ORVERs!!
霧屋堂
File:1 A Man of Mass Destruction (1)
20年前、東京が崩壊した。
「炎」の能力を持つORVERS(オーバーズ)が突如国の主要機関を襲撃。
全省庁、各交通機関、国立国会図書館、最高裁判所を含む23区の国家機関、公共交通機関を破壊しつくしたのち、逃走。国際手配までかけられたものの、その後の消息はいまだ不明となっている。
これがORVERSと呼ばれる能力者達が社会に認知された最初の事件、そして東京が再編成されるきっかけとなった事件だ。
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自分の親が言うには、超能力者というのは、20年前までは創作作品に多く登場するほどのあこがれの的だったらしい。
今の自分たちの境遇からは考えられない事だ、むしろその時代に生まれたかったとすら思う。
20年前、「東京大炎上」という僕らと同じ能力者…オーバーズが起こした大事件により、オーバーズは僕らの親世代からは恐れられる対象となっている。
オーバーズは生まれた時点で政府に登録され、管理下に置かれる。プライバシー侵害まではされないが、事件でも起こそうものなら即刻射殺すらあり得るのだ。
幸運な事に、管理下に置かれるようになってから、僕達は3分の1の割合で存在することが判明し、あまりにもひどい差別を受けることはない。
しかしながら生殺与奪を国に握られているのってのはどうもいい気持ちにはなれない。
まぁそんな事なんて、僕にとっては今の目の前の惨状よりはどうということのない事だろう。
「破堂くん、またやったの?」
店長の視線が痛い、
「すいません、また能力が」
「いやね、わかるよ?君の能力も承知で雇ってるのよ?でもさぁ」
「今月5回目はさすがに看過できない、ということですかね…」
店長の静かな怒気がヒリヒリと刺さる
「給料から天引きするから、いいね?」
「すいませんでした…」
自らの能力に振り回されている様では、事件を起こす気にすらなれないからだ。
触れた物を破壊してしまう能力、政府には「破壊」と登録されている能力を持つオーバーズ、それが僕、
厄介なことにこの能力は、自分の任意で出すことができない。いつ発動するのか、いつ発動してないのかもわからない。
この能力でまだ人を殺していないだけ幸運なのかもしれない。
バイトの給料を天引きされるぐらいには厄介な目にあわされていることには変わらないが。
「生活費が減っていく…もやし生活に落ちぶれてしまうぞ、僕」
とぼとぼと帰宅した安アパートとの一室で、一人項垂れる。
せっかくあの田舎から出てきて新東京まで出てきたと言うのに、何も変わりばえがない日々にうんざりする。
「とりあえず飯食って寝るか…」
こんな自分も大学生の身分故に、明日の朝も早いのだ。
兄から送られてきた仕送りの中からソーセージの袋を取り出し、じゃがいもと玉ねぎと一緒に炒める。
あらかじめ炊いていた白米を茶碗に盛り、皿によそったジャーマンポテトもどきと一緒に頂く。
ポテトは胡椒を効かせすぎたのか、少々辛かった。
食べ終わった皿をさっと洗ってから床に着いた。
次の日は何故か目覚ましがなるよりも早く起きてしまった。珍しいこともあるものだと思いながら、昨日少々余ったジャーマンポテトを白米といただき、余裕を持って外へ出た。
そこまでは日常だった。玄関前に黒服の男が立っていた事以外は。
「あ、あの?」
「お前が破堂 甲矢だな?」
「そ、そうですけど」
借金取り?ヤクザ?それとも一体…と思っていると
「悪いがキサマに同行を求める、これは任意じゃない」
「け、警察?」
「悪いが名乗れない、大人しくすれば乱暴には─」
咄嗟にヤクザか何かだと判断した僕は、その隙にドアと黒服の隙間をぬけ、全力疾走で逃げ出す。
「おい待て!クソッ!」
怖くて振り返ることはできないが、おそらく黒服が追いかけてきているのがわかる。
「こちらハスキー1、対象が逃げた!増援を頼む!」
そう聞こえた、そりゃあ増援ぐらいいるだろうけど、ここまでベタな追われ方ある?とすら思える展開だ。
このまま走っていてもいずれ捕まる、人混みに紛れれば助かるかもしれないと思い、近くにあった地下連絡通路に逃げ込む。
地下鉄直通ルートのある方を目指して道を曲がるが、何故か今日に限ってシャッターが閉じている。
「アイツらが塞いだのか?」
周りでも
「なんでシャッター降りてんだ?」
「おいおい遅刻しちゃうよ……」
などぼやきが聴こえる、どうやら本当にアイツらの仕業らしい
「こうなったら…」
シャッターに手を当てる、「破壊」なら壊せるかもしれない。
3秒、5秒、時間だけが流れるだけでシャッターはビクともしない、複数人が走る足音が迫ってきているのも感じる。
「なんでだよ…こういう時ぐらい僕に力を貸せよ !このクソ能力!」
拳を叩きつけようとした瞬間、シャッターが砂の様に跡形も無く崩れ落ちた、「破壊」が発動したのだ。
「待て!破堂甲矢!」
後ろからは黒服の集団が迫ってきていた。それを見て我に返り、空いたシャッターの向こうへ逃走する。
駅の改札に定期をかざし、ちょうど来た車両に急いで乗り込む。
ドアの方を振り返るとようやく黒服達が降りてきたが、ドアはもう閉まってしまった。
逃げ切ったことに安堵し、深く息を吐こうとしたら何かに腕をつかまれた。
「えっ?」
「捕まえたよ、破堂 甲矢君。なかなか言い逃げっぷりだったね?」
その声を最後に、意識は暗転した。
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