第33話


「黄色と赤。どちらの私をご所望でしょうか?」


 朝早くから迫られる二択に僕は困惑した。


「えっと、意味がわからない」


「だから、浴衣だよ! 二種類ご用意がありますが、どちらが良いですかって聞いてるんだよ」


「あー、なるほど浴衣か……」


 八月三十日。この世界に居られるのも後二日となった、僕のきっと最後のイベント。ずっと覚悟はしているものの、あまり考えないようにしていた。考えたくなくて、頭の片隅に強引に押し寄せている。


「赤、かな。きっと、よく似合う」


「いいセンスだね。それじゃ、私は今から春華のところ行って着付けしてくるから、お昼ぐらいに集合ね!」


 祭りに行くというのに早すぎる集合にどこか既視感を覚える。


「まぁ、いいけど」


「そうだ、せっかくだから幽霊くんも浴衣を着なよ!」


「いやだよ。恥ずかしいじゃん」


「だーめ。じゃ、私も着ません」


「うっ……わかったよ。でも、今から浴衣? 着物? って言われてもなぁ」


 そのようなものを人生で着た記憶がないため、どこに行けば調達できるのか全くわからない。


「じゃ、大人に頼ってきなよ」


 急に真面目な顔をする彼女。


「大人? ……あぁ」


 彼女の言いたいことが分かった。

 ちゃんと、挨拶をしてこい。そう言いたげな彼女なりの気遣いを感じた。


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他サイト様主催スターツ出版大賞最終選考作品の加筆・修正版です。

旧名「夏色リバイブ」


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