偽りの詩人
お前の詩には魂がないと、師匠や他の高名な吟遊詩人らからは言われ続けていたが、言葉の糸を編み上げる技術は当代随一と自負していた。
王子に随行する吟遊詩人として選ばれ、正直なところ俺は鼻高々であった。魔王を討伐し、近年活動を活発化させていた魔物たちを制圧すれば、王子は国を救った勇者として讃えられるだろう。そして俺の詠う英雄譚が、国の歴史として永久に刻まれることになる。師匠らを見返し、俺の名を轟かせるには絶好の機会であった。
懸念と言えば、今までの勇者がほぼ魔王との相討ちで命を落としていること、それに同行した吟遊詩人の何割かが発狂していること。だが、俺の精神は並の詩人のように軟弱ではない。どれだけ酸鼻を極める戦場であろうがしかと見届け、美しく歌い上げてやろうじゃないかと、そう思っていた。
国境付近の荒れ野に設えられた円形の祭壇に到着して初めて、俺はこの役目に選ばれた運命を呪った。
祭壇の片側には、一目で高貴な者とわかる美しい鱗をまとった人型の魔物が、数匹の魔物に付き添われて待っていた。
祭壇のもう一方に、我らが王国の第三王子が歩み出た。
魔物の姫と人間の王子は、向かい合って跪き、頭を垂れ——二本の剣が満月に閃き、その首をそれぞれのお付きの騎士が切り落とした。
石の祭壇に、黒い染みが二つ、世界に穴を穿つように広がっていく。俺と旅路を共にしてきた老騎士は、王子の頭を抱え上げ、その目蓋を指先で閉ざし、苦悶に歪んだ表情を整えてやった。
双方の騎士は、祭壇の中央で恭しく主の首を交換し、魔王の討伐という名の生贄の儀式は終わった。
城へと戻る馬車の中、魔物の姫の首桶を隣に置き、老騎士は首のない王子の体を膝の上に抱えていた。
かける言葉もなく、俺はひたすら頭を抱えていた。敵国に捧げられるために育てられた若い二人の命と引き換えに、争いは平和的に終わる。魔物は人間に、人間は魔物に勝利したと思い込み、相容れない二つの種族の間には健全な距離が保たれる。繰り返されてきた勇者の物語の真実なんて、知りたくなかった。
「見てきた物語をそのまま紡いだらどうなりますか?」
朝日を背に威厳ある姿を見せ始めた城を目にし、俺は堪えきれなくなって老騎士に尋ねた。
「王がお認めにならなければ、お前は狂人だ」
俺はなぜ魂のこもった詩を詠う詩人ではなく自分が選ばれたのかようやく理解した。そして本物の詩人だけが真実を読み取れるような象徴と暗喩を、捏造された歴史に組み込むことに精神の全てを注ぎ始めた。
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