7 ソロ冒険者の生活 3
今日は朝から開墾の手伝いである。
新しい農地を作るためには森の木を切り倒し、その後で残った木の根を掘り起こして取り除く。そして土だけになったところの小石などを取り除き水路を整備して農地にするのだ。
開拓の手伝いの仕事といっても色々な部署がある。
キルの仕事は木の根を掘り起こして取り除く作業だ。実はこれが1番力のいる部署で特に木の根を取り除く仕事は力がないとできやしないのだ。1人で引っこ抜ける木の根はマシな方で、ロープをかけて数人がかりで引かねば取れない木の根が殆どだ。
そう言うわけでハードすぎるこの仕事も人気がなく時給も割と高い。昼飯付きで午前3時間、午後3時間の6時間で10000カーネル貰える。もっとも6時間もこの作業をすればへとへとになってしまうのだが。
仕事の後は服も泥だらけになってしまうので此処でもクリーンの魔法が使えるとありがたい。
開拓の現場に魔物が出るのは森の木を切り倒している部署でが多く、一面が見渡せるようになっている木の根除去のところには魔物は現れにくいものだ。なので警備の仕事があるのは木の伐採現場の方だ。警備の仕事の方が楽なために時給も安い、1日8時間で7000カーネル、清掃作業より手取りが低いが暇で楽なために人気は高く早い者勝ちの仕事である。
キルは厳しくても金になる仕事をしていると言うわけだ。
朝から木の根と格闘し昼休みにはみんなで昼飯を食べる。大きな鍋で煮込まれたスープと大きめのパン。もちろんパンはカッチカチの硬いパンである。高級な柔らかいパンなど庶民の口には入らないのだ。スープで柔らかくしながら食べる硬いパンはそれなりに美味しい。昼飯がついているのは地味にありがたい事なのだった。
昼飯を食べながら世間話をするのも気晴らしになる。
「兄ちゃん、若いのにこの仕事をするとは渋いね!若いもんは、あんまりやりたがらねーのになあ」
「ハハ、キツイけれど金にはなりますからね。」苦笑しながらキルは答えた。何もやりたくてやっているわけではない。パーティーが組めれば討伐任務も安全にこなせるノウハウを少しは身に付けてきたつもりではあるのだ。
「金に困ってるのか?兄ちゃん。大変だなあ、若いのになあ、借金か?」
「イエ、買いたい物が有るんですよ」
「へ〜、それはそれは、何がそんなに欲しいんだい?言えない物なら言わないでもいいんだけどな、よかったら教えてくれよ」
「別に教えても構わないんですよ。スキルスクロールです。まずはクリーンのスキルスクロール」キルは何の気無しにスキルスクロールのはなしをはじめた。
「へ〜、それはそんなに良いものなのかい?」
「ええ。クリーンの魔法が使えるようになるんですよ。そうすれば魔法1発でどんな汚れも新品のように綺麗になるんです。今泥だらけじゃないですか、この状態が1発できれいになるということですよ。良いでしょう?」
「良いねえ!魔法てのはすごいもんだなあ。生活魔法にそう言うやつがあるってのは聞いたことがあるよ。そのスクロールってヤツを使うとその魔法が使えるようになるってのかい?」労働者のオッサンがワクワク顔で聞き返す。
「そう言う事です。」キルが答えると「いったいいくらなんだい?そのスクロール」と親父は食い気味に聞いてきた。
「えーと、確か〜、80000カーネルするんですが、俺は安く手に入るつてがあるんです」まさか半額とは言えないのでキルは言葉を濁す。
「80000カーネルか〜、そりゃ高価すぎるわ」
食い気味みの親父がいっきに引き気味になった。そりゃそうかもしれない。
「でも何だなあ?その魔法、1回500カーネルでかけてくれるならかけて欲しいよなあ。うーん、此処の奴らにその魔法をかけてやる商売をしたらかなりボロ儲けかもしれねーな。80000カーネルてことは160回か?」考え込むオヤジ。オヤジ計算がはえーな、人は見かけによらないとはこのことだな。てか計算ができるってこの世界ではかなりのインテリだぞ。
「もうちょっと安ければなあ〜」オヤジの結論は高過ぎるということで落ち着いたようである。チョット残念そうにするキルであった。
「さて午後の部の始まりだあ………」みんながわらわらと仕事を始めるために歩き始めた。午後も午前と同じく木の根と格闘を始める。力と力の勝負だ。
「そーれ!……そーれ!」 掛け声と共に全力で綱を引く。そして3時間が経ち1日の仕事が終わった。キルはもうクタクタである。この仕事をちょくちょくやっているオヤジ達は余裕のようだったが。
労働時間が短い為 街に帰るのも早い。体力に余裕があればもう一仕事しても良いのだがキルには無理だった。キルはおとなしく街に帰るのだった。
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