216 ヤオカ流一門  1

ガンテツ工房を出ると入れ違いに3人の男達が入って行った。


キルはその男達を見てガンテツがこの男達の技量では武器を売らないのではないかと感じた。


案の定工房から男達の怒鳴り声が響いてきた。

「ふざけるな!俺達がヤオカ流の者だとわかって断っているのだろうな!」


その声にキルは思わず振り返った。

男達の1人と目が合ってしまった。

やばい……思わず目を背ける。


「おい待て!」


行こうとするキルに男が寄ってきて胸ぐらを掴んだ。

「お前、今俺たちの事を馬鹿にしたな!」


「いえ。大きな声がしたので振り返ってしまっただけで……」

キルは誤解を解こうとする。


残りの2人も工房から出てきてキルを囲んだ。

「コイツが俺たちの事を馬鹿にしやがったんだ!」

はじめの男が残りの2人に言った。


「なんだとふざけやがって!」

「ガキのくせに大人を馬鹿にするとは舐めたやつだな!」


「そんな事してませんから。誤解ですから」


「うるせ〜、ごまかせると思ってもそうはいかねーぞ!」


はじめの男がキルを殴りつけるがキルは器用に男のパンチをスウェイして躱わす。


「テメー!生意気に、避けるんじゃねぇ〜」

何発パンチを繰り出してもキルには当てられない。


「何をしてるんじゃい?」

気づいたゼペック爺さんが振り返って止めに来た。


「うるせ〜爺ーだ!」男がゼペックを殴ろうとした瞬間、キルはその動きを見逃さなかった。


キルは反射的に一瞬で3人の男にパンチを入れてのしてしまっていた。


「あ、やっちゃった………」

倒れている男3人を見てキルは呟いた。


「良いじゃろう、こ奴らが絡んできたのじゃ、仕方ない。行こうぞや」とゼペック。


キル達は倒れている男を放置して宿屋の方に引き返して行くのだった。



「待て!」

宿屋の前で呼び止められるキル達。

振り返るとそこには50人ほどの一団がいた。


中に先程絡んできた3人が混じっている。

どうやらあの3人の仲間達らしい。


「お前達ヤオカ流に恥をかかせてくれたらしいな!」

50人のリーダーらしき男が怒鳴った。

コイツは特級剣士かな……キルは素早く相手の強さを見定める。


「先に暴力を振るったのはそちらの3人のほうです。俺は降りかかる火の粉を払ったまで、今度は数の暴力というわけですか?」


「話が早くて助かる。やれ!」


50人の剣士がキル達を取り囲んだ。


キル達も武器を取って相手をする構えだ。


キルは普通の鉄剣を手に1人前に出る。

「スリープ」

キルは魔法を唱え敵を集団で眠らせた。


敵のリーダー以外は全員眠らせてリーダーには剣で実力を思い知らせるつもりだ。

「邪魔な者達には眠ってもらいました。ヤオカ流とやらの実力はあなたに見せてもらいましょうか?」


「うーーむ。貴様魔法を使うとは反則だぞ!」


「フ!笑わせてくれる。命だって取れたのですよ。ゴタゴタ言わずに早くかかって来い!お前は剣で相手してやる」キルが威つけた。


「ヤオカ流四天王が1人、ハシシ!参る」


ハシシと名のって男が上段から斬りつけた。


キルはその剣を1寸の見切りで躱わすとともにハシシの首筋に剣を寸止めした。


「わかったら俺たちに手を出すな!」キルが強い口調で命令した。


飛んで引き下がるハシシ。


「まだまだ!今のはたまたまよ!今度はそうはいかんぞ!」


剣を構え慎重にキルの隙をうかがうハシシ。

ハシシの息遣いがだんだん大きくなり額から汗が滴り落ちた。


「ムム!」


キルを睨んで剣を構えるハシシ、構えを正眼の構えから上段の構えに変える。


キルは剣を構えることもせずだらりと持っているだけだ。


「ムムム!」


特級剣士のハシシがまた唸った。


そしてまた構えをかえる。

今度は八艘の構えだ。


睨み合うハシシとキル。


ハシシの額から球のような汗が落ちる。


「ムムムムム!」

今度は下段の構えに変えるハシシ。


キルが半歩前に出るとハシシが一歩後ろに下がった。


「ムムムムムムム!」

今度はまた正眼の構えに戻るハシシ。


キルは待っているのが面倒になってハシシの剣を目にも止まらぬ早技で弾き飛ばした。


「ガシーーン」という音と共にハシシの剣が飛んでいきハシシは剣を失った。

ハシシの首に剣を突きつけるキル。


ハシシは腰を抜かして尻餅をついた。


「わかったら俺たちに手を出すな!いつまでも手加減してもらえると思うなよ!」

キルがハシシを睨みつける。


ハシシは震えながら何度も首を縦に振った。そして尻を引きずりながら後ずさったかと思うとくるりと反転して仲間を置いたまま走って逃げ出した。


「フ!」

キルは一息吐くと踵を返してその場を去って行く。

ゼペック爺さん達もキルに続いた。

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