第43話 「ねえ、ジェイス」
真夜中。
月明かりに照らされた二つの影。
「ねえ、ジェイス。これからもわたしを助けてね」
「ねえ、ジェイス。わたしはあなたのことが大好きなの」
「ねえ、ジェイス。お父さまもお母さまもお兄さまもあなたのことが大好きなの」
「ねえ、ジェイス。なにも心配はいらないわ。あなたのことはわたしが一番よくわかっているんですもの」
「ねえ、ジェイス。あなたはわたしが守ってみせるわ。たとえ町のみんながあなたを化け物だって呼んでも」
「ねえ、ジェイス。あなたは化け物なんかじゃないわ」
「ねえ、ジェイス」
二つの影は、ゆらゆらと揺れながらゆっくりと進んで行く。
いつもと同じように町を歩く二つの影の前に影が一つ近づく。
「こんばんは、シャロンお嬢様」
「あなたは? 誰?」
「あ、どうも。ニッタって言います」
「ニッタ様?」
「はい。ニッタっす。シャロンお嬢様、こんな夜中にどちらにお出かけですか? 夜道は危険ですよ?」
「あら、大丈夫よ、わたしにはジェイスがいるもの。ジェイスが私を守ってくれるわ」
「あー、そうなんすねえ。そちらの方がジェイスさんですか?」
「ええ。ジェイスは恥ずかしがり屋だからお話はできないの、ごめんなさいね」
「いえいえ。どうも、ジェイスさん」
「ニッタ様、わたしたちに何か御用でしょうか?」
「申し訳ありません。こんな夜中に出歩いていては危険かと思い声をかけさせて頂きましたが無用な心配でございましたね」
「うふふ。ニッタ様、ご心配いただいてありがとうございます。なんだか久しぶりにジェイス以外の方とお話をしたわ。ありがとう、ニッタ様」
「いえいえ、こちらこそお話させていただいてありがとうございます。ところでシャロンお嬢様」
「何かしら、ニッタ様」
「お散歩は毎晩?」
「ええ、ジェイスが日の光が苦手なものですから。どうしても散歩は夜になってしまいますわ。でも、夜のお散歩も楽しいのですよ」
「そうなんすね。夜には夜の世界があると申しますからね。あの、シャロンお嬢様、明日から私もお散歩に同行させていただけませんか?」
「まあ! 夜の世界って素敵な言葉ですね。お散歩は誰の許可がいるものではないでしょう? おかしなことを言いますのね、ニッタ様は」
「ありがとうございます、シャロンお嬢様。それでは今夜はこのくらいで、また明日、お会いできるのを楽しみにしております」
ニッタはシャロンに深々と礼を取り、二人を見送った。
「うーん、あれは間違いなく憑きモノっすよねえ。うーん、どうしたらいいんすかねえ、これ。シャロンお嬢様に襲いかかるようなことはなさそうだし、うーん、うーん。だめだ、ハルキさんに聞くしかないっすね」
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