第13話 乖離
玄樹は妖鬼神社を出た後、山の中をさまよっていた。
急に強烈な頭痛に襲われそのまま意識が闇に吸い込まれた。
暗い意識の中で、玄樹はもう一人の玄樹と向かい合っている。
もう一人の玄樹は縄で縛られて拘束されている。玄樹を見下ろすもう一人の玄樹が言った。
「いってぇなあ。おとなしく寝てりゃいいのに。なんだよ、仲間に久しぶりに会って、自意識が戻ったか。だが、そんな姿では自由が利くまい。大人しくここで見てればいいんだよ。」
「お前は誰だ。なぜ俺の姿をしている?」
拘束されているほうの玄樹が言った。
「俺は魔塊鬼の心のかけらさ。殺生石の中で一緒に封印されたお前に植え付けたのさ。お前は呑気に眠っていたから、意識を取り込むのは簡単だったよ。」
魔塊鬼のかけらと名乗った玄樹は小馬鹿にするように笑った。
「魔塊鬼の目的はなんだ。」
「お前のからだを借りてるんだ、教えてやろう。人間社会への復讐。昔は妖を恐れ敬っていた人間たちが、科学だ技術だとどんどん俺たちの住む場所を奪っていった。山も海も、聖域までも。だから、俺たちの住む場所を取り戻したいのさ。それには、あいつらが邪魔なんだ。人間たちと仲良しこよしで反吐が出る。魔塊鬼の心臓のかけらを奪い返して、人間社会をぶち壊してやるのさ。」
魔塊鬼の心のかけらと名乗った玄樹は饒舌だ。
「そんなことは俺の仲間がさせない。」
「はっ。さっきも俺に手も足も出なかった連中が、魔塊鬼の悪鬼集団に敵うわけないだろう。笑わせるね。まぁ、殺生石の在りかも分かったことだし次は成功させてもらうよ。もうしばらくここで大人しくしていてくれるかな。」
そういうと、玄樹を蹴り上げ、ニヤリと笑って魔塊鬼の心のかけらはふっと消えた。
「まずいな。玄樹が起きたのなら、急がねばならない。玄樹自身が意識の中で寝ている分には、割と自由に動けるんだが、起きたとなると、玄樹の意識自身が、表に出てくる可能性も出てくる。
まぁ、まずいことばかりではないな。殺生石の場所はわかった。
本殿で、神宮司の懐に赤く光る光が見えた、あれがまさに殺生石だ。
あれさえ、手に入れればこっちのものだ。
魔塊鬼様たちは、明日ここに攻め入ってくるだろう。魔塊鬼様たちが来る前に、殺生石を奪い返し、奴らに目にもの見せてやるさ。」
玄樹の姿をした魔塊鬼のかけらは、藪の中で、少しの仮眠をとることにした。
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