NO!ゲーム脳(短編集その13)

渡貫とゐち

NO!ゲーム脳


「女性や子供が殴り合いをするゲームなんて認めません。

 こんなものを作ろうとするなんて……あなたの頭の中を開いて見てみたいものですね――」


「いや、これくらいのゲーム、他にもたくさんありますけど……。そもそも銃で殺し合いをしているゲームが何百万本と売れている世界ですよ? なのに、今更、殴り合いで……?

 レトロゲームを調べてみてください。殴り合っているゲームばかりです。そもそも『相手』を『攻撃』しているんですけど……、殴り合いを否定するなら、もっと他にも否定するべきものがあるでしょう……。なのに否定するのは、もう企画どうこうではなく、僕の発案か否かの問題ですよね――? それはもう、差別ですよ」


「……女性は、まあ大目に見ましょう。それでも、子供の殴り合いは認められませんね。子供が真似をしたらどうするんですか。あなたは現実の子供に、殴り合いを推奨したいのですか?」


「いえ……、つまり先生は、悪影響を与えてしまうゲームは作るべきではない、という意見なのですか? もしそうなら、たとえば『勉強』を推奨するような内容のゲームなら、大喜びで認めてくれると? しかし……そんなゲーム、子供がしますかね?

 ハッピーエンドを徹底したところで、現実の子供が幸せな世界を求めて動くわけではないですし、逆に、バッドエンドを見せたところで、それを求めるわけでもありませんよ。殴り合いのゲームをやらせて、殴り合う? 銃撃戦のゲームをやらせたら、戦争に憧れる? ――子供をなめ過ぎです。それくらいの分別はつきます。赤ちゃんじゃないんですから……。

 コントローラーの操作を理解できる頭があるなら、していいこととそうでないことの判断くらいできます。悪例を見せないことの方が、悪影響になると思いますけどね」


「見せないことで、悪影響を受けないに越したことはないでしょう? わざわざこっちから見せる必要はないわけです」


「あの……、そもそも対象は子供じゃないんですけど……。年齢制限だってありますし。大人が嗜むものを、偶然、子供が見てしまった、ってところまで面倒を見なくてはいけないなら、もうなにもできませんよ。

 ――子供の目が届く位置に酒を置くな、子供が通る道に車を走らせるな、もっと言ってしまえば、先生のその大きな胸だって、子供には悪影響ですよ? 子供のことを思うなら、さっさと潰して隠すか、切除した方がいいと思いますけどね……。

 でも、しませんよね――だってする必要がないから。自分の胸で子供が間違いを起こすわけがないと分かっているから。分別がつくだろう……、ダメなものはダメだと教えてあげればいいということを理解しているから――なら、同じことですよ」


 大人が子供に教える。


 そうやって、これまでやってこれたはずではないか。


「殴り合いのゲームだって、実際にするようなことではないと説明すればいい……、見せないことで考えさせないのは、指導者の怠慢じゃないんですか?

 悪いものは悪いと教える……、それって、そこまで手間ですか? それくらいしてくださいよ――大人になって新しく知る世界は、一発で落とし穴にはまりますよ。だって子供の頃に教えられていなかったから――。だからこそ、小さい内から耐性をつけておくんです。これは、そういう役目のゲームでもあるんですよ、先生――」


 肩を落とし、溜息を吐いた先生。


「……あなたには、説明しても無駄みたいですね……」


「いいから、子供たちに教えてあげてくださいよ。これはダメだ、と――。

 一度教えれば理解できる子たちばかりです。それとも先生の教え子は、そんな常識も分からないほどの『バカ』なのですか?」


「……分かりやすい挑発ですね。乗りませんよ……、けど、分かりました。どうせあなたでなくとも、別の誰かが作るのでしょう……、でしたら、先んじて指導するべきですね――」


「いやだから、もうあるんですけどね……――まあいいや。お願いしますよ、先生」


 渋々ながら、先生は子供たちに教えた。教育だ。


 ダメなことをダメだと……ダメなこと自体を視界に入れることさえも嫌がっていた先生だったが、さすがに、大人になって初めて知る世界で、復帰できないほど下に転落してほしくはないと思ったのだろう……、乗り気ではなかったが、無責任に投げ出すこともなかった。


「――みなさん、分かりましたか? こういった殴り合いのゲームや銃撃戦……えーっと、銃でばんばん撃ち合うゲームが流行っていますけど、実際に、友達を殴ったり、銃で撃ったりしてはいけませんからね? 分かりましたか?」


『はーい』


「ふう、みなさん理解してくれて先生も嬉しいです――偉い偉い」


 一人一人、頭を撫でていく。


 子供たちは、照れたり喜んでいる子が多いが、中には不快な顔をしている子もいる。


「せんせー」


「はいっ、なんでしょう?」


「いや、それくらいわかってるよ……ぼくたちのことばかにしてるの?」


「ゲームとはちがうって、わかるって。ゲームはゲームだし……、それともせんせーの方が、ゲームとげんじつをごっちゃにしてるの?」


「いや、そうではなくて……、ほら、分からない子もいると思いましてね……」


「いないよ」


 ひとりのおとこのこが、ぜんいんをみまわした。



「こんなこともわからない子なんか、うちの園にはいないから――ね、みんな?」



 …了

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