6. 再び客室にて

 部屋に戻ってきて、再び2人きりになれた。

 ゆったりと畳に座り込んだ櫻子はまだ顔がほんのりとあかくて、その無防備な姿に私はもう突き動かされてしまう。

「櫻子!」

 櫻子に寄り添うように座り込んで、下ろされた櫻子の髪をかき上げて、その首筋に口づける。

 櫻子の首筋と胸のどちらからも櫻子の鼓動を感じて、私はさらに櫻子を求めてしまう。

 首筋を吸われるがままの櫻子ははぁはぁと息が荒くなっていく。

 櫻子の吐息が顔にかかって、私はどんどん抑えが効かなくなっていく。

「んっ……あっ……琴葉……それ以上は……駄目よ……。」

「どうして、ですか……。」

「琴葉、それ以上続けたら……私も貴女も、後戻り出来なくなるわ……。それだけは……。ああっ……。何としても……。本当は私だって……貴女が欲しい……。んっ……でも……。」

 突然、櫻子に無理矢理引き離された。

「櫻子……。なにするんですか……。」

「はぁ、はぁ……。その先には行かせないわ。……私は貴女の先生だから。……大丈夫よ。もう私は……琴葉のものだから。」

「なんで、そのさきは、だめなんですか。」

 涙が出てしまう。どうして。こんなに櫻子が好きなのに。

「泣かないで、琴葉。これだけはね、貴女が卒業して私の教え子じゃなくなってからにして欲しいの。……これは私の責任だから。」

「まだ、物足りないです。……どうして、こんなに私は、櫻子が欲しいんでしょうか。」

 私の言葉に櫻子は、困ったように笑いながらも私に微笑んでくれた。

「琴葉がこんなに私を求めてくれるなんて。……もうすぐに貴女と結婚したいくらいだわ。」

 け、けっこん!

「今の法律上では、同性同士では厳密にはパートナーシップというやり方しかなくて。それは男女の結婚とは大違いで受けられる補助や保証される権利は男女のそれよりも限られているの。それでも私は……琴葉がいいわ。」

「櫻子。それは。」

「でもごめんなさいね。今は結婚なんてもっての他。私は琴葉の先生で、琴葉は私の生徒だから。それに、私は貴女を満足に食べさせてあげられるほど稼げているわけではないの。自分が食べて家賃を払って老後に備えて、琴葉にはたまにこうしてデートのお金を持ってあげることくらいしか出来ない。そして。」

 櫻子が真剣な表情に変わって私を見つめる。

「琴葉には、自分だけで生きられるように力をつけて欲しいの。もしも私と結婚して、私が死んじゃったりお仕事が出来なくなったりしたとしても、私に頼りきりじゃなくて琴葉が一人でもやっていけるようになって欲しいの。健康に元気に私が働いていても、2人で暮らすには足りないの。……ごめんなさいね。2人で幸せに暮らしていくためにも、琴葉にはまず、自分で食べて生きていけるような力をつけて欲しいわ。……だから。」

 櫻子が私を抱き寄せて言葉を続ける。

「琴葉が高校を卒業して大学に入って、そうして琴葉のご両親からお許しをいただけたら、同棲しましょう。そして、琴葉が大学を卒業して就職して、落ち着いたらその時に……。」

 櫻子がすぅはぁと息を吸って吐く。

 櫻子は私の目を見つめて、私の手を握って告げる。

「私と、結婚してくれるかしら。」

 ……あたまが、おいつかない。

 つまりこれって。先の話とはいえ櫻子からのプロポーズだよね!?

「そ、そのっ。今のって……プロポーズ……ですか……!」

 櫻子は照れているのか、柔らかく笑っている。

「すごく未来の話だけれど。ええ。……もうその時には、私は35歳になってしまってるわね。それでも、琴葉が、私が良いと言ってくれるなら、もう私は、ずっと、琴葉に添い遂げるわ。」

「櫻子。……歳なんて、関係無いです……! 私は、櫻子が良いんです。貴女が好きです! だから……ずっと一緒にいたいです……!」

 昂ぶってくるこの気持ち、もう櫻子に伝えちゃえ!

「あのっ。そのっ。私が就職したら……櫻子と結婚したいですっ!」

「琴葉!」

 櫻子が私を抱き寄せて口づけて、その舌で私の唇を撫でていく。

 甘く、激しく、刻みつけるようなそのキスは、私がもう櫻子のものだと示すかのようだった。

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