9 ソロ冒険者の生活 5
クリーンを覚えたキル、気分上々やる気に満ちていた。今日も木の根の撤去作業である。朝から力を合わせるための掛け声が響く。
「そーーれ!…そーーれ!」
一つ一つ木の根が取り除かれ、林だった痕跡が無くなっていく。石を取り除き水路を作るのは別の部署の人たちだ。開拓は領主主導で行われる大規模な事業である。これが行われている領地は比較的景気が良い。領主も金を持っていないとこういうことは出来ないのだ。その金が下々のものに落ちてくるのがこういう仕事になる。経済用語で言うところのトリクルダウンという奴だ。
午前中の仕事が終わり昼ごはんの時間になる。昨日のオッサンたちの多くは今日もこの仕事に携わっているらしく一緒に飯を食べる。
「おう、兄ちゃん今日も頑張るねえ。」
キルは昨日話をしたオッサンたちに話しかけられた。カッチカチのパンと熱いスープを食いながらゴッツイ身体のオッサンに返事をする。
「今日と明日もここで働かせてもらいますよ」
「兄ちゃん、気合いが入ってるじゃねーか?もう少しで目標金額に届くのかい?」
「ハイ、もうすこしでとどくんです。それに昨日金を借りることができたんでスクロールを買うことができたんですよ」
「へえ!例のクリーンの魔法のやつかい?」興味津々という感じで食いついてくるオッサン。
「そうなんですよ」
「オイオイ、マジかよ。やって見せてくれねーか?」
「良いんですけど、魔力を消費するのかな?あんまり何回も、できないので仕事が終わったら自分にかけるので、それをみてもらえますか?」
「オウ。それで良いや。そうだよなあ。そうなんどもできないのか」
「まあ10回は出来るみたいですけれど、無駄に魔力は使いたくないですからね。ごめんなさい。まだ俺は成長が足りないので魔力も少ないみたいです。20歳くらいになれば一人前の魔力を持てるらしいですよ」真摯に謝るキル。
「なるほどねえ? そんなもんかい? じゃあ仕事が終わったらその魔法見せてくれよ。チョット興味があるんでな」オッサン今日も食い気味だな。回りのオッサン達も興味がありそうだ。
「俺も見たいな」「俺も俺も!」という声が方方から上がる。
昼飯も食べ終わり午後の仕事をこなす。
「そーれ!…そーれ!」掛け声が響き渡る。
皆んな汗だくで泥だらけだ。
3時間の重労働が終わり片付けをしているとワクワク顔のオッサンがよってきた。
「そろそろやるんだろう?」
「そうですね、そろそろこの綱を置いてきたら終わりですから装備を取りに行ってそこでやろうかな」流石に疲れた顔のキル。
「兄ちゃん、だいぶ頑張ったな、疲れが見えるぜ」オッサンがいたわりの言葉を発した。
「いえ、大丈夫ですよ。明日もこの仕事に来ますからね。まだまだ余力充分ですよ」
綱を道具置き場に置いてくるとオッサン達がキルを待ち構えていた。
「ア、クリーンが見たいんでしたね。ハイ、クリーン!」オッサン集団に近づきながらクリーンを唱えたキルの周りが光り綺麗になったキルがオッサンに近づく。
「お!おおお!」オッサン達が驚きの声を上げた。
「おーーーー、綺麗になってる」「スゲーーー思っていたより綺麗でヤンの!」
「初めて見たわ、クリーンの魔法!」見せ物としても通用しそうである。意外にこの世界に普及していないようだ。
「オイ、500カーネルで俺にもかけてくれないか?」食いつき気味だったあのオッサンが頼んできた。
「良いすよ。500カーネルもらって良いんすか?」
「ヒールだって、めっちゃ金取られるからな。魔法をかけてもらうんだからただというわけにはいかねーだろう」
「わかりました。じゃあそこに立って下さい」みんなから離れたところを指差すキル。
「チョット待て、俺にもかけてくれ」「俺も!」「おれも!」5〜6人から声が掛かった。
「じゃあみんなでそこに固まって下さい」キルはオッサン達に立ち位置を指示。
「うーーん、もっと寄って。ハイ、いっきますよーー。クリーン」
オッサン達が光に包まれて綺麗になった。なんとか全員クリーンの範囲内に収まっていたようだ。
「おーーー!きれいになってるーーー」オッサン達が感激の声を上げた。
「なんだなんだ!」周りから人が寄ってきた。
オッサン達が銅貨5枚づつをキルに渡す。銀貨で釣りをもらう者もいる。キルは7人分の代金3500カーネルを手に入れた。
周りに集まったオッサン達の中から魔法をかけてもらいたい人が声をかけて来る。
「500カーネルで俺にもかけてくれよ」後5人ほど希望者が現れたのでその人達にもクリーンをかけてやった。魔法二発で6000カーネル、ボロい儲けだ。チョット良心が痛むキルである。だがオッサン達は満足げである。確かに洗濯をしてもこれほど綺麗にはならないのだから。
「ありがとうな!にいちゃん」感謝の声さえ聞こえてきた。
今日の稼ぎは16000カーネルになった。
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