第6話 私のこと信じて
「そろそろ寝るか」
「そうですね」
夕食、お風呂と終えた後、話したり一緒にテレビを見ていたりしているとあっという間に時間は過ぎ、気付けば11時。
「で、どこで寝る?」
一緒に寝るといってもさすがに彼女のベッドで2人寝るのは危険だし、絶対に寝不足になる。
「ここではダメですか?」
彼女はリビングから別の部屋に移動をするので後を着いていくとその部屋には勉強机やベッドがあった。
「せ、狭くないか?」
「ぎゅっとしたら大丈夫かと。ほら、来てください」
一度試してみようとのことで歩夢はベッドに寝転がり、俺が来れるスペースを作る。
(ぎゅっと……密着して寝るつもり!?)
けど、ぎゅっととか言われたら断れない自分がいた。襲いかかるつもりは全くないが可愛い彼女を抱き締めたくはなった。
女子のベッドに寝転ぶという緊張感と共に俺はゆっくりと彼女の横に寝転んだ。すると、歩夢は俺に抱きついてきた。
「大丈夫ですね」
(いやいや、こっちは大丈夫じゃないよ!)
「で、電気消さないとな……」
ベッドから起き上がり一先ずリビングと寝る部屋の電気を全て消す。
再び、ベッドへ横になって寝転ぶと彼女が後ろから抱きしめてきた。彼女の方を向いていたら眠らないだろうと思って横を向いたものの抱きしめられたので意味はなくなった。
「あ、あのさ……」
「どうしました?」
「俺が前に歩夢と知らない男が一緒にいるのを見かけたって言ってたの覚えてる?」
「覚えてますよ」
遠回しに聞いてもちゃんとした返事は返ってこない。なら────
「実はその見た男の人が大和さんと似てるんだ」
あの男が大和さんと似ているだけでもしかしたら違うかもしれない。
けど、今日会って服の雰囲気とか、背丈とかあの時見かけた人と同じだった。
「大和さんと……。その大和さんといたという私と似た方は、どんな感じでしたか?」
「ど、どんなとは……?」
「その人の特徴とか大和さんとどんな感じでだったのか教えてください」
どんな……俺が見たのは、手を繋いでいるところと頬にキスをしたところだ。
特徴は……俺は横顔しか見ていないが、背丈とかは歩夢と同じだ。
「特徴か……横顔しか見てないけど髪の長さとか背丈は歩夢と同じだったな。大和さんとは手繋いだり、頬にキスしたり……」
俺が見たことを全て言うと歩夢が小さいため息をついた。
「なるほど、もしかしたらその方は小春かもしれません」
「小春?」
(だ、誰……?)
「妹です。匠くんには言ったことありませんでしたね」
「妹いたんだ……」
「はい。私と小春は後ろ姿が似てると両親からはよく言われてました。もしかしたら匠くんが見かけたのは小春と大和さんかもしれませんね」
じゃあ、やっぱり人違いだったのか。となると沙理が言っていたことは嘘と言うことになる。
「えっ、じゃあ、大和さんが付き合ってる人って、妹さん?」
「えぇ、そうですよ。小春は、あまり付き合っていることを知られたくないそうなので内緒ですよ」
「わ、わかった……」
やっぱり歩夢は浮気なんかしてなかった。きっと沙理も見間違いだ。
もう彼女のことを疑う必要なんてない。いろんなことを疑ってしまい、疑問点はいくつかあるが、妹と見間違えたのならもう気にすることはない。
「歩夢」
「はい、何ですか? 匠くん」
「何か色々と疑ってごめんな。沙理にも見間違いだったって言っておく」
「……誤解が解けたようで良かったです」
そう言った彼女は眠たくなってきたのか小さなあくびをしていた。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
***
『歩夢、後ろ姿とか背丈が同じくらいの妹がいるんだって。だから俺と沙理が見たのはその妹さんだと思う』
朝、起きると匠からこんなメールが、送られてきた。
「嘘に決まってるじゃん……。妹なんていないよ。あれは、楠さん本人だよ」
匠からのメッセージにわかったとは返信せずなぜそんなことがわかったのか問うことにした。
『妹? 本当にいるの? 嘘ついてる可能性は十分あるよ。妹がいるなんて誰にでも言える』
この様子だと匠は、私が嘘をついていると思っているだろう。幼なじみでも私より今は大切な人が言うことの方が信じたくなるもんね。
しばらくして匠から返信が来る。
『そうだけど。実は俺、昨日、3日前に見かけた男の人と会った。大和翔さんって言うんだけど歩夢のいとこだって』
『大和さんと』
そこでメッセージが終わり、この後何かメッセージが、来るのかと思っていたが、来る様子はない。
そして画面を見ているとさっきの『大和さんと』というメッセージが削除された。
何か言いかけていたが、何を言いたかったのだろうか。気になるが、削除されたから気にする内容でもないか。
匠とのやり取りが終わり、スマホから目を離すと匠からメッセージが来ていた。
『こう言っても沙理は納得できない?』
あれ、私の言ってることなんて全く無視して信じてくれてないと思ってたけどこの様子だと匠はまだ楠さんの言うことを全て信じてるわけではなさそう。
『できない。匠、楠さんじゃなくて私のこと信じて』
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