6限目

 目の前の信じられない光景。わたしね、目立たないつもりだったんだけど譲れない事はあるの……そのひとつがまーくんに関する事。その為なら相手が誰であろうと引かないつもりでいるから。


「え? アーリャさん?」


 そう思ったが早いかわたしは歩き出していた。早歩きで自分達の元に向かって来る人影に二人は気付いたようだ。


「ん? おおっ、アーリャじゃないか。今日編入してくると兄上から聞いていたよ」


「え? アーリャ!?」


「ご機嫌ようマクシス様」


 わたしに気付いたまーくんは何事も無かったように話しかけてくる。そして未だに握られている手……早く離しなさい……の相手は、え?


「……キャレルさん?」


「アーリャ……あなたがなんでここに!?」


「ん? キャレルはアーリャと知り合いなのか?」


 まーくんに近づく泥棒猫の存在がまさかの顔見知りの相手だとは思わなかった。それにしてもなんでこの人がこの学院に?


 彼女はキャレルさん。わたしと同じだ。わたしがギフトジョブを使って商売を始めて目立つようになってきた時に接触してきた。

 彼女のギフトジョブは『相棒』……『木』に負けないぐらい謎ジョブだけど、読んで字の如く相手の意志を無視して自分の都合の良い立場の相棒にしてしまうチートジョブだ。

 本来はわたしを都合の良い相棒に仕立て上げて利用しようとしていたみたいだけど、転生者だからなのか、その能力はわたしには効かなかった。

 まさかその能力をまーくんに使ったの? でもまーくんだって転生者なのに何で? 記憶が無い事が関係している? 疑問は尽きないけどそろそろいい加減にその手を離すべきだと思うよ。


「お久しぶりですキャレルさん……ここ1ヶ月ほど行方知れずだったので心配だったんですよ」


「そ、そうなの……私はこの学院の学園長と知り合う機会があって、私をこの学園に特待生として推薦してくれたの」


「キャレルは庶民の出でありながら貴族の者達に負けぬほど勉学に長けているんだ」


「そうなんですか~学院長とがあったんですね~」


「……」


 そりゃ高校生まで義務教育を受けた人間があの内容レベルの勉強くらいだったら何の問題も無くこなせるだろう。どうやら彼女は相棒をらしい。以前会った時は宿屋の次男坊を自分の相棒父親に仕立てている状態だった。おそらく彼女は……まぁ、後で確認すればいいよね。


「そ・れ・よ・り・も、人目のあるところでそのような行動は慎んだ方が良いかと思いますよマクシス様」


 内心我慢の限界だったわたしは二人の腕を掴んでそっと離した。するとまーくんはハッとしたように……


「俺とした事がなんでこんな事を……アーリャ、忠告感謝するよ」


「え?」


 お礼を言うまーくんと予想外の出来事を目にしたようなキャレルさん……二人の反応が少し気になった。


「アーリャさん、そろそろ時間ですわよ」


「マクシス様ご機嫌よう、そろそろ次の授業が始まる時間ですわ」


「もうそんな時間か、ありがとう、それじゃあまた……」


 名残惜しいけどまーくんは早足で次の授業の教室へ歩いて行った。


「わ、私もいかないと……それでは失礼するわね」


 それを追うようにキャレルさんも早足で立ち去っていった。さて、これは色々確認する事ができちゃったな。


「ベスさん、ヘレナさん、申し訳ありませんが先に教室へ向かってくれませんか? わたし前の教室で忘れ物をしてしまったみたいで取りに戻ります」


「そうなのですか、それではお急ぎになってくださいね」


「次もお隣の席でご一緒に授業をうけましょう」


 そう言うと二人ともこの場を去って行った。中庭にはわたし一人……ではなく、墨の方に庶民らしい服を着た人が箒を使って掃除していた。

 学院の用務員さんと言ったところだろう……この世界でそう呼ぶのかは知らないけど。わたしは黙ってその方に近づくと……


「さきほどのキャレルさんの事を調べておいてください。あと、放課後にこの中庭に来るよう伝えてください」


「わかりました」


 ……わたしの要件を了承した用務員さんも中庭から去って行った。彼はわたしが雇用した冒険者で潜入捜査を得意としている人だ。庶民上がりの後ろ盾も何も無いわたしは学院内の情報を手に入れるために彼のような冒険者を数人雇用して学院に潜り込ませているのだ。


「だいたい想像は出来るけど、キャレルさんはどのような理由で学習院ここに来たのか……どんな理由であってもまーくんとわたしの仲を邪魔するなら……はっ!? 何言ってるの、これじゃあまるでわたしが悪役令嬢みたいだよ」




 ……この時のわたしは、自分がまだ王子様と結ばれる庶民の娘のつもりでしたのでした。




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