第11話

大輔は怒りを含ませた声色で答えた。



「そんな……」



警察が信用してくれないのも無理はない出来事だった。



首を切られたという一番の被害者である春香は、こうして生きているいのだし。



友人同士が集団で同じ夢を見たと思われて終わってしまうだろう。



いや、下手をすれば薬物の検査でもさせられてしまうかもしれない。



そのくらい、自分たちが経験したことは荒唐無稽なことだった。



「だけど、絶対に夢じゃない」



明宏が考え込んだ様子でつぶやく。



眉間には深いシワが寄せられていて、現実では説明のつかない事態に納得していないのがわかる。



「現実じゃないと、慎也のケガの説明がつかない」



明宏はそう続けた。



確かに。



佳奈の手の擦り傷くらいならいくらでも可能性を考えることができる。



しかし、慎也の足の切り傷は明らかに誰かに攻撃されてできたものだ。



寝ぼけてできるようなケガじゃない。



「もう1度、春香の首を見つけた場所に行ってみるか」



提案したのは慎也だった。



慎也自身、昨日の出来事についてちゃんと調べておきたかった。



もしもあんな化け物たちが夜中に歩き回っているようじゃ、安全に外に出ることもできなくなってしまう。



「春香、どうする?」



大輔が春香に聞く。



春香は青ざめた顔で、ひとつ頷いたのだった。


☆☆☆


春香の首が会った場所は道路の真ん中だった。



片側に民家、片側は山になっているなんの変哲もない道路。



「昼間歩くと全然違うね」



美樹が街の景色をみつめてつぶやく。



「そうだね。昨日はもっと禍々しい雰囲気だったもんね」



佳奈は同意した。



こうして道を歩いているだけでも、街の雰囲気が随分と違うことは肌で感じることができた。



昨日経験した街は自分たちがよく知っている街とはまるで違うもに感じられた。



それからしばらく歩いていると、不意に大輔が立ち止まった。



道路の真ん中をジッと見つめている。



「ここだ」



みんなが追いつくのを待ってから大輔は言った。



「ここに私の首があったの?」



「あぁ」



そこには何もなくて、ただ灰色のアスファルトがあるばかりだ。



「どうしてこんなところにあったんだろうね」



佳奈は周囲を見回して首を傾げる。



こうして見ていると見晴らしがよくて、首を探せというわりに隠されていないのではないかと、疑問に感じたのだ。



「さぁ、なにか理由があるのかそうじゃないのか、わからないな」



明宏はメガネをおし上げて答える。



なにか考えようにも、ヒントが少なすぎてうまく行かない。



頭のいい明宏にも今回はお手上げ状態だ。



それでも6人はなかなかそこを去ることができずに、慎也は周りを調べ始めた。



なにか夢のヒントになるようなものがないか探しているのだ。



「もう帰ろうよ」



春香は1人心細そうな声を上げる。



「そうだね。慎也に声をかけてくる」



春香の気持ちを慮って佳奈が歩き出そうとしたとき、身を屈めていた慎也が突然顔を上げた。



「おい、これ見てみろよ!」



なにか見つけたのか手を振っている。



「どうしたの?」



佳奈と明宏が駆け寄っていくと慎也は地面を指差した。



そこには変わらないアスファルトがあるだけだったが、微かに色が変わっている部分があるみたいだ。



まるでそこだけ雨に濡れたかのように黒い。



「これ、足跡か?」



後からやってきた大輔が言う。



確かに人間の足跡に見える。



それはちょうど5人分あるみたいだ。



「5人分って、昨日の私達?」



美樹が首をかしげる。



昨日ここに来たのは確かに自分たち5人だ。



だけど違う。



「これ、素足だよ」



佳奈が真剣な表情で言った。



昨日自分たちはちゃんと靴を履いて外へ出ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る