12限目
前、中、後編の後編です。
次からアーリャ視点に戻ります。
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私はアーリャに呼び出された中庭に向かっている。
既に日は落ちかけて夕方だ。この時間、校舎には上手い具合に人気は無いはず。
歩きながらアーリャが一体何の用で呼び出しているのかを想像しながら……たとえ貴族の立場を得ようとたかだか男爵が学園長の後ろ盾を持つ私をどうこう出来るわけ無いと……恐れる自分の心を鼓舞しつつ足を進めた。
既にアーリャは待ち合わせの場所にいるようだ。私は意を決して踏み出すと……
「来たわよ、一体何の用……って決まっているわね」
……精一杯虚勢を張ってゆとりがあるような態度を見せた。
「よく来て下さいましたキャレルさん」
私と違い腹立たしいほど落ち着いた様子で返事をするアーリャ。
「言っておくけど私に何かあれば学院長が黙っていないわよ」
「人聞きの悪い事を言わないで下さい。わたしは誰かと違ってジョブの力でキャレルさんをどうこうしようなど思いませんから」
くっ、初めて会った時のことを持ち出してくるなんて……
「っっ、嫌味な子ね」
「嫌味だと取れる自覚があって何よりです」
ああ言えばこう言う……この子は口が上手い。まともに口げんかで勝負なんかしては駄目だわ。
「とりあえず聞きたい事はバロウさんから学院長に乗り換えた事の確認ですかね?」
「カマをかけようとしても分かるわよ……でもいいわ、教えて上げる。そうよ、ジョブの力で学院長が見つけた優秀な生徒の立場を手に入れたわ」
やっぱり気付いていたようね。まぁ、それはすぐに気付くか。私は相手の意図を探るために会話を続ける。この子の目的は一体なんなの? ……会話の応酬はやがてその答えに辿り着きそうだ。
「でも、学院長をジョブの力を使って相棒にしているのはいいとして、第二王子マクシス様まで同じようにするつもりなの? マクシス様を相棒にしたら学院長は元に戻ってしまうんじゃ無いですか?」
「やっぱり気付いていたのね……私のジョブの能力が上がったからよ。今わたしの『相棒』は
私は牽制を兼ねて自分の能力が上がったことをアーリャに教えた。あなたも少しは怖がりなさいよ。
「わたしがキャレルさんを呼んだのはお願いがあるからです」
やがてアーリャは話の本題を切り出してきた。何この子!! 事もあろうに私の王子様を狙っていると臆面も無く言い放ってきた。
「は? 後から来て人の狙っている男を奪おうって言うの」
さすがに人の男 (予定)をどうどうとロックオン宣言にボルテージが上がってくる。
「マクシス様が誘拐される前から私はこの学院で彼を狙っていたのよ。後から一目惚れでしゃしゃり出られても不愉快だわ」
「わたしがマクシス様をお慕いしているのは3年前からです。そもそもわたしが商人として成り上がったのはマクシス様とお近づきになるためです」
私は自分の男 (予定)を泥棒猫のように掻っ攫おうとしている目の前の女にムッとした。私の計画をまた邪魔しようだなんて許せない!
「だから何よ、自分が先だから私に引けって言うの? 私を助けてくれなかったのにずいぶん都合の良い言い分ね」
「あなたを望んだとおりに助けなかったのはわたしを騙して『相棒』に仕立て上げようとしたからですし、そんな事をされたにも拘わらず生活に困らないくらいの援助をしてあげたと思いますけど、これってわたしが文句言われる事ですか?」
「いちいち嫌みったらしい子ね……嫌よ、私には私の計画があるんだから」
私はもうこれ以上この世界で奪われたり諦めたりするのは嫌だ。二度とひもじい思いをしてたまるもんですか!!
「それを押してお願いです。今は記憶を失ってしまっていますが、彼とわたしは互いに想い合っています」
「はい? それあなたの妄想なんじゃないの?」
事もあろうに私の男 (予定)と両思いだとか言ってきた。やだ、この子そういう思い込みの激しいヤバイ子だったの!? 悪いけどそんな痛い女とは距離を置きたいわね。
「妄想かどうかは記憶が戻ればハッキリします。いまその記憶を戻す方法を探している最中ですし、この事は王家にも公認されています。この行動を妨げる権利はキャレルさんにはありません。それにその記憶を戻すに当たって本人の意志をねじ曲げてしまうキャレルさんの能力が使われるのはマクシス様にとって危ないかも知れないですから止めて欲しいのです」
「ずいぶんな言い方ね……気に入らないわね」
そんな嘘の理由を……王家の名を出してまで私を邪魔しようって言うの? むしろあなたが不敬罪で断罪されるべきよ。
「それでもお願いします。お金で解決できることなら、わたしが今後マクシス様の記憶を戻すために支障が出ないレベルまでならお支払いしますから」
何を今更……あの時は助けなかったのに狙っている男を手に入れるためにお金を出すって? この子は何処まで私を惨めにさせたいの……脳裏に役立たずだ穀潰しだの罵倒してきた両親に、財産を奪っていった悪徳商人の顔が浮かぶ……もう上から馬鹿にされたり奪われたりするのはこりごりだ。私は自分の欲しい物は自分で手に入れる。
「……やっぱり嫌よ」
「どうしてですか? この世界基準ですが一生贅沢出来るくらいの事を言っても良いんですよ?」
「だって、私の能力があればもうあなたに頼らなくたってお金なんて自由になるもの。それよりもお金で手に入らない物が欲しいの」
「それがマクシス様だと言いたいんですか?」
「それだけじゃないわ、私の能力があればこの国だって思いのままよ」
私の感情の爆発を抑えられなかった。それでもいい、今はこの女に財力で人を思い通りに出来ないって分からせてやるんだ。
「わかりました……キャレルさんの考えはよーくわかりました。それならば遠慮はいりませんね」
「ふん、最初から遠慮するつもりは無いわ」
「キャレルさん……あなたはわたしの敵です。今後は容赦しません」
「こっちのセリフよ……あなたなんてこの学院から追い出してあげるわ」
「まぁ怖い、まるで悪役令嬢のようなセリフですね」
「お互い様じゃない。むしろあなたの方が貴族なんだから、あなたが悪役令嬢だわ」
「そうですね……その言葉を聞いて踏ん切りが付きました。わたしは悪役令嬢です」
最初から相成れなかった私達はここでハッキリと互いを否定し合った。同じ転生者同士でも感情のある人間だ。譲れない物がある。話し合いは終わり、私はすぐに学院長室へ向かった……先手必勝よ。
ダメ元でアーリャを退学させられるか遠回しに聞いてみたけどそれは不可能らしい。生意気にも王命で学院に入学してきたので、それ相応の理由も無しに学院から追い出すことは出来ないようだ。
それなら小さな事からやっていこう。時間さえあればきっと王子様を私のモノに出来るはずだ。相棒の能力で最初は親友、やがて恋人にステップアップさせるにはできる限り長く彼と接すること……恋人関係にまで出来ればあの娘の出来る事など無いはずだ。
まずは王子様とあの娘が一緒の授業を全部バラバラに……そうね、講堂の位置も端と端に離れさせてやるわ。逆に私は近い場所で、授業が終わったらすぐに合流出来るように調節してやろう。
どうやったのか知らないけど、私の部屋を調べたくらいだから王子様の授業の事も把握しているだろう。きっと急いで王子様に会いに走ってくるかも知れない……その時に私と仲睦まじい様子を見せつけてやる。
……はやくアーリャの悔しがる顔を見て笑ってやりたいわ。
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結局、最後が長くなって2話分くらいの長さになってしまいました。
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