【完結】強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となっていた!

こはるんるん

1章。クズ悪役貴族、ゲーム知識で王女を救う

1話。勇者に殺されるクズ悪役貴族に転生する

「はぁあああああッ!? な、なんだよ、この姿は……!?」


 俺は全身鏡に写った自分の姿に愕然とした。


 太った身体をしたイジワルそうな目つきの14、5歳くらいの少年が俺を見つめ返していた。衣装は金銀の刺繍の入ったヨーロッパ貴族風の豪奢なモノだ。


 寝起きでボケボケとしていた脳が、一瞬で覚醒した。

 自分の身に何が起きたのか、懸命に記憶を掘り返す。


 そうだ。確か昨晩、俺の生き甲斐とも言えるゲーム【グロリアスナイツ】をプレイして、そのまま寝落ちしたんじゃなかったっけ……?


「……って、まさかコイツは、クズヴァイスじゃないかぁああああッ!?」


 俺の大絶叫が轟き渡った。

 俺の容姿は【グロリアスナイツ】に登場するクズ悪役貴族、ファンから『ヴァイス死ねぇえええッ!』と忌み嫌われているヴァイス・シルフィードと瓜二つだったのだ。


「こ、これは転生!? 漫画とかアニメで良く見るア、アレなのか!?」


 思い切り頬をつねってみると、痛い。

 これは夢じゃない。現実だぞ。


 天涯孤独の俺は、【グロリアスナイツ】だけを生きる喜びとしてきた。家族も友達も恋人もおらず会社から帰れば、深夜までこのゲームをぶっ通しでプレイした。


 このゲームはキャラ育成の自由度が高く、どうすれば最強キャラを作れるのか、頭をひねって試行錯誤するのが、とにかく楽しかった。


 恋愛要素もあるのだが、どのヒロインルートに入るかは、キャラビルドの観点から決めた。

 ゲームを何周もプレイし、やりこみ要素を味わい尽くした。


 大好きなこの世界に転生できたことは、素直に嬉しいが……


「なぜ、よりによってヴァイスなんだぁあああッ!」


 俺は思い切り頭を抱えた。

 ヴァイスとして、15年間生きてきた記憶と経験が俺にはあった。


 どうやら、今朝起きたら前世の記憶を取り戻したということらしい。


「……お、おい、ちょっと待て。マズイぞ! このままだと俺は勇者アレンに殺されるんじゃないのか!?」


 お、落ち着け。

 まずは記憶と状況を整理しよう。

 今の俺───ヴァイスは、風魔法の名門貴族シルフィード伯爵家の跡取り息子だ。


 端正な顔立ちをしており、魔力も高く、幼い頃は神童と謳われて女の子からモテまくっていたが……


 この世界では10歳になると、神様より特別な能力であるユニークスキルを授かる。


 ヴァイスの授かったユニークスキルは【超重量】だった。

 効果は『重くなる』だ。


 「は?」と、俺に期待していた両親と婚約者の目が点になった。


 その日からヴァイスはドンドン太りだした。

 そう、これはただ太りやすくなるだけの外れスキルだったのだ。


 そして、ヴァイスの人生は暗転した。


 今までヴァイスに注がれていた両親の期待と愛情は、【剣聖】のスキルを獲得した1つ下の妹エレナに移った。


 ヴァイスは女の子たちからモテなくなり、婚約者からは婚約破棄された。


 その結果、ヴァイスは腐り果て、性格が極悪にねじ曲がった。

 得意だった風魔法を使って、女の子たちに嫌がらせを繰り返すようになったのだ。


 風を起こして、スカートをめくっては、『デュフデュフ、今日のパンツは何色かなぁ?』などと笑う、変態と化してしまったのだ。


 い、いくらなんでも、それはないよなぁ。おい。

 無論、ゲームのヒロイン全員から嫌われまくっていた。


 やがて、ヴァイスは魔族にその心の隙間を突かれて、完全なる闇落ち──人間の天敵である魔族と化してしまう。


 そしてヴァイスは勇者アレンと、剣聖エレナらヒロインたちによって成敗されて命を落とし、めでたしめでたし、という結末だ。


「いや、めでたくねぇ! ……い、今、俺は15歳だよな!?」


 ヴァイスとしての記憶と、前世のゲーム知識を擦り合わせた結果、今、まさにゲーム本編が開始される時期だとわかった。


 ゲーム本編は、初夏に俺が通うグロリアス騎士学園に、勇者アレンが転入してくるところから始まる。

 

 季節はまさに初夏──まだ俺は勇者アレンに出会っていない。

 時間は無いが……未来を変えることができるはずだ。


「ヴァイス様、おはようございます! 朝食をお持ちしました! は、入ってもよろしいでしょうか?」


 扉がノックされ、怯えたような女の子の声がした。

 ヴァイスの記憶から、これはメイドのティアだとわかる。


「……うん? ありがとう、ティア。入ってくれ」

「はい! えっ? あ、ありがとう!?」


 カートを押した15歳くらいのメイドが恐る恐るといった様子で顔を出した。

 その衣装に思わず仰天してしまう。


 うぉおおおおおっ、パ、パンツが見えそうなくらいの超ミニスカートじゃないか。

 ミニスカメイドさん、最高だぜ。と、心の中で喝采を上げそうになったが……


 ……って、そ、そうかクズヴァイスが、屋敷で働く女の子は、全員、パンツが見えそうなくらい短いスカートを穿けと命令していたんだけっかぁああああッ!?


 思わず頭が痛くなる話だった。


「ひっ! そ、それでは。あの、口移しで、朝食を食べさせて差し上げますぅ!」


 ティアはスカートを押さえながら、恐怖に引きつった目で、俺を見つめた。

 油断すると、風魔法でスカートめくりのセクハラを受けるからだ。


 ……って、今、トンデモナイことを言わなかったか、ティアは?


「はぁ? 口移し……?」

「は、はい! ヴァイス様は昨晩、『デュフデュフ、明日からは、口移しで俺様にご飯を食べさせるんだ。もし断るなら、お前をクビにしてやるぞ!』と、ご命令になりましたので……」

「そんなことを言っていたのか、クズヴァイスは!?」


 確か、ティアには病気の母親がいた。

 もしクビになろうものなら、母親の治療代を稼ぐことができなくなるじゃないか。

 それを知っていて、そんな命令をするなんて……


「うぉおおおおッ、最低最悪のセクハラ&パワハラじゃないか!?」


 俺は思わず壁に頭を打ち付けた。


「は、はい……?」

「そんなことをする必要はない! 食事は一人で食べるから、もう下がっていいぞ。あ、いや待ってくれ!」


 俺はチェストから、大粒のルビーの指輪を取り出した。


「これをティアにやる! 売れば、お母さんの治療代がまかなえるハズだ。それと、昨日俺が言ったことは忘れてくれ!」

「ひぇ!? こ、こんな高価な品を……!?」


 ティアは目を瞬いた。


「お、お待ちください。これは私のお給料の10年分以上に相当すると思います! と、とても受け取れません!」


 なぜかティアはガクガクブルブルと震えだした。

 思いっきり俺を怖がっている様子だった。


 あっ、そういえば、クズヴァイスは気に入らない使用人にプレゼントだと言って宝石を渡し、後で盗まれたと騒ぎ立てて罪人に仕立てたことがあったな。


 ……ヤ、ヤバい。これは完全に嫌がらせだと勘違いされているぞ。

 本当にヴァイスのクズっぷりは、常軌を逸してやがる。


「あっ、いやいや。大丈夫だって! ちょっと、そこで待っていてくれ!」


 俺は慌てて机から羊皮紙を取り出して、一筆書いた。

 内容は『ヴァイス・シルフィードはティアにルビーの指輪を無償で譲渡する。見返りは一切求めない』だ。

 これは法的な意味を持つ公文書となる。


「えっ……? この文書は?」


 ティアは大きく目を見開いた。


「これは俺がティアに指輪を譲渡した証だ。盗みを疑われたら、これを見せれば罪には絶対に問われないし、俺から何か見返りを要求することもない。これで、安心して受け取ってくれるか?」

「……そ、そんな、では。本当にヴァイス様はこの指輪を私にくださるのですか?」

「もちろんだ。今までティアには、たくさん迷惑をかけたし、世話になってきたからな。せめてもの罪滅ぼしと、感謝の印だ!」


 とりあえず、屋敷の使用人たちとは全力で良好な関係を築きたいと思う。

 怖がられて過ごすような状況は異常だからな。


「うっ、うぇええええーんッ!」

「お、おいティア!?」


 ティアは突然、ボロボロと大泣きしだした。

 屋敷中に響き渡るような泣き声に、俺は思い切りうろたえる。


「な、なぜ、泣くんだ!?」

「だ、だって! これでお母様を助けることができるんですもの! 本当に、本当に、これを頂戴してしまって、良いんですかぁ!?」

「当然だ。こんな指輪一つで、人の命が。ティアのお母さんが、助けられるなら安いモノだろう?」


 俺はこんなルビーの指輪なんて、まったく興味が無い。

 豪華な調度品が置かれたこの部屋など、逆に居心地が悪く感じるほどだ。


 なにしろ、前世は三畳の安アパートで過ごしていたからな。


「だから遠慮なく受け取ってくれ」


 その時、ドン! と扉を蹴破って現れたのは、14歳の妹の剣聖エレナだった。銀髪のあまりに美麗で可憐な少女──ゲームヒロインの1人だ。


「ティア、どうしました!? 兄様、またティアにセクハラを!?」

「エ、エレナ!?」

「ティアを泣かして……乙女の敵ぃ! もう絶対に許しません!」


 エレナは訓練用の木刀を取り出して、切っ先を俺に突きつけた。

 はぇ……?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【★あとがき】


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