23. バオアたちの家と家精霊
僕たちが世界樹の枝からいつもの小屋まで戻ってくる頃には空はすっかり赤く染まっていた。
森を抜けて最初に目に入ったのは小屋の隣に建っていた大きな屋敷だ。
小屋の数倍はありそうな屋敷、これが世界樹の精霊様からの贈り物だろうか。
「にゃ。ずいぶんと立派なお屋敷をくれましたにゃ」
「そうだね。昔の僕の家よりずっと大きいよ」
「バオアの家は相当貧乏な男爵家だったようですにゃ」
「仕方がないじゃない。でも、三階建ての家なんて部屋が余らないかなぁ?」
「余ったら余った時にゃ。今日は日が暮れてしまったので引っ越しは明日にするにゃ。今日の汚れを落としたらゆっくり寝ましょうにゃ」
「うん、そうしよう」
新しい家には興味があったけど、さすがにいまの時間から調べるわけにもいかない。
今日は小屋の方で夜を明かそう。
そして翌日、朝食を済ませたら屋敷の方に向かう。
屋敷の壁となっている柵を伝って歩き、門の前までやってきた。
すると勝手に門が開き、中から十五歳くらいのお姉さんが姿を現す。
空のような色の鮮やかな髪をお下げにしたお姉さんだ。
お姉さんは僕たちの前までやってくるとエプロンドレスの端をつまみ優雅にお辞儀をしてくれた。
「初めまして。家精霊のシャリナと申します。以後、お見知りおきを」
「は、初めまして。バオアです」
「ホーフーンだにゃ。よろしくにゃ」
「バオア様とホーフーン様ですね。よろしくお願いいたします。屋敷内の家事はすべて私にお任せください」
「え、いいの?」
「バオア、家精霊とはそういうものだにゃ。シャリナ、家を案内してほしいのにゃ」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
僕たちはシャリナに招かれて屋敷の中へと入って行く。
入り口は広いエントランスホールになっており、三階までここから行けるようだ。
天井には輝くシャンデリアが飾られており、エントランスホール全体を照らし上げている。
次に案内されたのは食堂。
これからは素材だけシャリナに渡しておくことで食事を用意してくれるらしい。
食料貯蓄用の保冷庫もあるようだ。
僕とホーフーンは小麦粉や山菜、キノコを預けておいた。
その次は浴場。
僕はこんな施設があることを知らなかったけど、お湯で体を洗い湯につかって体を温めるらしい。
しばらくはなにもせずに使えるらしいけど、湯を温め続けるには魔石が必要とのこと。
ホーフーンと相談してクーオに依頼することを決めた。
二階には書斎や客室が並んでいる。
書斎は本棚半分ほどの本が詰められており、中身を確認するとこの森の木々や草花、山菜、キノコなどの図鑑がほとんどのようだ。
僕がお願いした香辛料の図鑑もある。
これはまた手が空いたときに調べることにした。
三階は大きな寝室がふたつとそれ以外にも寝室が複数あるようだ。
大きな寝室ふたつは僕とホーフーンの寝室らしい。
天蓋付きのベッドも備え付けてあり、これからの寝起きはここでしたほうが良さそう。
他の部屋もベッドなどは備え付けてあったし、来客時には困らないな。
クーオ用の部屋も用意しておこう。
ちなみに、昼食としてシャリナが作ってくれた山菜とキノコの炒め物は塩だけなのに甘みがあって美味しかった。
ホーフーンも旅慣れてはいるけど料理はそこまで得意なわけじゃないらしい。
まったく出来ない僕よりはいいと思うけどね。
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