【悲報】JKヒモ勇者様、初回配信中にうっかり『氷帝』と呼ばれた美少女配信者を助け、エンシェントドラゴンを一閃してバズってしまう。
シンギョウ ガク
第1話 スライム全力おっさん
戦いの中で育ってきた。
記憶に残る最初の場面は、剣を振るってドラゴンを倒したところだ。
育ての父である師匠アルベドが、俺に剣を握らせたのは、2歳だったらしい。
ちなみにドラゴン討伐したのは、3歳くらいだと記憶している。
以来、ずっと魔物相手に剣を振るい続け、大陸一の剣の使い手とまで称された。
そして、育ての母であるリンネが5歳から厳しく教えてくれた魔法も、今は100年に1度扱える者が現れるかと言われている神級を易々と使いこなし、大陸一の魔術師とも言われている。
そんな幼少期をすごした俺にとって、戦うことが生きることであり、勝利こそが生きている証明だ!
だから、目の前にいる最強の魔物に対面したことにワクワクする気持ちが抑えられないでいる。
「俺の最強の魔法で、お前を葬ってやる。それが、最強たるお前にふさわしい最後だっ!」
手にした剣を構え直し、神級である魔法の詠唱を始める。
「漂いし雷精たちよ、我が呼び声に応え、雷鳴とともに我が敵を滅ぼせ!
呼び集められた雷精サンダーバードたちが、怒りとともに、けたたましく叫ぶ声が耳に届き、脳みそが焼き切れそうな苦痛に襲われる。
耐えろ! 耐えろ! この最強の魔法を撃ちこまないと、あいつには絶対勝てない! 一撃だ! 一撃、放てれば、俺の勝ちだ!
びりびりと大気が震え、バチバチと稲妻が周囲に飛び散るが、そんなことを構っている暇はない。
目の前の魔物を取り逃せば、数万人単位の死者が出ることは間違いないのだ。
人を守るため、戦士の中で最も優れた者に与えられる勇者に任じられた俺が、そんな惨事を見過ごすわけにはいかない!
脳が焼き切れそうな苦痛はさらに増し、視界が歪み始めてきている。
騒いでいたサンダーバードたちの声が一瞬で消え、魔法の発動が整ったことを察した俺は、魔物に向かって解き放った。
紫電をまとった稲妻は、周囲にあるものすべてに破壊の限りをし尽くしながら、最強の魔物へ向かって突き進む。
渾身の力を込めた最強魔法は、見事に最強の魔物に命中し、その身を一気に消し去った。
「ふぅ、ふぅ、やったぜ! 勝った! 俺の勝ちだ!」
勝利の安堵を感じ、全力を出し切ったことで、身体を支えることができず、膝を地面に突いた。
ピロン!
ズボンのポケットにしまい込んであった物が音を発して振動する。
次の瞬間、
”サブローさん、それスライムですよ。なんで、全力なんですかっ!”
えっと、これはたしかあの女が『ハイシン』とか言ってたやつだな。やつは、俺の戦いをどこかで見てるのか?
キョロキョロと周囲を見回すと、蜂のような羽音を出して飛ぶ、小さな虫っぽい魔導具がこちらの様子を窺っているのに気付いた。
たしか『どろーん』とか言ってた気がするが、こいつが映像を送っているのか?
飛んでいる魔導具を摘まみ上げると、目のようなところへ顔を近づける。
「お前は馬鹿か! あのスライムという生物は、魔法や攻撃を受けると、無限に増殖を繰り返し、人を取り込み、溶かして喰い続ける特級指定された極めて危険な魔物なんだぞ! 何人の兵士や冒険者が犠牲になったと思ってるんだ! 神級を使える俺だから倒せたものの、他のやつが戦っていたら一瞬で姿形もなくなって養分にされるだけだ!」
ピロン!
”いやいや、それはサブローさんの空想世界のスライムでしょ。ここは、現代日本ですからそんなヤベースライムなんて見たことないっすって!”
そうやって、あの強く見えない姿だけを見て油断し、舐めくさって挑んだやつが、瞬きの間に溶かされ、この世から消えたのをあの女は知らなすぎる!
今でも俺は、あの時の辛い戦いの記憶を寝てる時に何度も見させられて、うなされるというのに!
「素人は黙っとれ! 俺は生まれてから25年。ずっと魔物と戦うために生きてきた男だぞ!」
ピロン!
”あー、はいはい。異世界の勇者様でしたっけ? 分かってます。分かってます。でも、全裸でJKのあたしの前に出てきたことは忘れませんからね! 一歩間違えたら犯罪行為ですよ! 犯罪! けーさつに逮捕されちゃいますから!”
文字だけなのに、あの女の勝ち誇ったような顔が見えて、苛立ちが増していく。
魔物を操っていた魔王討伐を成し遂げた後、王城で開催された祝勝会場に到着したら、謎の魔法陣が発動し、気付いたら知らない世界に居た俺の気持ちがあいつに分かるわけもない!
「今日はもう魔力切れだ。最大戦果であるスライムを討伐できたわけだし、これで撤収する」
ピロン!
”は!? マジで? スライム1匹じゃ、配信代も払えないっすって! 同接もあたししかいないんっすよ! もっと、魔物を狩ってくださいって! サブローさん、強そうだしさー”
魔力が尽きた俺に、特級のスライムが出るような、超高難易度なダンジョンをもっと探索しろだなんて……。
あいつは俺を殺す気か。いや、そもそもあの女は、魔物との戦い方というものを理解してないのかもしれないという疑惑もある。
素人意見に流されて、窮地に飛び込むのは戦士のすることではない。
「戦いは、慎重さを欠いたやつから死んでいくんだ。だから、今日はこれで帰る」
摘まんでいた魔導具を投げ捨てると、剣を鞘に収め、スライムの魔核を取り出し、ダンジョンの入口の方へ歩みを進めた。
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