声劇台本

あずきヘッジホッグ

シルクトレジャー海賊団

【あらすじ】

とある下着会社の会議室。

新発売の下着が順調に売れているが、クレーマーが現れた。


【登場人物】

2:0:1(推奨は2:1:0)

岸本(♂) :下着会社の部長。斬新なキャッチコピーで、新商品をヒットさせた

安田(♂♀):岸本の部下。おかしなことは嫌だが、成果主義な面もある

松尾(♂) :おそらく名が通っているであろう下着泥棒


ーーーーーーーーーー


岸本  :いや、すごい売れ行きだな!トレジャー!

安田  :そうですね!

岸本  :破竹の勢いとはこのことだ!トレジャー!

安田  :その通りです!

岸本  :はっはっは

安田  :いやーやっぱりすごいです

岸本  :そうか?

安田  :はじめは、"下着泥棒が盗みたくなるほどの下着"なんてコピーと、

     トレジャーなんて名前、売れる訳ないと思いました

岸本  :うんうん

安田  :正気の沙汰じゃないと

岸本  :はっはっは

安田  :どうかしてると

岸本  :おいおい

安田  :この人バカなんだと

岸本  :ん?

安田  :でも!取り締まり会議でもバシッと通して、

     いざ発売されたらバカ売れ!尊敬です!

岸本  :あぁそうだとも!

安田  :この分だと、昨年のアレの件も、払拭できそうですね

岸本  :そうだな!

安田  :あ、それで来月のプロモーションについて…あ

岸本  :電話か

安田  :すみません

岸本  :ん

安田  :はい安田です。はい…え!はい。はい…はい、少々お待ちください

岸本  :問題か?

安田  :あの、トレジャーについて…

岸本  :どうした

安田  :いま、受付にクレーマーがいらっしゃってると

岸本  :なんだと

安田  :責任者を出せとのことで…結構温度感高めです

岸本  :分かった、では私が行こう

安田  :お手数かけます…あ、カバン持ちます

岸本  :うん。それで、先方はなんとクレームを?

安田  :はい、それが…『盗みたくならない』と

松尾  :

岸本  :お待たせしましたお客様。どうされました?

松尾  :どうって…ッ、さっきから何回も言ってるだろ!

岸本  :はい、ですが情報を正確に聞き取るために、再度ご説明いただけますか?

松尾  :っく…はぁ。あんたがトレジャーの責任者か

岸本  :はい、私がシルクトレジャープロジェクトの責任者。船長の岸本です

松尾  :…

岸本  :こちらは航海士の安田です

安田  :航海士の安田です

松尾  :…

岸本  :それで、どうされましたか?

松尾  :はぁ…あのな、そのトレジャーって下着、キャッチコピーあるだろ

岸本  :"下着泥棒が盗みたくなる下着"。はい

松尾  :盗みたくならねーよ!

岸本  :そうですか…

安田  :あの、失礼ながら…何をされている方かお伺いしてもよいですか?

松尾  :あぁ?俺は下着泥棒の松尾だ。一応プラチナランクでレートは2.68。

     クラスはリコンで…

安田  :え、え、あ!ちょっと!

松尾  :は?

安田  :ちょっと知らない単語が出てきたのですみません

松尾  :あぁそうか、最近はアンダーシーフって言った方が一般的か

安田  :アンダーシー…アンダーシーフ!いやごめんなさい

     "下着泥棒"の部分だけはわかります!

松尾  :じゃあ何が分からないんだ

安田  :えっと…あ、もう、ちょっと忘れました。プラチナ?

岸本  :安田航海士!

安田  :は、はい!

岸本  :少し失礼がすぎるよ

安田  :えっ…

岸本  :我々は日本を代表する下着メーカー。

     "アンダーシーフ"について知らないとは勉強不足がすぎる

安田  :そんな…すみません

岸本  :言うなればそうだな…飲食店と宅配業、

安田  :はい

岸本  :カーディーラーと交通安全課、

安田  :はい

岸本  :パティシエと肥満の子供、

安田  :はい。はい?

岸本  :地球とウォーターサーバー、

安田  :いやそれは!

岸本  :綺麗に咲く花と舞う蝶のような、そんな関係性だ

安田  :最後だけ月並みな…

岸本  :いわば競合でもあり、共存でもあるのだ

安田  :は、はい…

岸本  :知らない訳にはいかないんだ

安田  :はい…でもそれって船長だけ特殊な

松尾  :うっ…うぅ…

安田  :うわぁ感極まっておられる!

松尾  :岸本…といったか

岸本  :船長 と

松尾  :船長さん…あんた分かってるな

岸本  :いえいえ

松尾  :そう…その通りだ。ふっ、いいたとえだな。

     まず俺たちが盗み、そしてあんたたちが作る と…

安田  :"まず盗む"…?

岸本  :少し解釈に違いはあるようですが、分かってもらえてよかったです

松尾  :なら…分かっているあんただからこそ、やはり納得いかねーよ

岸本  :ッ!

松尾  :おたくの下着は盗みたくならねーよ!!

岸本  :なぜです!

松尾  :そもそも、なんで盗みたくなると思ってる

岸本  :それは…高級な質感と肌触り、夜闇に映えるくすんだカラー…

     辺りですかね

松尾  :あんたはどう思う

安田  :えぇ…。えっと、、上下セットで着たくなるから

     同時に干すっていうのと…

     あ、外に干したくないからあえて盗みたくなる 的な

松尾  :そうか…。…あんたら、エアプだろ

安田  :え

岸本  :なっ…!

松尾  :いるんだよ…調べただけで満足する連中。違う…浅い、浅すぎる

安田  :浅くありたい…

松尾  :あんたらみたいな連中が、

     YouTubeで実況動画観ただけで知った気になって語るんだよ

安田  :語りません

松尾  :しっかり体験するところからだ

安田  :実況動画ってなに?

松尾  :ハッシュタグアンダーシーフ…

安田  :すごいやだ

岸本  :……ぶひぃ!

安田  :え!船長!

岸本  :私が間違っていた!!

安田  :刺さってる!

岸本  :確かに私は知った気になっていた…思い違い、いや…履き違えていた

安田  :やかまし

岸本  :その…あなた!…あなた!

安田  :松尾さんです

岸本  :松尾さん!教えてください!

     アンダーシーフたちが盗みたくなる下着とは何なのかを

安田  :犯罪教室だ

松尾  :分かったよ…じゃあ、まずはあんたらが言った

     "盗みたくなる要因"についてから整理する

岸本  :はい

安田  :はい…

松尾  :肌ざわりとか夜闇に映える みたいなのは…まるで違う

岸本  :あぁ…

松尾  :まず前提に、大事なのは"使用感"だ。あんたの言ってる要素だと、

     店から買っても同じユーザー体験となる

安田  :ユーザー体験…?

松尾  :"使用感"という目線で言うと、上下セットで干す という点…

     これは悪くない

岸本  :なっ…!

安田  :…

松尾  :やはり、上下セットで干してあると、

     どうしても着用している姿が浮かんでしまうし、

安田  :"どうしても"って

松尾  :それに部屋の中に干したくなる という点もすごくプラスだ

岸本  :!?…ぐぬぬ…!

安田  :世界一優越感のない嫉妬を受けている

松尾  :だが、そんなことより大事な要素がある

岸本  :…!

松尾  :何階にあるかと、時間帯と、あと持ち主がかわいいかだ

安田  :最低だ。普通の犯罪理論だ。すごく最低だ

岸本  :なるほど…

安田  :私はすごく嫌な気持ちになった

岸本  :そういうことだったのか…

松尾  :分かったら、コピーを変えるか、盗みたくなる下着を作ってくれ

安田  :…

岸本  :ありがとうございます。肝に銘じます。

松尾  :あぁ

岸本  :では…ご足労かけました。入口まで送ります

松尾  :悪いな…俺も熱くなりすぎたよ

岸本  :いえいえ、当社が熱くなさ過ぎたのが問題ですので

松尾  :ははっ…。でも船長さん

岸本  :はい?

松尾  :俺はさっき、

     "コピーを変えるか、盗みたくなる下着を作ってくれ"って言ったけど、

岸本  :…

松尾  :船長、あんたなら盗みたくなる下着を作ってくれると信じてるぜ

岸本  :…ッ!

安田  :なんの話を…あ、扉あけます。……あ

松尾  :あれ?

松尾  :

安田  :ふぅ…お疲れ様でした

岸本  :あぁ、お疲れ様

安田  :あの人、警察に連れてかれちゃいましたね

岸本  :そうだな

安田  :入口開けた時点でめちゃくちゃ警察いたんで驚きました

岸本  :私が通報したんだよ

安田  :え!なんか意気投合してたじゃないですか!

岸本  :…?え、いや…え?犯罪者だし、ね…?うん?

安田  :あ、すみません。その通りですね。私が船長の倫理観を履き違えました

岸本  :おっ!

安田  :あ、いや違います!今のはたまたま言い間違えたんです!

岸本  :はっはっは

安田  :…じゃあ、本来の打ち合わせに戻りますけど、

岸本  :あーうんうん

安田  :今回のトレジャーの売れ行きに合わせて、

     昨年発売の"泥棒すら誰もいらない下着 ボロ"の負債について…

岸本  :逆に売れると思ったんだがね。…じゃー、購入したら

     トレジャーかボロのどちらかが届くってのはどうだ!

安田  :まぁエンタメ性はありますけど…取引法にひっかかりそうです

岸本  :そうか、あっはっは

安田  :…ふっ。ははは

岸本  :はぁ…

安田  :…

岸本  :今回の犯人は、手ごわかったな

安田  :はい、そうですね……船長、いや!…キャプテン



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