友人
〝ヨタバナヨータは〟
と打ち始める。
細々と遊んでいたユーチューバーを引退してすぐ、陽太は死んだ。
末期がんだった。学生のときから同じサンバチームにいて、卒業してもまだ続けて、20年目までは一緒にいた。
特別に仲が良かったってわけではなかったと思う。どちらかと言えば、男性のダンサー同士、花形でもなんでもない立ち位置の微妙なパート内で張り合っていただけだ。
卒業だの就職だので近い世代のメンバーは徐々に散っていき、なんとなく俺たちは残っていて、毎年夏に顔をあわせれば「まだいたのか」とお決まりのやり取りをする。どっちが先に独り身を脱出するか、なんてネタにされつつ、本番に向けて練習だの作り物だのをする。
20年やれば日常みたいなものだ。ひとが入ってきたり来なくなったりするのも含めて。だから陽太が来なくなった年も、なにか環境や気分が変わったんだろうと思っていたし、状況が変わればまた戻ってくるだろうと思っていた。
そのうちコロナが流行ってイベントそのものがなくなったころ、ユーチューバーを始めたと聞かされた。そして、末期のがんだとも。
ユーチューバーだけならバカウケしてやろうと思ったのに、末期がんのせいで笑えなかったじゃないか。
続きの文章を打つ。
〝本人の意向に基づきまして、こちらのアカウントおよびYoutube上の動画は数日のうちに削除する予定でございます。〟
与太チャンネルの最終回を収録した日、パスワード情報と共に、SNSなんかのクロージングを頼まれた。
ヨタバナヨータのアカウントには、思ったよりもフォロワーがいた。動画にはどこかの通りや地理にまつわる逸話を紹介するようなものが多く、ひどく地味だが、少ないながらもリピーターさえいた。
他人のアカウントへログインするのは変な気分だった。
酔っ払って転がり込んで、汚れたTシャツを洗濯する間に服を借りてる時の気分によく似ていた。
頼まれていた全文を打ち終わる。
もう葬式も済んで、やせ細った死に顔もみているのに、たかがSNSへの投稿が恐ろしい。
頭を抱えて、髪の毛を掴んで、目を閉じる。鼻が詰まる。涙が出る。
命日が7月25日じゃあさ、豊島サンバには全然届かないだろうよ。だいたい独り身脱出がそっち方向って、そりゃねぇよ。死ぬなよ。まだ早かったって、ぜったいさぁ。
もう一度マウスに手をかける。左ボタンの上で、人差し指が熱を持っている。
ヨータの死が人差し指に乗っている。
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