チートがない!

沙羅双樹

第1章 始まりの地

第1話 異世界への憧れ

 異世界ものはひたすら読み漁った。


 漫画も小説もアニメも映画も。主人公がチート能力を授かって、爆速でレベルアップしたり、気がついたらSSランクの敵を物語り序盤で倒して、気がついたら最強になっていたり、伝説級の武器や防具を最初からもらっていて、失われた古代魔法を無制限にぶっ放したり。


 魔王が復活する世界は荒れていて、貴族が農民から搾取している中世程度の技術をもている世界で、主人公は現代知識を活かして無双して、新しい技術を金に変えて、お金を心配することなく旅を続ける。


 アイテムボックスやストレージは無制限に物を収納できて、時間が止まった空間では、料理は温かいままストックできるし、空間魔法は一度行った街まですぐに移動できる。


 物語の中で出てくるギミックは、正直いうと一つでもこの世に存在したら、「この世界」のパワーバランスが崩れちゃうものだといつもツッコミながら読んでたけど、いいんだよ。それが楽しいんだ!


 仲間の危機には主人公が「みんな待たせたな!堪えてくれてありがとう!」と言って、神域の防御魔法で仲間を守り、敵にはカウンターで最高位魔法を放ち一気に形成逆転する。


 心理的カタルシスなんだよ!!!ここで一発逆転!来るとわかってても主人公が仲間を助けるシーンは面白いんだけ!


 僕だって、異世界に行ったらチート能力を神様から授かって、現代の知識と規格外の力で無双して、可愛いケモミミの女の子の最高のパートナーができて、街道で盗賊に襲われてる第三王女あたりを助けて、美人の騎士団長と手合わせして勝って惚れられて。


 もちろん冒険者ギルドの受け付けのお姉さんと仲良くなるのは鉄板だよね!



 そんな異世界に憧れる僕は17歳になったばかりの高校2年生。成績は中の上くらいで好きなことの勉強は大好きだった。運動は体力には自信があるが球技は全くダメ!


 小さい頃から地図を眺めるのが好きで、妄想で地図を描いたりしていた。それと祖父が田舎で農夫をしており、祖父の田舎に遊びにいくたびに、いろんなことを教わった。


 自然と地図と社会の繋がりに興味をもち、大きな文明が大河を中心に発展のは水路を利用した物流の発達が社会の発展に寄与したとか、文化の流行は都市圏から物流の速度で広がっていくなど、地図と文化の関係が興味深く、そのおかげで様々な国の文化を図鑑や辞書、百科事典を読み漁って勉強したおかげで、社会の成績と英語の成績はそこそこよかった。


 部活は陸上部に所属してるので、走るのは好きで体力だけには自信があった。


 僕のいる高校の陸上部は伝統的に男子は十種競技(デカスロン)と言って、複数の競技を同じ日に行う大会向けの練習をしていた。高校生までは八種競技(オクタスロン)が正式種目なのだけど、「将来的にオリンピックを目指すなら十種競技だろ」と脳筋顧問のおかげで、皆強制的に十種競技全部やらされた。

 

ただそのおかげで、槍投げ、円盤投げ、砲丸投げなどの投擲とうてき競技に縁がなかったのだが、体の作りを覚えるいい経験になったっけ。


 まあ、まあ、こんな具合に、普通の高校生でストイックに勉強と運動を頑張ってたもんだから、女っ気なんか全然なくて、部活に入ってきた新入生の可愛い女の子に「先輩ってすごく優しいですよね!それ以外何もないですけど♡」なんて馬鹿にされてるのに女子免疫ゼロだから喜んじゃう情けない男である。


 ラノベ大好きで小説もアニメも漫画も片っ端から読み漁って...あ、それはもう言ったか。なのに、コミュ障かつ人混みが苦手でコミケに行く勇気もない。全てにおいて中途半端な男はせめて女の子に優しくするくらいしかないんだよ。


 こんな中途半端な人生なんて早く終わらせて次の生では異世界に転生して貴族の三男くらいに生まれ変わって、可愛い妹なんている人生をぜひ期待したいものだ。


 そんなことを毎日妄想しながら、神様に祈って眠りにつく。願わくば明日起きたら見知らぬ草原にいて、夢と希望に満ちた世界が待っていますように。そうして希望も夢もない日常から飛び出して剣と魔法のファンタジーの冒険が始まるんだ。


 そう。僕が英雄になる物語の幕開けだ。と自分に言い聞かせて。


 ただ現実はそんなに甘くない。毎日変わり映えのない日々と、勉強と部活に明け暮れる毎日。『僕が異世界に行ったら』どんな冒険するかな。なんて妄想はいつも僕を楽しませてくれる。


 仮に僕がひとつしかチートをもらえなかったら?

 ・無限収納スキルで商人になって金を稼ぎまくる!

 ・獄炎魔法を究極まで極めて、上位モンスターを狩りまくる!!

 ・上級ヒーラーになって王国の危機を救う!!!

 ・鑑定スキルで優秀な人材を見つけて両地経営!!!!


 なんでもいいんだ。一つでもチートがあれば、僕の世界は一気に色鮮やかに変わるんだ!そのチートスキルを武器に世界を渡り歩いてやる!そう、異世界への憧れ。それはチート能力が伴って、無双する爽快感と対になっているのだ。


 見知らぬ世界で待つ冒険。色鮮やかな煌びやかな世界。


 そんな異世界への憧れに満ちた僕の心は、とうとう上限を振り切ってしまったようである。















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