第95話

ガウスとの昼食を終えた後、俺は不安な気持ちを払拭するために研究所エリアへやって来た。なんでいつもここに来る時は妙な覚悟が必要なんだろう?


黒いドーム状の建物がいくつも並んでいる中、一つだけレンガで出来た施設があり俺はそこの扉を開けた。


「ミヤビいるか?・・・って熱!」


扉を開けた瞬間、建物の熱気が押し寄せて一瞬火事でも起きているのかと思ってしまった。


「あ!コウキ様いらしていたのですね」


奥にいるミヤビが俺に気付くと二本の尻尾を揺らしながらやって来た。

作業中たっだのか防火性の高い服装で身を包んでおり物凄い汗をかいていた。


「悪いミヤビ作業中だったか?」

「はい、今丁度一段落したところです」


笑顔で言うミヤビ。ガウスの言う通り随分とイキイキとしているようだ。


「ガウスから聞いたんだけどなんかゾアと共同で開発しているとか?」

「はい、ゾア様が考案した刻印魔法をガラスに施せるかテストしていたのです」


ガラスでの刻印魔法か・・・それは興味深いな。基本刻印魔法は魔力が流れる回路が特定の形を取る事で発動する。


「ガラスのような脆いもので刻印を作るのはかなり難しいと思うが?」

「そうなんですよ!刻印の溝を作るのも大変なんですが、まず強度が足りないのです!」


俺の問いを聞いた瞬間ミヤビは目を輝かせて色々と説明してくれた。作業工程からガラスの強度、素材による透明具合や色付けなど・・・始めて会った時は他の長同様、土下座挨拶という印象が強かったがこっちが素なんだろう。


なんというかオタク気質があって親近感が湧くな。


「っは!すみません私ガラスの事になるとつい話し込んでしまって」

「いや、ミヤビがそれだけ好きなんだって事は伝わったよ。それで実験の結果はどうなんだ?」

「はい、試作段階でゾア様の設計通りの動作は行えました。後は色付けや芸術性を高めて素晴らしいものを作ってみせます!」


なんというか好きな事が出来て凄くイキイキとしていらっしゃるな。


「あ、こちら試作で作ったコップです。【冷却】と【解毒】の二種の刻印が施されています」


そう言ってミヤビが取り出したのはシンプルなガラス製のコップ。取っての部分には模様がありコレが刻印なんだろう。


「試作段階では私が作りやすいコップの形で作成しましたが夜会で使用されるものはもっと綺麗な物を用意します」

「夜会って・・・マイ箸ならぬマイグラス?そこまでするか?」

「しますよ!食事による毒殺の危険性も考えてコウキ様達が使用する食器類はしっかりと用意させていただきます!」


ミヤビが力強く宣言し俺は『がんばれ』としか言えず工房を後にした。


「ふぅ・・・ゾアが何やら企んでいると聞いて心配したが逆に心配されての準備だったか」


意外と俺の安全を考えての行動だと知り感動した・・・っがここで何かやらかすのがゾアだという事を俺は知っている。


ついでと言わんばかりに俺はゾアの研究所にも顔を出すことにした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ゾアの研究所に向かうと何人かの技術者が集まって何か大きな箱みたいなのを作っていた。


「おお!コウキさんどうないしたんですか?また抜き打ちでっか?」

「まあそんなもんだが、ミヤビに食器を依頼したんだってな。わざわざありがとうな」

「いえいえ、用心に越したことはないと思いまして」


ゾアの意見はもっともだが心配してくれての行動は嬉しいが・・・やはり後ろで作っている怪しげな物体に不安を隠せない。


「ゾア、アレはなんだ?」

「アレですか?アレはコウキさん達が王都へ向かう時に使用する乗り物や」


馬車か・・・確かに見た目は馬車だ。けっこう大き目で6人くらいなら余裕で入れそうだ・・・なんだけど。


「馬車・・・じゃないんだろうな」

「ふふふ、コウキさんワイがタダの馬車を作るとは思っておらんよな?」

「・・・だよな。どんな仕掛けが付いているんだ?」


俺の質問を待っていましたと言わんばかりにゾアのゴーグルが光る。


「よくぞ聞いてくださいました!こいつには空間魔法はもちろん、車輪には地脈から魔力を吸い取る機能が付いているんや!」

「地脈?」

「せや!またの名を龍脈とも呼ばれとるが、大地には膨大な魔力が流れているんや。まあダンジョンは隔離された空間やから無いんやけど、ジェコネソに行った時に地脈に流れる魔力を感じ取ってなこれを利用できないか考えとったんや!」


大地に流れる魔力か・・・ファンタジー世界あるあるだな。だがその魔力を利用するとか随分と凄い発明をしたな。


「コレがあれば内部の空間を常時維持できるっちゅうわけや」

「そいつは凄いな・・・この技術を使えばダンジョンの外でも中が広い建物が作れるのか?」

「理論上は可能や・・・一応その理論の内容はテオプアにも流してある」

「流したって・・・そう言えばお前グラムに何か紙を渡していたな!アレをヒュウ達に渡したのか?」

「ピンポーン!ワイがジェコネソとかで実験するのもええと思ったんやけどせっかくやし、グラムはんに挑んだ報酬っちゅうことでワイが渡しておいたんや」


お前そういうの情報漏洩って言うんだぞ・・・まあゾアにとってこれは漏洩しても困らない内容なんだろうけど。


「ちなみにこの馬車はそれだけやないで!この馬車には6通りの変形が可能で、66もの刻印魔法が施されておるんや!」


ハイテンションに説明するゾア・・・なんてくだらないものに力を注いでやがる!


「その頑丈さは隕石が直撃しても、海底1万メートルの水圧でも、マグマの高熱にでもへっちゃらな耐久性。たとえグラムはんの渾身の一撃でも10発までは耐えられるほど!」


つまり11発目には壊れるわけだな


「しかも!マリーのこだわりインテリアも入れて中はものすごく快適や」


あ、それはすごくうれしいかも。


中を見てみるとどこかの高級ホテルみたいな感じでベッドやソファーなんかも置いてある。個別の部屋もいくつも用意してあることから、グンナルたちも中で休むことができそうだな。これは馬車というより高級キャンピングカーだな。


「耐震、防音、防熱機能もあるから外の影響も全く受けない。夜もぐっすり寝れるで」


ふーむ、こうしてみると技術開発部門のすごさがよくわかるな。


「すごいじゃないか!やっぱりゾア達の技術力は半端ないな」


「ちなみに、何かが起きた時のために、『自爆機能』も付いておるで!」

「今すぐそれを外せ!」


やはりゾアは期待を裏切らない男であった。

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