第7話/未来予知はこう使う
結果から言おう、紫苑は昼休みが終わるまでに見つける事が出来なかった。
ならば次の機会は放課後だ、彼女は目を離したらすぐに死んでいまいそうな子であるが。
しかし、余程のことがない限りまじめに授業を受けて部活にも出るタイプで。
(良く言えば孤高の、悪く言えばボッチ気質の紫苑はサボらない筈だ)
『分からんぞぉご主人、ご主人と遭遇しない為にサボるかもしれんぞい』
(――安心して欲しい、俺に抜かりないよ。どーも記憶がないなった間にアッチのクラスの子に協力者を作ってたみたいでね)
『…………一歩間違えればストーカーだぞご主人??』
(言わないで欲しい……一応自覚はあるから……、ま、それはそれとしてだ――聞きたいことがある)
『ほほーう? ついに未来余地を活用するのだなご主人! 今ここで!!』
(あ、いや、単に紫苑の行動を余地する為に使う事は出きるかって話なんだけど)
今の所、未来予知について分かっているのは。
・数秒~約5分後の未来が分かるが完全ランダム。
・佐倉紫苑の死に関する事だけまるでその場に居るような明確なビジョンとなって見える。
どちらも、七海が自分の意志で使うことができず。
(現状さ、俺に出来るのはシステムが提示する予知の光景を見るかどうかだけでしょ?)
『今のご主人は未来予知のデーターベースとでも称する何かに繋がりっぱなしの状態であるからな、このシステムめが取捨選択しないと脳が耐えられないのである』
(脳が耐えられなくなるってどーなるワケ?)
『情報量に脳が耐えきれずに焼ききれる、文字道理であるぞご主人』
(なるほど、やっぱ死ぬのか。――もう少しなんとかならないかな。紫苑の事だけはあんなにハッキリ見えるんだろう? ほら、応用みたいなのとかさ)
『未来予知と未来予測は別物であるぞご主人、予測はこのシステムにすらうっすらと分かるぐらいである。……だがまぁ、他ならぬご主人の頼みではあるしなァ』
命なき身、人格のようなモノはあれど全てが仮初め、佐倉紫苑の死を回避する為だけの存在。
極めて限定的な未来予知を井馬七海が無理なく使う為、というシステムの認識であるが。
(――何故に、このシステムめには感情があるのだろうな)
どうにかして井馬七海の役に立ちたい、彼を幸せにしたい、という気持ちは不思議と悪くない気分で。
だから出来ることはないか、只の仲介役でしかない己に、体を持たぬ己に出来ることとは。
『ふぅぅぅぅぅむ、…………一つだけ、一つだけ道はあるぞご主人!!』
(ほうほう!! どんなのだい!?)
『ランダムで見える未来予知は、本来の機能である佐倉紫苑の死の運命を見る事の副産物。ならばならばならばァ!! それを利用してご主人の周囲を把握する!! つまり――佐倉紫苑が仮に背後の物陰に隠れていても見つけられるという事、だッ!! なお意図的に未来予知を起こす事になるのでご主人が脳疲弊しやすくなるので糖分の追加接種が必要であるぞ!!』
(おおおおおおおっ!! それは凄い!! じゃあ早速テストだ!!)
『むむーぅ、……見える、見えるぞご主人!! 数秒後、佐倉紫苑は現国の教科書のページを一枚めくる!! 今ビジョンを送ろうぞ!!』
(ふおおおおおおおおっ!? チラっと見えた!? 俺にもチラっと見えた!! ――――でもこれ、めっちゃ腹減らない? しかも甘いもの欲しくなるし)
とてつもなく便利で、紫苑を探すという点においては最高のアドバンテージである。
しかし、一度使っただけで半炒飯が欲しくなる程度に空腹が発生して。
乱用はできない、使いどころが重要だろう、だがこれは大きな一歩であり。
(よし……、授業の合間に菓子パンでも買い込んでおこう)
『脳を休めるための睡眠も、可能ならとっておいてくれご主人』
そうして七海は意気揚々と放課後を迎え、あんパンを食べながら図書室の隣にある読書部の部室へ。
まずは様子見だと、鞄からマンガを取り出し窓際のパイプ椅子に腰掛け待ちの構えである。
読書に集中しているフリをして、さあ紫苑はどう出てくるのか。
(ふっふっふっ……、この罠に紫苑は抗うことができるのかッ!!)
『ちなみにご主人、そのマンガのチョイスには意味があるのか? ご主人の好みではなさそうであるが……』
(あ、これね。紫苑の趣味の筈さ、レシートが残ってたから俺が事故前に買ったのは間違いないけど趣味じゃないから)
少女漫画というには少し大人向けで、レディコミというには性的な過激さがない。
男である七海には、どのカテゴリーに入れていいか分からない漫画であったが。
読み始めてみれば、案外と面白くて。
(多分、これ読んで感想とか語り合いたい筈だと思うんだよ…………兄と妹の禁断の関係を中心に、九月のどんよりとした雨のような病のような…………はー、これ元々同人誌で…………)
『――見えたァ!! 後十秒!! 佐倉紫苑が入ろうとしてご主人が見えたので逃げる姿!! しかも途中でスカートがひるがえってパンチラチャアアアアアンス!!』
(でかした! なら扉の窓から見えない所に移動して……漫画は表紙が見えるようにしておくか、そして俺の鞄は隠して――)
『早くするんだご主人、残り五秒! 音を立てたら気づかれる可能性がある!!』
(分かってるッ、――――よし完了!!)
数年前、図書室が改装する前には備品倉庫として使われていた部室は縦長で狭く。
扉の窓から見えなくなる為には、入り口横の本棚にべったり張り付かなければならない。
こつこつ、こつこつ、足音が近づいてきてガチャとドアノブを捻る音。
(――あれ、入ってこない?)
(…………妙だよこれ、鍵開いてるのに誰かいる様子ないし、本が置きっぱになってるのも――――先輩? 居るの? いや、一度は来た??)
(不味いっ、怪しまれてるッ! でも、入ってきたら射程圏内だッ!!)
(あっ! あれは前に先輩と一緒に買った…………って事は罠!? いや考えすぎかぁーー?? でもこの部であの作者の本を買うのは私と先輩だけだしぃ……)
訝しむ紫苑は、とても慎重な動きでドアを開けた。
入ってくる、そんな七海の予想に反して彼女は入室はせず音だけで中の様子を探って。
じりじりと焦れる瞬間、彼は息を止めて機会を伺い、彼女はいつでも逃げられるよう足に力を込める。
(少し、うん、一回少し入ってみて即逃げるっ!! それで大丈夫なら今日は部室で過ごそう)
(掴まえる、目標は腕だ右手で掴む、左手で口を塞いで悲鳴を防ぐ、大丈夫、やったことないけど出来る筈さ)
(よ、よーし入るぞっ! 女は度胸!!)
(見えたつま先ィ!! 今だあああああああああ!!)
『はいストップご主人、未来予知が更新されたそのままでは――ッ!? こんな僅かな間に未来がもう一度――――!?』
「ぷぇぃッ!?」「なんとぉ!?」
システムの制止は間に合わなかった、七海の右手は確かに紫苑の右手首を掴んだのだが。
彼女は彼を認識する前に全力で後ろに下がろうとしていて、ならば引っ張り引っ張られ二人の体勢は崩れた。
ドン、と彼の背中に衝撃が走りお腹にムニと感触の割に重いボディブロー。
「うぎゃッ!? ご、ごめんなさい先輩すぐに退きま――――うわっととと……ま、またこけちゃ……!?」
「のわあああああ!? いったい何が――うわっぷ!? もがもがもが!?」
「ひゃん!? せ、先輩!! そんな所で喋らないでください!!」
「~~~~ッ!? …………!!」
『オッフー、ナアアアアアアイスッ、ラッキィスケベエエエエエエエエエ!! このシステムめは見抜けませんでした!! ご主人がえっちなラブコメ漫画ばりに女の子のスカートの中で顔面騎乗位とはッ!! ビバ・ラッキースケベェ!!』
窒息しそうな重みに、妙に幸せな柔らかさと。
七海は視界が塞がっていたが、紫苑が顔を真っ赤にして泣き出す寸前であろうことが手に取るように分かってしまったのであった。
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