ラストアタック・デバフボーナス【後編】
根掘り葉掘り聞かれ、全てを包み隠さず答えた――吐かされた。
拷問を受けたわけではないけれど、いつもは優しい受付嬢さんが、冷たい目を向けてくれば……ついつい、全てを言ってしまったのだ。
……正当防衛だった、と言ったが、襲われた、と勘違いしているかもしれない……、ラドたちが討伐してしまった幻獣は、本来、人間に友好的な魔物であるらしい。
たとえ敵意を向けても敵意を返してくることはない……、なので、近づかれただけのことを、ラドたちが攻撃であると勘違いし、攻撃してしまった……――結果、討伐である。
幻獣のことも、あの生物が幻獣であることを知らなかったとは言え……、それでも罪は罪である。
ラドたちに悪意がないことに困った様子の受付嬢は、ラドたちの処分をどうするか、迷っていた。悪意があった方が、処分がしやすかったのに、とでも言いたげに、爪で机をとんとんと叩いている。段々と、その音が強くなっているので、ラドとシャルルは肩身が狭かった。
「あの……、ダンパー、は……」
「ダンパーさんにも聞きましたが、無関係を主張していましたよ」
「は……え?」
「討伐はラドさんであると。証拠に、ラドさんの部屋から、幻獣の素材が出てきましたから」
「――あ、あのっ、ちょっと待ってください!!」
思わず立ち上がったラドだったが……、しかし、ここで主犯はダンパーだ、と主張したところで、共犯であるラドたちの立場が軽くなるわけではない。
同じパーティなのだから連帯責任だ。誰か一人に責任を押し付けて、自分だけが逃げることはできない――それはダンパーだって分かっているはずだ。
主犯が変わったところで、ダンパーも共犯だ。だから――、彼の嘘には意味がない。
「ダンパーさんは先日、パーティには不参加だったのでは? 彼にはアリバイがあると、多数の証言を頂いていますので」
「――なによそれ!!」
今度はシャルルが立ち上がった。
受付嬢を睨みつけ、今にも彼女の胸倉を掴みそうだ。
「……一緒に冒険に出たのよ、あいつは……彼も同席していた……共犯よ!」
「そうですか。ですが、多くの証言があります」
「そんなのっ、金でアリバイを証言する証人を買っただけよ! 自分だけが罪から逃れたいから、その場にいなかったことにして……っ! 素材を独占したのも彼よ。でも、所持していることが罪だと知って、ラドに押し付けたんだわ……――最低な、クズ野郎ね……っ!」
「そうですね。まあ、こんな仕込みで逃げられると思っているなら笑い者ですよ」
「え」
「え」
「分かっています。主犯がダンパーだということくらいは。なので今から問い詰めにいきますので――お二人も同席、お願いできますか?」
「あん? なんの用だよ、こっちはガキ猫の躾けで忙しいんだが?」
ギルドの隣、食堂にいたダンパーは、ガキ猫もとい、ランビと同席している。
彼女は頭を低くしながら、ダンパーの様子を窺っており……、彼に買われた奴隷だったのだから、彼に意見をすることはできないのだ。
ゆえに、毎回のように危険な囮役をやらされている。
「――ええ、幻獣のことで、お話が、」
「それについてはもう話しただろ。オレは関わってねえ。昨日はたまたま同席していなかっただけだ。幻獣ってのは、ラドとシャル程度でも討伐できるほど弱いらしいじゃねえか。ついつい、討伐しちゃったってのは、あり得るだろうぜ。それに、証拠も出たって言ってただろ。ラドの部屋から、幻獣の素材が出てきた。報告していなかったのはただの怠慢だろうがな……、ラドに盗む度胸はないだろうけどよお、所持しているだけで罪なら、こいつが主犯だろ」
「あ、あなたねえ……ッ!」
「待っ、シャル――」
「はい、待ってください、シャルルさん」
ラドより先にシャルルを止めたのは、受付嬢である――
彼女はゆっくりと、ダンパーの前へ近づき、
「なんだ? 温室育ちの受付嬢がオレに喧嘩でも、」
気付けば。
ダンパーの視点は逆さまになっており――ひっくり返されていた。
「……は?」
「マスター!!」
咄嗟に飛び出したランビが、迷いながらも受付嬢に牙を剥いた瞬間、受付嬢のスカートのスリットがさらに広がり、足の可動域が広がった。
スカートの中が丸見えになるほどに広がって――強烈な蹴りが、ランビの頬を射抜いた。
「にゃぎゃ!?」
真横に飛んでいったランビは、食堂の壁に穴を空け、外に転がっていく……。
「…………」
「すみません、後できっちりと、修繕いたしますので」
受付嬢のハイヒールの音が響く。
ひっくり返っていたダンパーの髪を掴み、持ち上げる――。
「これ、お借りしますね」
「あ、あぁ……? それ、は――」
「冒険者なら誰もが必ず持っている、魂から生成されたプロフィールカードです。この中には称号、という項目があることを知っていましたか? よく見る称号を言えば、一定の能力値を越えれば『熟練者』、武器の扱いを極めれば『達人級』などです。他にも、魔物を数多く退治すれば『殺戮王』など、称号が貰えたりするのですが――その他にも、強敵を倒すことで得られる称号もあるのです」
「…………ッ、まさか――」
「気づきましたか? 幻獣を討伐すれば、当然、貰える称号もありますからね――」
彼女にしか見えていなかったが、はっきりと、カードには書いてあった。
幻獣を討伐した者に送られる称号――『大罪人』。
「動かぬ証拠が、ここにありましたね」
彼女が手を挙げた。
瞬間、外で待機していたギルドの者が、一斉にダンパーに飛びかかり……
「クソがッ、離せ!! ――ふざけるなよ……ッ、雑魚だったじゃねえか……。たかが幻獣一匹、殺してッ、どうして罪になる!!」
「幻獣は人類と友好関係を結んでいるんですよ……、あなたは知らないでしょうけど」
そう、人類の中でも、一部の人間しか知らない……。選ばれた者しか、幻獣と対話することはできないのだ。だから幻獣は……神と同等とも言えた。
――神殺し。
そう言われれば、罪の重さも理解できるだろう?
「実感がありませんか? では、もう少し、砕けた言い方をしましょうか?」
受付嬢の目が細められ、冷たい視線と言葉で、ダンパーを非難する。
「友達を殺されたんですよね……なら――許すわけねえだろ、クソ野郎がッ」
そしてその言葉は、同時にラドとシャルルにも刺さることになるが――。
結果、主犯であるダンパーが連れていかれ、ラドとシャルル、そしてランビは、主犯でなくとも共犯であるにもかかわらず、厳重注意だけで済んだ。
さすがに、この場で幻獣注意ですね、なんて軽口を言うことはできなかった。
それを言えば、今度こそ牢にぶち込まれるだろう……。
「あの、どうしておれたちは……」
「ああ、勘違いしないでね、許したわけじゃないから」
――友達を殺されたんですよね……なら――許すわけねえだろ、クソ野郎がッ。
その言葉が、再びラドに、突き刺さった。
「手伝いよ」
「え?」
「幻獣の保護の手伝いをしてもらうわ。危険はいっぱい、報酬も良くはないけれど、それでも、牢にぶち込まれるよりはマシじゃないからしら? ……色々と見たし、知ったし、そんなあなたたちを放置するわけにもいかないからね――利用させてもらうわ」
それに、と受付嬢は笑って……――その笑みは、優しい、いつものお姉さんだった。
「後悔していると分かっているなら、信用もできるから」
断罪に苦しんだ。
後悔を今も抱え続けている。
寝たら忘れているなんて、そんな軽く考えているわけではないことは、明白だった。
そんなラドとシャルルだったからこそ――彼女は認めたのだ。
――幻獣に近づく者の、一員になることを。
…了
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