第3話

私の誕生日は今後の人生が決まる日だ。

朝食を済ませると私は父の執務室に呼ばれた。

執務室には家族全員が揃っていた。


「さぁ、チェルシー、ここに来てちょうだい。」

(どうやら、母はこれから鍛錬を始めるにあたり、『ちゃん』付けを止めることにしたらしい。

甘やかしては鍛錬できないとのことだ。)


この世界では5歳の誕生日になると、鑑定スキルを持った人から魔力の属性と量の鑑定をしてもらい、自分の能力を知ることとなっている。

私を鑑定するのはそのスキルを持っている母だ。


「チェルシー、手を合わせて。」


差し出された母の手に自分の手を重ねると、じんわりと温かな光が手を包む。

この母は水属性と風属性、そして鑑定スキルを持ち合わせており、魔力量も高い。

なるべくして我が家の嫁になったような人だ。


「まぁ、これは…。」


母が私から手を離し、考え込んでいる。


「カイラ、どうかしたのか?」

父の言葉にも答えずに考え込む母。


私、もしかして魔力持ってないとか?

そういうパターン、よくあるものね。

それか、転生チートのパターン。


「…複数持ちなの。」

「え?」

「闇属性以外の全ての属性を持っているわ。

もちろん光もよ。」


あ…転生チートのパターンね。

これはこれで厄介ね。


「母上、本当なのですか?」とジェイクが母に問う。


「私の鑑定は間違ったことは無いわ。

我が家に生まれたのだから、2つもしくは3つは持っているかもと思っていたけれど。」

母は困ったように話す。


実はシスル伯爵家の人達は通常1つの属性が多い中、皆が2つ以上の属性を持ち合わせている家だ。

父は火と土。

母は水と風、鑑定スキル。

ジェイク兄様は父と同じく、火と土。

そして、ユースフ兄様は火・水、そして両親が世間には隠しているが、闇属性を持っている。

ゲームで兄はそれを活用していた。


だけど、どんなに多くても3つだ。

それを上回る私の転生チート。


「王家には2つぐらい報告すればいいだろう。

あまりに多いとなると、世間から狙われる。

しかも光と来たか…。」

父も困っているようだ。


「あなた、それだけじゃないの。

この子、2人の兄よりも魔力量が多いわ。」


「何?

鍛錬する前なのにか?」


「えぇ、よくこんな量を暴走させずにここまでこれたわね。」


そんな母の言葉に、とても嬉しそうにニッコリと笑うユースフ兄様。


「ちゃんと私が薬で抑えていましたからね。

毒とは別に調合しました。」


え?

薬、他にも盛られてたの?


「…そ、そうなの。

よくやったわね、ユースフ。

でもね、今度からは父と母に相談してね。」


「その…ユースフは魔力量が多いといつわかったんだ?」


「え?

生まれた時からですよ?

あぁ、私も鑑定スキル持ってますから。

多分、母上よりも高いスキルなのでバレなかったようですが。」


ニッコリとした笑顔を崩さずに話す兄。

父も母もジェイク兄様も驚きを隠せない。


「ユースフ、お前はチェルシーが生まれた時、2歳だっただろう?

それなのに…。」


「あなた、私の実家にはごくたまにこういう秀でたというか、そういう能力を持つ子が生まれちゃうのよ。

親でも恐ろしくなるぐらいのね。

それが私達の代で2人もいるのはさすがに私も驚いたけれど。」


そうよ。

転生者の私よりもユースフ兄様は凄いもの。

もしかして、兄様も転生者かと思うぐらいよ。

そんな風に考えていると、ユースフ兄様が私に向かって話す。


「それに、チェルシーは全部理解していますよ。

ね?」


突然話を振られた私。

理解しているって、前世の記憶があるってバレているの?

まぁ、この兄ならわかりそうだけど。


「それは私も鑑定できたわ。

チェルシー、あなた私達の家のことも、今の会話も…、何ならずっとだわ。

理解しているからこそ、話さないのよね?」


ゴクリと息を飲む。

幼児っぽい話し方をすることに自信が無かった私は極力、「うん」とか「いや」とか、片言で済ませていた。


「そうですね。

話してしまうと私みたいに大人びた言葉を使うでしょうし。

いいんだよ、チェルシー。

もう5歳だし、幼い言葉使わなくていいから。」


そう言われ、「わかりました。」と私は観念した。


「やっとチェルシーがおしゃべりしてくれるのね!

今までは片言ばかりで話せないのかと思っていたけれど、話すとボロが出るからだったのよね。」

そう満足げな母。


「お母様、ボロが出るとかそういうことではありません。

ただ、家のことも理解しており、自分が置かれている状況も知っていますので、可愛げが無いことを言わないように極力話さなかっただけです。」


スラスラと話す5歳児に、父とジェイク兄様は少し驚いている。


「そ…そうか。

だったらこれからは思うままに話してくれ。

チェルシーと話せるなら父はその方が嬉しい。」


「何だか弟も妹も俺よりも能力が上のようで…。

もっと鍛錬に励みます。」


「それで、カイラ。

チェルシーはどちらの道に進むのがいいか?」

父が本題に戻す。


「そうねぇ…。

どちらの道に進んでも成功すると思うわ。

とりあえずは小等部に入るまでの2年間、剣術も知識の取得もどちらもやらせてみて、やりたい方をやったらいいかなって。」


「そうだな。

魔力もちゃんと仕えるように兄達と同じように習わせよう。

ユースフ、もう薬で抑えることはしなくていいからな。」


「わかりました。」

少し残念そうにしながらも、笑顔は貼り付けたままのユースフ兄様。



「王家にはどう報告するか?」

「そうねぇ…。」


この国の貴族は魔力を鑑定した後、属性と魔力量を国へ報告する義務がある。


「私と同じ水と風だけを報告するわ。

それと、魔力量は半分ぐらいにごまかしておくわ。

私が鑑定したのだから信憑性はあるし。」


「そうだな。

後でわかったとしても、途中で育ったのだろうとごまかすか。」


「そうね。

王家は我が家には何も言えないもの。

念の為に、王宮にはチェルシーは連れて行かないわ。

親子参加のお茶会も仕事を理由に欠席することにするわ。」


「あぁ、王妃あたりが気づきそうだからな。

お前達も他言するなよ?」


父と母の決断を私達は受け入れた。


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