53. ドワーフ皇帝との謁見
さあ、ここからが本番だ。
上手く話を進めないと。
「まずお前らの名前が聞きたいな。教えてくれ」
「は、はい。僕は……あ、いえ、私は」
「かたっ苦しい言葉は抜きだ。小煩い大臣どもはすべて排除してある。あまり無礼になられても困るが、基本的には普段通りの言葉遣いでいいぞ」
「それでは、僕は世界樹の村村長、バオアと言います」
「同じく世界樹の村補佐、ホーフーンですにゃ」
「猫の行商人、クーオ。普段は世界樹の村で出来た作物などを売り歩いていますニャ」
「ん? 世界樹の村? また大層な名前をつけているな。なにか意味があるのか?」
ああ、皇帝陛下はもちろん知らないからね。
上手く説明してよ、ホーフーン。
「はいですにゃ。世界樹の村は、聖域である世界樹の森の中にありますにゃ。更にその中にある世界樹の精霊様から若い枝をもらい、村の広場にシンボルとして立ててありますにゃ。これが〝世界樹の村〟を名乗る理由ですにゃ」
「世界樹の森……確か、エルフの国との国境端にあるという森か。なんでそんな場所に村を?」
「吾輩はたまたま世界樹の森で休んでいただけにゃ。そこで世界樹の森へと追放されてやってきたバオアと出会い、世界樹の森の奥で農業を始めたのですにゃ」
うん、ホーフーンとの出会いはおおよそそんな感じだ。
でも、それに皇帝陛下は疑問を持たれたようだった。
「世界樹の森に追放ねぇ。バオア、お前、なにをしたんだ?」
「いえ、僕のスキルが『農業機器』というわからないものだったために家族から追放されたんです」
「『農業機器』? 俺も聞いたことがないスキルだが……どんなスキルなんだ?」
「農業を行うために使える道具を作り出すスキルです。草を刈るための道具から始まり、畑を起こす道具、麦を刈り取る道具、麦の実と麦わらを分ける道具、麦粉を作るための風車。あとは水まき用の道具などです」
「ほう、そいつは農家からすれば垂涎の品ばかりじゃねぇか。家族の元へは戻らねぇのか?」
「いえ、家族の元に戻っても奴隷のように搾取されるのは目に見えていますから。貴族の生まれでありながら貴族の役目を捨てるのは恥ですが……申しわけありません」
「貴族。お前さん貴族だったのか。どこの貴族だ? 見た目はエルフなんだが」
「いえ、僕はドワーフの貴族家の生まれです。世界樹の森に面したタシュム家の生まれです」
僕の生まれを聞いて皇帝陛下は難しい顔になってしまった。
あれ、僕は変なことを言ったかな?
「俺が習った限り、世界樹の森に面した領地は確か二百年以上前にエルフの国へと返還したはずなんだが……」
「ええっ!? 僕はそこの生まれですよ!」
「なにか裏がありそうだな。宰相、あとでこの件を調べておけ。エルフの国との外交問題になる」
「はい。かしこまりました」
うーん、僕の生まれた家はなにか秘密があるみたい。
というか、あの近辺の領地ってエルフの国に引き渡された領地だったんだ。
そんなこと初めて聞いたよ。
「まあ、お前の生まれについてはおいておこう。それより、まずはお前らの着ている服だな。珍しい衣装だが、それもお前らの村で作られた衣装か?」
「はいですにゃ。村に集まっている各種族に知恵を出し合ってもらい完成した衣装ですにゃ」
「各種族? どういうことだ?」
「吾輩たちの村にはドワーフのみならずエルフやダークエルフ、様々な獣人族、有翼族に闇のヒト族まで多種多様な種族が暮らしていますにゃ。この衣装は彼らの伝統衣装を組み合わせた謁見服でございますにゃ」
「ドワーフだけでなくほかの種族も? どうやって村人を集めた?」
「それは世界樹の精霊様がお力を貸してくださいましたにゃ。遠くの地と世界樹の村を結ぶ種を使い、各種族を村へと呼び込みましたにゃ。そのあとは村の一員として土地を与え、農作業に従事してもらっていますにゃ」
「農作業に従事か。お前らだけスキルで作り出した道具を使い、楽をしていたんじゃ不満が出るんじゃないのか?」
「大丈夫ですにゃ。村が増えるたびにスキルで作り出せる道具の数も増え続けていますからにゃ」
「本当に至れり尽くせりだな。村の様子はわかった。次に献上品について話をしたいが、それには会食をしながら話し合うのが一番だろ。場所を変えるぞ」
会食?
皇帝陛下と一緒に食事をするの?
テーブルマナーは大丈夫かな……。
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