第40話 ASMR!?


「......あれ」


目を覚ますと、美心の顔が至近距離にあった。


(......私も寝ちまったか)


つか、近いなオイ。危険な距離過ぎるわ。......ッッ、いや可愛い!!可愛すぎる!!直視できん!!


目を逸らしつつ、私は手を伸ばしベッドの脇に置いといた携帯を手に取る。電源を入れ、時刻を確認すると9時を回っていた。


「おお......!?」


8時間くらい寝たな。いつぶりだこんなに寝たの。頭は寝起きでぽわぽわしているけど、心なしか体調がよく感じる。


「......一度も目が覚めなかったな」


眠くて眠りについても、必ず途中で起きる。はずなのに、何故か今日は......ふと、横で眠る美心が目に入る。


(.....くちが開いとる)


小さな口をぽけーっと開きながらも、幸せそうな寝顔を浮かべている。


私は思わず人差し指で彼女の頬をつんつんと触れてしまった。


柔らかい感触。娘っつーか赤ちゃん的な可愛さもあるよな。


すりすりとすべすべで弾力のある白い肌を指先で撫でる。すると微笑んでいるように、美心の口角があがった。


(うりうり)


猫を触っているような、犬を撫でているような。構いたくなる可愛さ。いつまでも一緒に、側に居たくなるような......そんな感覚。


(と、これ以上やって起こしたら悪いな)


朝ごはんでも作っといてあげるか。久しぶりにホットサンドメーカー使おう。


きっと美心なら匂いにつられて目を覚ますに違いない。くくくっ。


そんな事を考えながら。指を頬から離そうとした......その時――


ぱくっ


「え?」


美心は私の手首と手を両手で掴み、人差し指を口に入れた。


(......!?!?)


「ちょ、み」


依然目を瞑り幸せそうな顔をしている美心。おそらくは寝ぼけているのだろう、彼女はそのままあろうことか――


「あっ......ひんっ、やめ」


はむはむ、ちゅぱちゅぱと私の指を舐めだした。いやお前それYooTubeだったら収益化停止され......って、あああっ。


ぞわぞわと背筋が、というか全身の力が抜ける。


「......ま、って......み、こ、あっ」


ぴくぴくと体が痙攣してしまう。


「......だ、だめ、......だめ、だってばぁ......あっ」


(......は、は、恥ず......なんて、声を......)


ちゅっ、ちゅーっ、とおしゃぶりでもしゃぶっているかのように穏やかな表情の美心。それとは対象的に悶絶する私。


ちゅぷちゅぷ、と美心の口内で舐め回される指。


(......だ、だめ、頭が......変になるっ......うっ、あ......)


ぼんやりと思考能力が働かなくなってくる。


その時――。


ハタッ、と美心が目を見開いた。がっしり掴んだままの私の手。眉間にシワを寄せ、彼女は状況把握に努める......そして、その視線が私の顔へと流れてきた。


目が合う二人。


美心は寝起きなせいか、とろんとした目つき。じーっと見つめる彼女はやはり可愛らしい。


そして、ついに彼女は私の指をおしゃぶりしていた事に気が付き、ゆっくりと口から出して解放してくれた。


美心のよだれがつく指。


彼女は側にあったティッシュをとり指を拭き拭きする。そして......彼女はにこりと天使のような微笑みを浮かべ、こう言った。


「......ごちそうさまでした」


「.......」


完全に脱力している私にはツッコミを入れる気力すら無かった。てか、立てねえ。......状況を理解した上でその台詞か。


私は再びぽふっ、とベッドへ倒れ込む。


「ママ、大丈夫ですか」


「あかん......体に力が入らん」


私の額に手を当て美心は言った。


「微熱......風邪が原因かな?」


「おめーだよ」


なんとか突っ込めるくらいには回復してきた頭。もう少しでヤバかった。なんかちょっと怖かった。


「風邪ならあたしにうつしときますか......あとでチューしてさ」


「やめろ、今度はガチで死ねる」


つーかお前いまチューって言った?気のせい?え、私ママなんだが......どーしたこの子。昨日から甘えん坊全開なんだが?


「ふひひひ」


「いや笑い方ー」


ぎゅうっと抱きしめてくる美心。......温かい。


「ママ」


「ん?」


「......えまさんって、ママとどういう関係なんですか」


「ただのネット掲示板の友達だよ」


「ホントに?」


「美心は何が知りたいの?全部答えるよ......不安だったんでしょ?」


「.......まあ、そこそこ」


妙な強がりを見せる美心が愛おしい。......これは、彼女が遙華だからか美心だからか、アリスだからなのか。


様々な顔を持つ彼女。


けれど、そのどれもが等しく愛おしい。


「でも、えまさんのこと聞くのはちょっと気が引けます......」


「そう?」


「そうですよ。知らない所で自分の噂話みたいな、そんなのいい気しない......かも」



「......そっか。まあ、そうかもね」



「だから、ひとつ。ママにひとつだけききます」


「ひとつ、だけ?......なに?」



「ママにとって、あたしって何なんですか」



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