第2話
一通り甘い物とお茶を堪能した私達。
話をする為に給仕してくれたメイドを下げ、再び人払いをする兄達。
「では、2人が帰宅する夜までに大まかに今後の計画を立てようか。」
「えぇ、それがいいですね。」
「…計画ですか?」
頷いたジェイク兄様が相関図を再度広げた。
「まずは主人公とされる令嬢が存在するかどうかを確かめる。
これはユースフが適任だ。」
「えぇ、そうですね。
庶子として存在しているのを見つけたら、命は?」
「あ、この方、別に今は何もしてませんから。
学院に入学するのも、高等部に入る頃ですし。」
「うーん…。
でもね、将来的にチェルシーを困らせるようならここで始末したいけど…。
だけど、わかったよ。
何か行動するまでは、彼女を見つけたとしても、監視を付けるだけにするよ。」
「ご理解頂き、ありがとうございます。」
1人目の偵察対象者である彼女をユースフ兄様が束ねるギルドの支部で担当することになった。
◇
「次はメイン対象者として書かれているリカルドだな。」
「調べる必要は無いのでは?
あの子はずっとチェルシーと一緒ですし、チェルシーを害するなんてしないでしょう。
もしも他の誰かにチェルシーが狙われていたら、自ら剣を抜くと思うし。」
「ジェイク兄様、私もそう思います。
以前は私の袖を掴んで付いてくる姿がとても可愛らしかったんですが、今は私を守って下さると言われました。
きっと危なくなれば、私の前で手を広げて阻止して下さいます。
それも可愛いんですけどね。」
リカルド様のことを思い出しながら、昔も今も同じように大きな尻尾をフリフリしているような姿に、ついつい微笑んでしまう。
「…チェルシー、男は可愛いって言われるのは嫌だと思うぞ。」
「いいえ、兄上。
リカルドはそれさえも嬉しいと思いますよ。」
「まぁ、それもそうだな。
では、リカルドは外してもいいか?」
「えぇ。それに、王宮にうちの者を置いてますので、何か不穏な動きがあれば知らせがきます。」
今、さらりと王宮もギルドが監視しているとそう言われた。
◇
「では、王子以外の対象者②から⑥だな。
ユースフ、意見は?」
「そうですね、②のニキータの家は今、母上の監視下にありますからねぇ。
下手に動かない方がいいかもしれないかと。
何かあれば母上が手を下すでしょうし。
ここは最後にして、母上の監視の目が緩んだ隙がいいかと。」
「そうか。
うん、母上が目を光らせているんだったら、チェルシーに手は出せないだろうな。」
「それに、ここを…となると、父上にも母上にもチェルシーのことを打ち明けてからとなるでしょうね。
…まぁ、この令嬢の存在が確認できたら、チェルシーの話は本物だと言えますので、その時点で家族会議にかけた方がいいかと。
2人に黙っておくのは無理がありますからね。
それに必要があれば、隣国に偵察に行くこともあるかと思うので、それも行きやすいですし。
ね?チェルシー。」
「えぇ、ユースフ兄様のおっしゃる通りです。
今は平民である彼女が確認され、私のこの相関図について信頼性があるとなれば、両親へはきちんと話したいです。
家族へ隠し事はなるべくしたくありませんから。
…隠せるのか微妙ですし。」
「そうか。
うん、わかった。
では、ユースフの手の者の報告を待とう。」
「早急に報告しますね。」
私達が話を終えた時、母の帰宅が知らされた。
3人揃って出迎えに行ったが、それ自体をいぶかしがられ、いつもと違う行動はしない方がいいと、次の日の学院への馬車の中で話した。
学院へ到着すると、いつものように王家の馬車から飛び出して来られる王子殿下とそれを追うように走るブランの姿。
「チェルシー、おはよう。」
「おはようございます、リカルド様。」
「ジェイ兄、ユー兄もおはよう。」
兄達はその王子の挨拶に微笑み、挨拶を返した。
「何だか楽しそうな空気を感じるけど、何かあった?」
「え?
楽しそうな…ですか?」
「うん。
3人から絆と笑顔が感じられた。
僕は仲間には入れないのかな?」
とても感覚の鋭いリカルド様。
「えっと…、今はまだ不確かな部分もあって、ユースフ兄様が調べています。
お知らせできる時には必ずお話しします。」
「…そう。
うん、わかった。
でもね、チェルシー。」
「はい。」
「君は決して傷つかないでね。
身体も心も。
何かあれば、僕は人を殺すよ。」
「え?」
「君の幸せに必要ない者は僕が始末するからね。」
そう、ニッコリと笑う王子。
えっと、それがヒロインだったらどうなるんだろうか…。
えぇぇぇ…。
「リカルド様。
簡単に人を殺めてはいけません。
ちゃんとそうならないように兄達が協力し、偵察していますので。
…あの。」
「どうした?」
「その…、おおよそのことが把握出来たらにはなるんですが。
私の頭の中のことを聞いて頂きたいんです。」
「僕が読めないチェルシーの頭の中か。
うん、知りたいし、理解したい。
わかった。
それ、待っているからね。」
「ありがとうございます。
お話出来るよう、務めます。」
そう頭を下げる私を彼は包み込む。
「リカルド様?」
「こんな風にね、優しくしたいと思うのは君だけだ。
この手をすり抜けていかないよう、それだけはお願い。」
「…私も抱きしめても?」
「うん、もちろん。」
私はそっとリカルド様の背中に手を回した。
温かい彼に触れ、私はこの人の側を離れたくないとそう思った。
婚約を決める15歳まであと5年。
猶予はあるけれど、私が感じるこの気持ちは変わることは無いだろう。
国王陛下に婚約のことを聞かれたら、「はい」と答えてしまいそうなほど。
でも、この先ヒロインが現われ、私の想定外の事が起こるかもしれない。
もしかしたら彼が心変わりするかもしれないし、私が予定通り暗殺されてしまうかもしれない。
それでも今はリカルド様との時間を大切にしたい。
そんな私に彼女の情報がもたらされたのは、その少し後のことだった。
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