第9話 難易度Aの魔物と薬草


俺たちは昼食休憩を済ませて(俺は食べていないが)、早速次の依頼の場所へと移動することにした。再び収納魔法から魔道車を取り出して二人で乗り込む。



「さあ出発しようか」


「あの、一応聞いておきたいのですけど...あの山脈を迂回して行くんですよね?」



ルナが何だかぎこちない笑顔で俺に聞いてきた。

だから俺も(仮面で見えないけど)笑顔で答える。



「もちろん最短距離の山脈を越えていくつもりだ」


「え......」



ルナは一瞬にして幽霊でも見たような不思議な顔になる。

そういえばこの子、感情が顔に出やすいな。



「越えるって...あの山脈をですか?!」


「あの山脈を、だ」


「あの山脈は地上からは頂上が見えないほど高くて、頂上付近では天候が不安定だと聞いたことがあります。それにあの山脈はワイバーンなどの凶悪な魔物が沢山住んでいるんですよ!!危ないですよ!!!」



確かに山の天気は変わりやすいというし、その点は少し注意して進まないといけない。まあワイバーンやドラゴンとかの空を飛べる魔物が出て来てもまあ問題はない。


何と言ってもこの魔道車は特別製だから...!



「もし仮にドラゴンが出て来ても問題ない。快適な旅になることを約束しよう」


「...オルタナさんがそう言うなら、信じます」



ルナはそう言うと少し不安そうにしながらも魔道車の中へと乗り込んだ。魔道車のことを嫌いになってしまっては悲しいので、出来る限り心配させないように出来る限り安全な運転を心がけるとしよう。


そうして俺たちは魔道車で森の西側に広がる山脈を越えるために出発した。






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山脈の東側の森を出発して約30分後、俺たちは二つ目の依頼の場所となる山脈西側の森へと到着した。



「どうだ、思った以上に何もなかっただろ?」


「途中でワイバーンの群れを見かけた時には死んだかと思いました...」



特にトラブルも何もなく山脈を越えることが出来たのだが、どうやらルナは途中で遠目に見えたワイバーンの群れにひやひやしていたようだ。


しかし、以前にも説明した通りこの魔道車には透明化機能が付いているため知能が低いワイバーンでは透明化状態の魔道車に気づくことはまずない。



「大丈夫か、少し休憩するか?」


「いえ、大丈夫です...!」



何だかため息をついて顔色も少し悪い気がしたので休ませようとも思ったが、どうやら先ほどのことを思い出して不安になっていただけのようだ。すぐに元の調子に戻っていたので安心した。



「では、ここでは難易度A:デッドリーサーペントの討伐をするわけだが流石にこの魔物相手に君に攻撃魔法の練習をさせるわけにはいかない。だから今回は支援魔法で俺の援護を頼む」


「はいっ!任せてください!!」



ルナは説明を聞いて自信満々に答える。

実際、彼女の支援魔法は本当に頼りになる実力をしている。



という訳で俺たちは到着して早速だが、デッドリーサーペントの討伐に向けて行動を開始した。まずは俺が探知魔法で森全体を調べる。



「...ここから500m西にいるな」


「了解です...!」



俺が先導しながら二人でデッドリーサーペントのいる方へと走り出した。デッドリーサーペントは猛毒の吐息を吐く5m級の大蛇であり、巨大な体躯に見合わない俊敏な動きに鋼鉄並みに強固な鱗が特徴の魔物だ。視力があまり良くない代わりに音や臭い、それに体温を探知する能力に長けている。


そのため、やつに奇襲を仕掛けるのは難しい。つまり接近したら即戦闘になるということを覚悟して挑まなくてはいけない。


戦闘の際にはやつの猛毒にも気を付けなければいけないが、その巨体による物理攻撃などにも要注意しなければならない。やつの締め付けや薙ぎ払い攻撃で巨木でさえ一撃で粉々になるほどの威力がある。



そういうこともあり、デッドリーサーペントの元へと向かう道中でルナは俺と彼女自身に防御力上昇や毒耐性上昇、物理攻撃力上昇、魔法攻撃力上昇、移動速度上昇の5つの魔法を付与してくれた。


同時のこれだけの支援魔法を付与できるのは本当に凄い実力である。もちろん今の事世界で支援魔法に重きを置く風潮がないのでそこまで重要視されていなこともあるが、普通は3つほどが限界なことが多い。



「もうそろそろ着くぞ。戦闘準備!」


「はいっ!」



俺たちは走りながら戦闘態勢に入る。

そして木々の間を走り抜けるとそこには開けた空間があった。


周囲に粉々に壊された木々があるのでおそらくデッドリーサーペントが動きやすいように辺りの木をすべてなぎ倒していったのだろう。



そのまま走っていると、その開けた空間のど真ん中に鎮座しているデッドリーサーペントの姿が視界に入ってきた。その時点でやつもこちらに気づいているだろうから即座に戦闘を開始する。



「ルナ、デバフを頼む!」


「了解です!!」



俺の掛け声とともにルナは立ち止まってデッドリーサーペントに複数の弱体化魔法を付与する。弱体化効果を喰らったデッドリーサーペントは辺り一帯に響き渡る強烈な轟音を放つと俺たちの方に向かって猛毒の吐息を放ってきた。



「ベッドロックウォール:エンチャント・ピュリフィケーション」



俺は猛毒の吐息の射線上に入り、土属性の中級魔法で強固な岩石の壁を創り出す。これらにはすべて光属性の浄化魔法の効果を付与させた。


すると大蛇の猛毒がその壁に衝突したが、見事にその壁は猛毒を受け取めて付与された魔法の効果によって触れた瞬間から無毒な液体に浄化されていった。



「ふんっ...!」



俺は吐息を放ち終わったその一瞬の隙を突いてデッドリーサーペントの接近する。そして収納魔法で異空間から剣を取り出し、やつの首を斬り飛ばす。


その間、僅か1秒に満たない時間だった。何が起こったのか気づいていないデッドリーサーペントは何も反応することが出来ないまま斬り飛ばされた首が地面へと転がっていった。



「えっ...」



後ろで援護をしていたルナが目を丸くして目の前で起こった出来事に驚いていた。斬り飛ばされた大蛇の首と本体とを視線が行ったり来たり何が起こったのか理解しようとしているようだ。



「ふぅ、これで討伐完了だ」


「...難易度Aを、こんな一瞬で...」



ルナはデッドリーサーペントを見ながら呆気に取られていた。そんなルナの様子も気にはなるが、今はとりあえず俺は大蛇の死体をすぐに収納魔法で回収する。


収納魔法で回収したものは異空間内で時間が止まって腐敗しなくなる。そして魔物の肉は新鮮なほど高く買い取ってもらえる。だからこそ新鮮なままで持って帰るには討伐後すぐに収納魔法で回収しなければいけないのだ。



「デッドリーサーペントをこんなあっさりと...やっぱりオルタナさんはすごいです!」



デッドリーサーペントを回収し終えた俺にルナが目をキラキラと輝かせながら駆け寄ってきた。何だか改めて褒められると照れくさいな。


でも今回はいつも以上に楽に討伐できたと感じていた。

そう、彼女の援護がとても効いていたのである。



「ありがとう。だが、これだけサクッと倒せたのはルナの弱体化魔法もかなり効いていたからだけどな。君のおかげでいつも以上に討伐が楽だった」


「ほ、本当ですか?!」



俺の言葉を聞いたルナはとても嬉しそうに笑顔で手をもじもじとさせていた。これはお世辞でも何でもなく心からの本音である。


やはり彼女の支援役としての実力は相当なものだと実感した。



「さてと依頼も完了したし、帰ろうか」


「......あ、あの...少しお願いがあるのですけど...」



デッドリーサーペントの討伐も終わって今日の依頼は全て達成したので帰るために収納魔法で魔道車を出そうとしたところ、ルナが俺のコートを掴んできた。


その様子が彼女の容姿の幼さも相まって、少し母性...というか父性を刺激されるような...保護欲に近いような、そんな感覚に襲われた。


俺は少し顔がにやけそうになるが、今はにやける顔がなかったので急ににやけ始めた変態だと思われずに済んだと安堵する。



「...何だ?」


「あの、ですね。ここの森で取れる薬草があるのですが、少しだけ採取してきても良いですか?」


「...依頼でも受けたのか?」


「いやっ、あの、実は...」



するとルナは少し申し訳なさそうな感じで説明を始めた。


彼女が求めている薬草『養魔草』はここの山脈の西側でしか採れない貴重なもので、採取する環境の危険さやオリブの街からの地理的な遠さも相まってその薬草から作られる薬がオリブの街でとても希少で高価なものになっている。


しかもその薬が彼女の母親が患っている病気の症状を抑える効果があるらしく、いつもこの付近まで来たらその薬草を採取して持って帰り、薬屋に納品することで少し割り引いてもらって安く治療薬を買っているとのこと。



「だからもしオルタナさんがよければ養魔草を採って帰りたいのですが...」


「ああ、別に構わない。ただし帰る時間の都合で探せるのは2時間が限度だ。それでもいいか?」


「はいっ!2時間もあれば十分必要な量は採れると思います!」



ルナは笑顔でそう言って早速薬草を探し始めた。

ついでに俺も暇だったから一緒に薬草を探すことにした。




そうして約1時間後、ルナと俺でちょうど10本の養魔草を手に入れることが出来た。内訳はルナが7本で俺が3本と圧倒的に数で敗北を期した。


さすがはいつも採取しているだけあってどんなところに自生しているのかを熟知しており、当たりを付けて探すのが上手だった。



「1時間で10本も集められるなんて...今日は運が良いですね!」


「いつもは何本ぐらいなんだ?」


「いつもだと、1時間で5本ぐらいですね。オルタナさんのおかげで今日はその倍も集まっちゃいました...!」



子供のような無邪気な笑顔で採れた薬草を見ていた。

その様子を見ていたら娘を見守る父親にでもなったような気分になってきた。



「...そろそろ帰るか」


「はいっ!」



そうして俺たちは魔道車に乗ってオリブの街への帰路に就いた。帰り道も特にトラブルも起こらず、ちょうど予定通りに事が運んだので俺たちが町に着いたのはまだ日が沈み切る前だった。

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