37. 移住政策

_/_/_/_/_/バオア


 昨日クーオが言っていたダークエルフたちは全員無事に移住してくれたみたいだ。

 人数は全部で32人。

 クーオが言っていた村の規模からすると少ないなと感じたけど、どうやら餓死者や病気で亡くなった人が多いみたい。

 食料もなければ薬も満足にないからどうしようもなかったようだ。

 こればかりはどうしようもないよね。


 彼らには大変だろうけど早速働いてもらわなくちゃいけない。

 なにせ彼らが住む家すらないんだから。

 最初はそこから用意してもらわないと。


「皆さん、疲れているとは思いますが僕の話を聞いてください。僕の名前はバオア、この世界樹の森に暮らすハーフエルフです。皆さんがこの地で暮らすにあたり、最初にやってもらうことがあります」


「最初に……ですかな?」


「はい。失礼ですがあなたは?」


「申し遅れました。私はこの村の村長でターシャと申します。ああ、もう村がなくなったので村長ではなくなりましたが」


「いえ、代表者はいてもらえると助かります。それで最初にしてもらうことですが、皆さんの家を建ててもらわなければなりません。僕たちも食料は差し上げられますが、住む家までは提供できませんので」


「なるほど、それは最初にやらねばなりませんな。それで場所はどこにすればいいのでしょう?」


「はい。場所ですが、ここから歩いて1時間ほどの場所になります。案内する前に休憩を取ってもらいたいので果物を配りますね」


 僕とホーフーンはあらかじめ用意しておいた世界樹の森の果実を配って歩いた。

 これが一番元気になるからね。


 彼らの住む場所を僕たちの屋敷や広場のすぐそばにしないようにしたのはホーフーンの考えだ。

 今後も移住者が増えることになると僕たちの屋敷や広場のそばだけでは土地が足りなくなる。

 それを除いても、僕の屋敷の前には僕が作った畑があるからね。

 住む家を作って新しく畑も開墾してもらうには広い場所が必要だったんだ。

 この広場や僕たちの屋敷の前にある道を進んでいったらどこに出るのか調べてみたけど、途中で折れ曲がっているのがわかった。

 ダークエルフたちには折れ曲がった先に移住してもらう。

 僕の畑がどこまで広がるかわからないから、折れ曲がった外側に居住地と新しい畑を作ってもらう予定だ。


 休憩を取ってもらっている間にクーオも合流して移動を開始した。

 長時間移動するのが大変な人はクーオの犬車か僕のトラクターに牽引されている貨車に乗ってもらっている。

 さすがに全員は乗せられないから移動はゆっくりとだね。

 ダークエルフたちは初めて見るトラクターに驚いていたけど、魔道具の馬車みたいな物だと納得してくれたらしい。


 土がむき出しだがよく地ならしされた道を進み、曲がり角を曲がった先にあるのが今回の移住予定地だ。

 そこには既に世界樹の精霊様からいただいた斧などの木材加工に使う品々を置いてある。

 ちなみに、木も1本だけ切り出しておいた。

 それは僕とホーフーンが昨日のうちに試しに切り出した木だ。

 どれくらいの時間で木を切り倒せるのか試してみたけど、数分で1本切り倒せた。

 さすがは世界樹の精霊様の道具、便利さが違う。


「皆さんにはここの土地を使ってもらおうと思います。木材を切り出すための道具はあちらに準備しておきました。あと、食料は森の中に入れば果物や山菜、キノコなどが簡単に手に入ります。毒のある植物はないので安心して食べてください。なにか質問のある方はいますか?」


 僕が質問を募るとダークエルフの中でも屈強そうな男性が声をかけてきた。

 どんな質問だろう?


「木材を切り出すと言ったがどの木でも切って構わないのか? それからこの森で狩りをしても構わないのだろうか?」


「木は自由に切っても構わないと世界樹の精霊様から告げられています。狩りは森に動物がいないので出来ません。そちらは諦めてください」


「わかった。俺は猟師なんだが、獲物がいないんじゃ仕方がない。別の道で生計を立てていくことにするよ」


「よろしくお願いします。他に質問がある方は?」


 そのあともいくつか質問が出たけど、どれも答えることができる内容で助かった。

 この森でできないことと言えば動物がいないから出来ない狩猟くらいで、物や山菜、キノコもたくさんあるし大丈夫だろう。

 あと、飲み水についてはこのあと井戸を掘る魔導具を使うということで納得してもらった。

 ダークエルフたちが来たあと確認すると、『農業機器』がまた増えていたんだ。

 今度は前からある物の数が増えただけだから、移住してきた者たちに使わせろということなんだろう。

 その中には井戸掘り機もあったため、ダークエルフたちの間で相談してもらい村のどこに井戸を掘るか決めてもらう。

 決まったらそこに井戸掘り機で井戸を掘ってしまえば立派な井戸の完成だ。

 今回もポンプ付きなので水くみには苦労しない。

 こう考えると、家や畑を作ること以外は至れり尽くせりだね。


「ええと、井戸も出来ました。他に聞きたいことはありますか?」


「いいえ、いまのところはありません。ところで、畑はいつ頃から耕せば?」


「先に家造りを優先してください。畑はそのあと、ある程度落ち着いたら作るための道具も持ってきます」


「わかりました。なにからなにまで申し訳ありません」


「いえ。無理はしないようにしてください。それでは、僕たちはこれで」


 これで基本的な説明は完了かな。

 あとは移住がうまく行くことを祈ろう。

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