴーマ。
もしも、ユキミが出家した事で肉親との問題があるのなら、それを解決してあげたいと思っていた。
「そうだな。後で弟分の為に力を貸してやるか」
「ユキミノ旦那ニ悩ミハ似合マセンカラネ」
強い敵だ。わーい。
そう言って不敵に笑うユキミこそが、彼らしいと三人は笑い合った。
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