第13話

「みんなーこんユノ~! 今日はダンジョンの攻略配信……じゃなくて

 ユノの特訓の様子を配信していくよ!」


 その日、俺たちは家の近所にある運動公園にいた。


 優乃さん――ユノがいつものようにドローンカメラと

 その先にいる視聴者に向かって手を振っている。


 普段と違うのは彼女が攻略用の戦闘衣装ではなく、

 薄着のトレーニングウェアであること、

 明るく染めた長い髪をポニーテールのようにくくっていることだ。


〈はじまた〉

〈こんユノ~〉

〈こんユノー〉

〈キタ―――――――――!!〉

〈待ってたよ!〉

〈今日はダンジョンじゃないユノ?〉

〈特訓回か!〉

〈髪型かわいいwww〉

〈おおっ〉


 スマホの画面のコメント欄が急加速する。

 少し前は穏やか流れだったのが嘘のようだ。


「そ、ずばり特訓回なのです。

 そして私の師匠となってくれるのは……もちろんこのひと!

 ちょいかわ剣士のユウでーす!」


「どもです」

 

 ちょいかわのお面をつけた俺は、小声で挨拶をして頭を下げた。

 

〈ちょいかわきた!〉

〈ですよねー〉

〈相方との戦力差えぐくない?〉

〈ユノちゃんは今日で覚醒するんですねわかります〉

〈覚醒回!〉


「あはは、そうだね、終わってる頃には

 もしかしたら私もめっちゃ強くなってるかもねー。

 じゃあよろしく、ユウ!」


 そう言うと、ユノはいつも使っている対モンスター用の剣を構えた。


「じゃあ……とりあえず、かかってきていいよ。

 できるだけ本気で」


「よっしゃ! じゃあ手加減しないからね!」


 早速ユノが一歩踏み込み、

 俺に向かって鋭い斬撃を繰り出した。


 +++


 ユノの武器は、斬撃も刺突も得意とする細身の剣だ。

 それを俺は、いつも使っている刀で弾き続けていた。

 どちらも市販の武器で、ダンジョン内でのみ採取できる特殊な鉱石が素材に使われている。


「ぜ、ぜんぜん当たんない……っていうか、

 完全にあそばれてる気がするんですけど……」


「ま、真面目にやってるってば。

 うん、なんとなく、ユノの動きの癖がわかってきた気がする」


 しばし打ち合いを続けたことで、

 これまで傍から見ていたときよりも、

 より正確にユノの戦いのセンスを感じ取ることができた。

 

 だからこそ、改めて稽古をつけることができる。


「ユノは自分でも気がついていないかもしれないけど、

 防御よりも攻撃のセンスが高い。

 それにスキルも火力系のものが強いものが揃ってるから、

 機を伺って一撃に賭けるタイプの叩い方が合うと思う」


「え、そうなの? 全然知らなかった……。

 他のStuberの人の動画見てなんとなく戦ってたし……」


「ちゃんと自分の能力を把握するのも大事だよ。

 じゃあもう1回」


 ユノは改めて剣を構え直す。

 その剣先は、さきほどまであった迷いがない。


 刀を構える俺に、じりじりと迫ったユノは、

 大きな踏み込みと同時に渾身の一撃を放った。

 

 重々しい金属音が響く。

 受け止めた俺の刀がわずかに震えていた。


〈おおっ〉

〈いい一撃〉

〈かっこいい!〉

〈ユノちゃん脳筋だったんか〉

〈ちょいかわ教え上手だわ〉

〈ワイにも教えてくれ〉


「すごい……なんか私じゃないみたい」


 剣を振り切ったユノ自身も、これまでにない手応えを感じて

 驚いている様子だった。


「あとは……そうだな。

 とはいえ、まだまだ伸びしろがあるから……

 そこを強化するのがいいと思う」


「はい、師匠! ……で、どうやって?」


「普通に地道に修行をするのが、本当は一番なんだけど……

 まあ、そうも言ってられないだろうし。

 ユノ、手を貸して」


「手?」


 ユノが不思議そうに手のひらを差し出した。

 俺はその指先を軽くつかむ。


「ちょっとだけ痺れるかも」


「え? ――ひゃっ!」


 ユノが慌てたように、手を引いて後ずさった。

 静電気が弾けた程度の痛さはあっただろう。


「な、なにしたの?」


「ユノのスキルを少しいじったよ。

 主に基本的な身体能力強化、神経系の強化、

 あとは防御スキル全般を、


 ユノは、何を言われたのかわからない様子で目を丸くしていた。


「……え? あの、よくわかんないんだけど」


「あ、まあ要するに、全体的にスキルを強くしたから。

 これまでより快適に戦えると思う」


「じゃなくて! な、なんで、人のスキルをいじれるの!?」


「あー……それは、それも俺のスキルのだから」


 ユノが唖然と口を開けたまま固まっていた。

 

〈???〉

〈今なんて言ったの?〉

〈やば〉

〈スキル操作のスキル?〉

〈ありえん〉

〈聞いたことないがな〉

〈マジか〉

〈おいおいおい〉

〈ファーwwwwwwww〉


 コメント欄がまたざわつき始めてしまった。


「だいたい、SSランクのスキルって、ほぼカンスト状態じゃなかった!?

 ネリネちゃんとか一流のStuberの人ぐらいでしか

 持ってるのみたことないけど!?」


「うん。でもさっきも言ったように、本当は自分で戦いの中で

 ランクを上げていく方がいいんだからね。

 これは強い装備を手にした、くらいのものでしかないから」


 一応釘を刺すのは忘れないようにしておく。

 ユノは、まだ驚きから立ち直れていないまま、かくかくと頷いた。


「じゃあ、早速ちょっと試してみようか。

 空に向かって、剣を振りぬいてみて。あのおっきな雲があるところに」


「空……? なに、どういうこと?」


「いいから」


 ユノが懐疑的な顔をしながら、しぶしぶと位置につく。

 そして剣を引いて構えると、穏やかな青空に浮かぶ真っ白い雲に、

 狙いを定めた。


「すーはー……。じゃあ、いくよー。

 はっ!」


 ユノの強化された攻撃系スキルが同時に発動。

 そこから放たれた剣戟は、文字通り、

 

 すさまじい風が周囲に吹き荒れる。

 遥か頭上にあった雲が、まっぷたつに両断されていた。


「――――――――やっ、ば……」


 ユノは自分の繰り出した技の結果を、

 まるで他人事のように呆然と見つめ続けていた。

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