幼馴染がグレてしまった。

伍煉龍

陽月事変 - 前編

 月照透小学校は、朝のHR、午前中は45分授業が4コマと15分の中休み(2時間目と3時間目の間)があり、給食後は30分の昼休みがあり、午後からはまた2コマの授業がある普通の学校だ。


 10月28日(金)、運動会や学際も終わり、普通の日常に戻り始めていた。


「昨日のドラマ見た? もうガンくんサイコーだったよね!」

「うんうん。ジュンくんと一緒に犯人を追い詰めるところとか特に!」


 などと教室の隅で盛り上がる女子の会話。内容は全く興味ないのに耳障りなほど大きな声で話しているせいで嫌でも耳に入る。


『うるせぇな。勉強進まないだけど』


 和泉いずみ伊澄いずみは運動場側一番前の席で市販のワークをしていた。


「分からないの?」


 科野しなの果穂かほが伊澄の椅子を引きながら聞く。


「集中できないだけだよ。うるさいし」

「確かに今日はみんな来るの早いね。何かあったっけ?」


 魔が朝のHRの15分前だというのに34人クラスのうち30人は来ている。普段ならクラスの半数程は5分前から来ることが多いのだが、今日はなぜか皆早い。


「興味ないね。それより、果穂は勉強しなくていいの?」


 伊澄は筆箱すら置かれていない、果穂の机を見ながら言った。二人は同じ私立中学を受けようとしているのだ。


「私が勉強できるの知ってるでしょ」

「はいはい。どうせ俺はバカですよーだ」


 そう言って伊澄はそう言ってワークを進める。


「何やってるの?」


 果穂が覗き込んでくる。


「『場合の数』だけど、まだやってないところだよ。多分来年するところだし」

「へー、難しいの? 私もやってみたい」


 果穂は机から身を乗り出して伊澄のワークを覗き込む。ワークには図と問題文が書かれている。


「どうやってやるの?」

「知らない。どうせ答え見るし」

「駄目だよ、答え見てやったら」


 果穂はワークの答えを取り上げる。伊澄は黙ってワークの答えを奪え返して答えのページを開いた。しかし、鉛筆もペンも持たない。ただただ答えを見ているだけだ。


「え、何してるの?」

「答え見てる」

「うん。だよね。写さないの?」

「なんで? 解き方調べてるだけなんだけど?」


 果穂は目が点になったままワークの答えを一緒に見ている。すると、途端に伊澄は答えを閉じ、ワークと一緒にランドセルにしまった。


「どうしたの?」


 果穂はワークを目で追いながら聞いた。


「お前らいっつも一緒にいるよな」

「付き合ってんのかよ~」


 果穂の斜め後方から笑いながら男子児童が言っている。教室にいれば聞こえるくらいの声で言った。


「そ、そんなじゃないよ!」


 果穂は教室中に響き渡るような声で、顔を真っ赤にしながら言った。


「果穂うるさい」


 伊澄は右耳を指で押さえながら言って立ち上がった。


「付き合っていようが、付き合っていなかろうが、二人には関係ないでしょ」


 伊澄は二人の目を見て言った。表情はいたって普通だが、どこか声が冷たいような不思議な感じだ。


「なんだと!」


 伊澄の胸座を引っ張りながら言う。


「蘭丸君は面倒くさいよね。うまくいかなかったらすぐ何かに当たるし、君が壊したもの、誰がかたずけてると思ってるの?」

「うるせえ」(ドゴッ)


 蘭丸は伊澄を左頬を殴った。伊澄は殴り飛ばされ、教団に頭をぶつけた。


「和泉君大丈夫?」


 果穂が咄嗟に駆け寄る。

 ドアの近くにいた児童が先生を呼びに廊下に飛び出した。

 伊澄は何も言わずに立ち上がり、蘭丸の目の前に立ち、蘭丸の顔面を殴り飛ばした。すぐ後ろにいた児童とぶつかり二人そろって倒れた。


「次ちょっかいかけてきたらもっと痛い目に合わせてやる」


 伊澄は二人を見下しながら言った。二人はダッシュで廊下に逃げた。

 廊下に出た瞬間、二人は先生とぶつかった。


「走ったら危ないだろ。それにもうすぐチャイムなるんだから早く自分の席につきなさい」


 先生にそう言われ、二人は自分の席に大人しく座った。


「和泉君大丈夫かい? 殴られたって聞いたけど」


 先生がドアの辺りから伊澄に声をかける。


「帰る」


 そう言って伊澄はランドセルをもって教室を出て行った。何人かの先生が止めたが「邪魔」「ウザい」「帰る」しか言わず、力ずくで止めようとしたら、ランドセルを投げ捨て股下をくぐってダッシュで逃げだした。

 チャイムが鳴った頃には伊澄は校門の外に出ていた。



  ———放課後———


 果穂は学校のプリントをもって伊澄の家を訪れた。


「和泉君!私!......果穂だけど!学校のプリント持って来たよ!」


 インターホンを押しても返事をしないので、外から大声で呼んでいる果穂の声がする。しかし、伊澄は部屋に引き籠っている。


「返事して!」


 果穂はずっと伊澄を呼んでいる。


「あれ? 果穂ちゃん?」

「あ、和泉君の...」


 伊澄の母親が買い物から帰ってきて、家の前で伊澄を呼んでいる果穂に声をかけた。


「どうかしたの?」

「実は・・・」


 果穂は今朝学校であったことを話した。


「そう、ごめんね心配かけて。上がっていって」

「は、はい」


 果穂は伊澄の母に連れられて家に入って行った。


「お邪魔します」

「伊澄の部屋の場所分かる?」

「えっと、2階の右端の部屋でしたっけ?」

「そうそう。部屋で待ってて。お茶持っていくから」

「はい」


 果穂は伊澄の部屋の前に来た。


「和泉君入るよ」


 返事はないが果穂は部屋に入った。

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