「怪人の主張」
「……やっときたか、ヒーロー……キサマの重役出勤のせいで大勢の人間が――危ね!?」
――パァン、という音が響き、発射された光弾が青空の向こう側へ飛んでいく……。
拳銃型の兵器を握る小柄なヒーローが、眉間にしわを寄せて――
「チッ」
「――ちょお待てコラ!! 挨拶代わりの1ラリーの会話くらいはしろ――うぉあっ、また……ッ、だから撃つな! こっちが喋り出したら攻撃してきやがってッ、油断も隙もねえヤツだな……っ」
「戦闘中に喋ってるおまえが悪い。それに、弱点を突かない命懸けの戦いなんて、相手を侮辱しているようなものだ――だからあたしは弱点を突く。いつ、いかなる時も」
銃口が常に怪人へ向いている……、絶対に、それがずれることはない。
「そういうのは弱点とは言わねえ! オマエがやってることは卑怯って言うんだよ!! 弱点ってのは、オレサマの怪我の傷口を執拗に狙うとかそういうのをだな――って、喋ってる途中に攻撃をするなって言ったよなあ!?」
「――知るか」
「ちょ、無表情で何発も撃つな――そもそも遠距離攻撃はずるくないか!?」
「…………」
「無言はやめてくれよ!!」
発射される光弾をギリギリで避ける怪人は、情けなく転びながらも、障害物や建物の陰を利用し、ヒーローから距離を取る……、可愛い顔して、やっていることはだいぶえぐい。
誰だあんな鬼畜なヤツに武器を渡したのは……、そう悪態を吐く。
鬼に金棒とはこのことだ。
それから、長いこと走り、やっと撒けたところで、怪人が一息つく。
中腰で、両手を膝につける彼は、冷静になったところであることに気が付いた。
「はぁ、はぁ、クソ……、会話もまともできねえじゃねえか……――あれ? でも……」
そして、聞き慣れた、パァン、という音。
その音を、怪人は聞くことができなかった。
音を拾っても、脳は音を認識しない。
認識しても、感じることができないのだから――。
怪人が倒れる。
ぶつかった衝撃で、空だったバケツが転がった。
「こっちも譲歩したぞ、怪人」
遠くのビルの屋上から。
スコープを覗く、小柄なヒーローがいた。
「喋っている間どころか、そもそもこっちの存在を気づかせない距離から眉間を撃ち抜いて終わらすこともできたんだ……、だけどそうはせず、顔を合わせて弱点を突くやり方は、最低限のコミュニケーションだ……。ヒーローの優しさに文句を言うんじゃない」
彼女は一仕事を終え、背筋をぐっ、と伸ばす。
彼女にしか分からない骨の音が体内で響き、色っぽい「んはぁ」という声を漏らした後――
彼女は、怪人の死体の回収を、部下に命じた。
「――これ以上の譲歩を望むのは、欲張り過ぎじゃないかね、怪人よ――」
…了
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