第3話

私の暗殺が行われたという裏設定が起こる4学年になったが、王家は私に友好的だから、暗殺を企てるなど、そんな未来は無いと思う。

では宰相は?


「うーーーん、企てるとしたらこの人達よねぇ。」


私は部屋で相関図を書いて、ゲームと違ってきたところをチェックしていた。


「何を企てるの?」


「え?

ユースフ兄様?!」


いつの間にか現われたユースフ兄様に驚き、相関図を隠そうとする。

でも、その手を押さえられた。


「へぇ…。

これがチェルシーの頭の中にあることか。

前から見てみたかったんだよね。」


「あの…。」


「ふふふ、そんなに警戒しないでよ。

何か色々と考えてるんだろうなぁって前からわかっていたし、色々と知っているんだろうなぁって。

あぁ、これかぁ。」

相関図をまじまじと見つめながら、その目は輝いていた。


「ねぇ、この①とか②っていう数字は何?」

それは攻略対象者に付けた印だった。


「ユースフ兄様、その前に聞いて貰ってもいいですか?」


「うん、いいよ。

チェルシーの秘密だろう?

是非、聞きたい。」


そんな兄に、私は前世の記憶のことを打ち明ける覚悟をした。





「ユースフ兄様、あの…、私には前世の記憶があるんです。」


「前世?

前世ってことは、チェルシーは1度死んだの?」


「はい。

その記憶を思い出したのは3歳の時です。」


「…へぇ、3歳ね。

あぁ、あの藪医者を始末した時か。

あの頃からチェルシーは全部のことを理解していたよね。

それはわかったけど、そのチェルシーの前世とこの相関図は関係があるの?」


「はい。

私の前世ではゲームというおとぎ話を自分の選択によって進めていくというような遊びがあったんです。」


「ゲーム?

へぇ、おもしろそうだね。」


「私はそのゲームが大好きで色々なゲームで遊んでいました。

その中の1つと今世がとても良く似ているんです。」


「だから、ここがそのゲームだと?」


「いえ、本当にそうなのかはわかりません。

でも、実際にゲームに登場する人達と、私の周りにいる人達の名前や家、年齢などが一緒なんです。」


「あぁ、うん。

わかった、何となく理解したよ。

相関図はよく出来ているからね。

…それで、この①とかは?」


「その数字はですね、攻略対象者と言って、ゲームのヒロイン、つまり物語の主人公は色々な会話や行動をして、この数字がついている人達を虜にしていくんです。」


「えっと、虜に?

1人の主人公がこんなにも沢山?」


「1人を虜にして、また初めからゲームをして次の対象者を虜にするんです。

…全員を虜にするようなふしだらなパターンも1つだけありますが。」


「うわぁ、それはいけないね。

…それで、私も⑦って書いてあるんだけど…。」


「はい。

ユースフ兄様も7人目の攻略対象者なんです。」


「えぇぇ。

うん、そっかぁ、私も虜にされるのか。

あのさ、私には数字があるけれど、兄上には無いよね?」


「えっと…、ジェイク兄様は宰相様のご令息と…そのような関係に…。

攻略対象者では無く、ヒロインとの恋路を邪魔する悪役のような立ち位置でしたの。」


私の言葉にさすがに驚くユースフ兄様。


「兄上が?

それはまた面白いことになっているね。

ふふっ、兄上が聞いたら倒れてしまうよ。」


「…えぇ、今なら私もそう思います。

でも、前世のゲームではそうだったんです。」


相関図を見ながら、兄は人間関係まで事細かに聞いてきた。


「こんなに詳しく作られているのなら、前世というのは本当なんだろうね。

だから色々と理解していたのか。

…それで、ここにはチェルシーの名前が無いようなんだけど、チェルシーは出てこないの?」


ゲームに出てくる人だけを描いた相関図に私の名前は無い。


「はい、私は出てきません。」


「出てこない?

父上も母上までも…、家族皆の名前があるのに?」


「…はい。

このゲーム本編には出てこないんです。

でも、詳しく内容を記された本には私の名前が出てきます。

あのですね…。

私は小等部にいる時に、学院の中で暗殺されると、そう記されていました。」


そう話すと、兄の顔から笑顔が消えた。


「ねぇ、誰に?

何でチェルシーが暗殺されるの?」


「その理由は記されていないんですが、その設定によると、暗殺を企てたのは王家で、後押しをしたのは宰相だと。」


「…。」


「そのことがあったことで、ゲームでのユースフ兄様とヒロインが結ばれるそうです。」


「何それ…、全然おもしろくなくなったね。

チェルシーは私達が守るべき存在だ。

それを、そのような見境ない者の為に黙ってはいない。」


いつもは冷静な兄の怒りが見えた。


「あの、私も何故そのようなことが起きたのかはわからないのです。

私が知っているゲームでの兄様の背後には私の存在は無かったですから。

でも、私は存在していますの。」


「あぁ、そうだな。

この世がチェルシーの知っている世界だとして、未来を変えられるのなら、私はそれを願う。

このような相関図にならないようにしなくてはいけない。」


「ご理解して頂き、ありがとうございます。」


私の前世の記憶を兄に打ち明けた。


「あの、ジェイク兄様には?」


「もちろん伝えるよ。

いくら魔力量が私達の方が上とは言え、兄上はこの兄弟の中で1番だ。

戦略も、戦術も、武器の扱いも多く学んでいる。

だからこそ、チェルシーのことを伝える義務がある。

1番は兄上だからな。

父上達が居ない時をみて、私が話すよ。」


ユースフ兄様は私の言葉を信じてくれた。

そして、ジェイク兄様にも伝えてくれると。


私は自分の未来が変わるような気がして、兄の気持ちが嬉しかった。

10歳以降も生きていられるのかもしれないわ。

できればずっと、この家の一員で居たいとそう願うの。


相関図を眺めながら、私はゲームのようにはならないと誓った。


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