本編続編────エピローグ

「カーラ。準備はできた?」


 声をかけてから、レフは控え室の扉から滑り込む。

 今日はレフも、首にリボンをつけて、おめかししていた。


 ウエディングドレスを着てヴェールをつけたカーラが、振り返って微笑んだ。


 細身のドレスは裾にむけて上品に広がる。極薄のヴェールに施された白い花の刺繍はため息が出るほど繊細だ。


 そして何より。

 つやつやと輝く銀色の髪。

 エメラルドのような翠色の瞳。

 惜しげもなくデコルテと肩を出したデザインが、カーラの肌の艶やかさを最大限にひきたてている。


「綺麗。可愛い。素敵。カーラ最高。この感動を表現するための語彙がこの世界には足りない」


「レフったら」

 くすくすと笑う。


「おめでとう」


「ありがとう」


 微笑むカーラは、まるで世界の美を集めたような。

 幸せを擬人化したらこんな感じっていうか。


「コランめ……うらやましいぞ」


「ふふ」


「あ、ドレスに毛が」


 ひょいと膝に抱き上げられて、焦るレフ。

 今日ばかりは絶対に汚せないし、もし爪が引っかかったらどうしようとヒヤヒヤする。


「大丈夫よ。────いつまでも一緒よ、レフ」


 レフの顔をいたずらっぽくのぞきこんで、カーラが言う。


「いつまでも大切なレフ。私と、一生をともにしてくれますか?」


 ────!!


 どうしよう、コランに妬かれちゃう。

 嬉しすぎて、尻尾の動きがふりきっちゃうわ。


「よろこんで!」




「カーラさぁん、そろそろです〜」


 扉の外から、ノックの音と、ケイトの声が聞こえる。


「どうぞ」


「失礼しまぁす」


 純白のカラーリリーのブーケを持って、ケイトが顔を出した。若草色のワンピースが可愛らしい。


「あ、レフちゃん!」


「やっぱりそのブーケ、カーラにぴったり!」


 華やかで、でもスッキリと無駄がなくて。まるでカーラの佇まいのようだ。


「でしょ?!」


「ありがとう、ふたりとも」


「本番はこれからですよぅ」


「ふふ、転ばないようにしないとね」


「そしたら私が助けるから!」




 …………………………


 ……………………


 ………………




 ここから、新しい日常がまた始まるのだ。


 かわるもの。


 かわらないもの。


 全てを飲み込んで、今は未来に向かって流れて行く。


 これは夢じゃない。


 悲しいことも。


 幸せなことも。


 後悔も。


 希望も。


 憎しみも。


 愛しみも。


 すべてを連れて、私たちは生きてゆくのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る