第7話 初依頼と実力


「お、おはようございます!オルタナさん!」



俺がギルドに入るとギルドのテーブルでそわそわしながら座っていたルナと目が合った。俺に気づいた彼女はイスから飛び上がるとすぐにこちらへと駆け寄ってきた。



「おはよう、ルナ。ずっと待ってたのか?」


「いえ、先ほど来たばかりです...!」



彼女の挙動から何となくその発言が嘘であることは分かる。おそらくパーティ活動初日ということもあって緊張でもしているのかもしれない。



「とりあえず今日は簡単な依頼でも受けて、君の実力を把握しておきたい」


「わ、分かりました...!」



体がカチコチで緊張しているのがすぐに分かる。

まずは彼女の緊張を解すところから始めた方がいいだろうか。


そして俺たちは二人で依頼が貼られている掲示板の前へと移動した。そこには依頼の難易度ごとにたくさんの依頼書がびっしりと張り巡らされている。



「ん...」



俺は難易度が比較的低い魔物の討伐依頼と、その依頼場所の近くで出来る難易度が高くて報酬がいい依頼がないか探した。


なかなかそう条件に合う依頼は無かったが、許容範囲内の依頼書を二つほど見繕うことは出来た。難易度D:カーニバルトーティス討伐の依頼と難易度A:デッドリーサーペント討伐の依頼の二つである。



この二つはオリブの街から西方面にあるドーン山脈を中心として東西それぞれに広がっている森が依頼の場所となっており、直線的には近い部類である。しかし普通にこの二か所を行き来しようとすると山脈を迂回しないといけないので馬車なら2~3日はかかるだろう。


だが俺の所有する魔道具があれば山脈越えはものの数分で可能である。



「ではこの2つを受けようか」


「これ、ですか。ということは数日分の食糧を買わないとですね」


「いや、今日中に終わらせる」



ルナは見事に頭の上に?を浮かべて何を言っているか理解できないでいた。彼女は一度俺の魔道車を見ているはずだから理解は出来ると思っていたが...


まあこれから慣れてもらえばいいだろう。



そして俺たちはギルドの受付嬢にこの二つの依頼を受注処理してもらい、少しだけ準備のための買い物を済ませてから出発することになった。






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「な、なるほど...これがありましたね」



俺が街を出てすぐ先に見える森の中で収納魔法で異空間から魔道車を取り出すとルナは今日中に終わらせると言った俺の発言にようやく納得したようだった。


依頼の森と山脈の場所自体もオリブの街からそれほど遠くはないので確実に日帰りで依頼を達成することは可能だろう。まあ討伐にかかる時間によってはギリギリになる可能性も無きにしも非ずではあるが。



「じゃあ、出発するぞ」


「は、はい!」



俺が魔道車の準備を終えてルナを呼ぶ。ルナがちゃんと座ったことを確認し、魔道車に魔力を流し込んで発進させた。そうして俺たち二人を乗せた魔道車は猛スピードで目的地に向かって動き始めた。






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魔道車を走らせておよそ数十分、俺たちはオリブの街から西に約80kmほど離れた目的地の森へと到着した。


今居るのは山脈の東側にある森で、ここには依頼にある難易度Dのカーニバルトーティスが生息している。カーニバルトーティスは体長2~3mの大きな人食いリクガメという感じの魔物である。


この魔物は強靭な顎による嚙みつきが強力で、噛みつかれたら食い千切るまで離さない凶悪な生き物である。それに防御力がとても高く、物理攻撃はあまり効かないので魔法で攻撃するのが定石と言われている。


だからこそ今回、ルナの魔法の腕前を確認するのに合っている相手だと思ってこの依頼を選んだのだ。



「まずはカーニバルトーティスからですか?」


「ああ、ルナにはカーニバルトーティスと戦ってもらって魔法の腕前を確認しようと思っている」


「わ、分かりました...!」



ルナは少し緊張した面持ちで両手で握りこぶしを握る。おそらく一人で魔物を討伐するのはパーティで支援役として活躍していたこともあり、あまり経験がないのかもしれない。



「まずは相手を探すか...」



俺はすぐに索敵魔法を発動させて周辺に目的のカーニバルトーティスがいないかを探してみる。すると半径10km圏内に23匹いることが分かった。


具体的な場所や数はさておき、ルナには最も近いものから5体だけの場所は伝えておく。今日の依頼ではカーニバルトーティスを5体の討伐をする必要があるからだ。。



「それじゃあ行くぞ」


「えっ、あ、はいっ!」



何故だか少しルナは困惑したような表情をしていたが俺は特に言及はしなかった。そして俺はルナを先導して一番近くにいるカーニバルトーティスの場所へと向かって歩き始めた。






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森を少し進んだところでようやく最初の一匹を発見した。

まだこちらには気づいていないようなので茂みに隠れて様子を伺う。



「君の実力を知りたい。だから最初はルナ一人で頑張ってみてくれ。もし危険な状態に陥っても俺がいるからそこは安心して戦ってきてくれ」


「わ、分かりました...!」



ルナは小声で少しまだ緊張交じりの返事をした。少々心配ではあるが、まあ彼女も攻撃魔法は苦手とはいえ元Sランクパーティの一員だ。俺が心配する必要はないだろう。



ルナは静かに立ち上がって大きく深呼吸をする。そして人が変わったかのような真剣な表情へと変わり集中力を高め始めた。


するとその直後から自身に身体強化、移動速度上昇、防御力上昇、魔法攻撃力上昇の魔法を次々と付与し始めた。流石はSランクパーティで支援役を一手に担っていただけはあり、無詠唱でこれほどの強化魔法を発動させられるのはかなり凄い。



そして彼女は全ての強化魔法をかけ終えた後、休む間もなく今度はカーニバルトーティスに向けて弱体化魔法を発動し始める。


しかし今度は先ほどのように一つずつ魔法を発動していくのではなく、魔法をすぐに発動させるのではなく発動待機状態にして別の魔法を準備する『累積詠唱』という技術を使っていた。


これによってルナは攻撃力低下、魔法耐性低下、鈍足化と3つの魔法を発動待機状態にさせていた。これは無詠唱よりも高等技術で、発動待機状態の魔法が増えるほどそれらを維持するのに緻密な魔力操作が必要とされるのと同時に高い集中力が求められる。


これを無詠唱と同時に3つの累積詠唱を行っているのだから魔法使いとしての技術は一流と言っても過言ではないだろう。



「では、行ってきます...!」



ルナはそう告げると発動待機状態にしていたすべての弱体化系魔法を一気に発動させた。するとその直後、カーニバルトーティスが奇声を発し始める。おそらく彼女の魔法がちゃんとやつに付与されたのだろう。


そしてついにカーニバルトーティスがルナの存在に気づいた。だが今のやつにはすでに多数の弱体化効果がかけられており、その影響による不快感で怒り状態になっていた。


さてここからが彼女の戦闘面での実力が見れるいい機会である。



「いきます...!ファイアボール!!」



ルナは初手に火属性の初級魔法『ファイアボール』を無詠唱で発動した。単純な火球を生み出して相手にぶつける攻撃魔法である。



「グアァァ!!」



鈍足化の影響で上手く身動きが取れないカーニバルトーティスは避けきれずに火球がその体に直撃した。着弾したところで小規模の爆発が発生しかなりのダメージが入ったかのように思われたが、カーニバルトーティスはまだピンピンしていた。



「っ...!ウィンドカッター!!」



攻撃を受けてカーニバルトーティスが怯んでいる間にルナは追撃を仕掛ける。風属性の初級魔法『ウィンドカッター』、圧縮された空気の刃を発射する魔法をこれまた無詠唱で発動した。



「ギャオオオ!!」



ルナはカーニバルトーティスが倒れるまでこの魔法を打ち続ける。次第に硬い亀の皮膚にも傷が入り、そして出血にまで至った。



「グオオオオ!!!!」



さすがに命の危険を感じたカーニバルトーティスは捨て身の突進攻撃を仕掛けてきた。未だに鈍足化の魔法が効いているおかげでそこまでのスピードを出せてはいないが、ルナのウィンドカッターを直撃し続けながらも彼女へと迫っていった。



「っ...ロックブラスト!!」



さすがに距離を縮めてきたので彼女は別の魔法に切り替える。土属性の初級魔法『ロックブラスト』、小さな石の塊を発射して相手にぶつける魔法を向かってくるカーニバルトーティスの頭を狙い発射する。



「ギャオオオッ!!」



ウィンドカッターで血まみれになったところにロックブラストが頭に直撃し、ついにカーニバルトーティスは苦しそうな叫び声をあげてその場に倒れ込んだ。どうやら討伐出来たみたいだ。



「ふぅ...で、出来ました!」



ルナは嬉しそうな笑顔でこちらに向かって手を振っていた。

俺は茂みから出てルナの方へと歩いて向かう。


まあ難易度Dとはいえ、一人で討伐出来たのだからとりあえずは及第点というところだろうか。ただこの戦いで彼女が攻撃魔法が苦手だという理由がよく理解できた。



「とりあえず討伐おめでとう。この戦いで君の魔法の腕に関して大体理解できた」


「あ、ありがとうございます!オルタナさんから見て...その...ど、どうでしたか?」



ルナは俺の評価を恐る恐る尋ねてきた。

内容を聞くのが怖いのかあまりこちらと目が合わない。



「...正直に言ってもいいのか?」


「は、はいっ!よろしくお願いします!!」



ルナは覚悟を決めたようで俺の目をじっと見つめて答える。

そこまで気を張る事でもない気がするが...


俺は彼女のお望み通りに素直な感想を伝えることにした。

もちろん言い方は考えて...だけども。





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