第849話 証拠はない


「フレディ元王太子が愚行に走ったのはニキータ様が余計なことを吹き込んだからと私は思っています」


 余計な事?


「余計なこととは何かしら?」


「聖王国との繋がりと陛下の暗殺です」


 確かにフレディ元王太子は自身が国王になったら聖王国との交易がどうのと言う契約を聖王国からの使者と結んでいたな。

 隷属させて自白させた時には国王を殺す予定だったとも言っていた覚えがある。


「少し待って下さい、その二つを自白させたのは私ですがどちらもニキータ様が関係していると言った証言はありませんでした。ブリアナ王妃もその場にいました。ですよねブリアナ王妃」


「そうね、ウィリアムズ公爵の言う通り私も同じ場に居たけれどニキータさんの話は一切出てこなかったわ。隷属させた状態での自白は嘘を吐けない、そして隠しごとも出来ない。ニキータさんが吹き込んだと言うのは無理があると思うのだけどどう言うことかしら?」


 仮に聖王国との繋がりや陛下の暗殺を吹き込んでいれば間違い無く自白していたはずだ。それが一度だったとしても、直接的な言葉では無かったとしても、フレディ元王太子がそう解釈していればニキータ様の名前が必ず出ていたはず。


 俺の聞き方が悪かった? それとも隷属魔法も万能では無く抜け穴があるのか?


 しかしあの場には俺だけで無く陛下やセオドアにマチルダも居た。質問内容に穴があれば補足してくれただろう。


 となると抜け穴になるが、今の所そんな物があるとは聞いた事が無い。

 仮に抜け穴があるのであれば奴隷制度を見直す事になるだろうし、結構な問題になるんじゃないか?


「私が言っている吹き込み先はフレディ元王太子ではありません。聖王国の宰相だと考えております」


 宰相? 他国の宰相とニキータ様が繋がっていたって事か? どうやって?


「証拠もなく無茶苦茶なことを言うわね。さすが王妃の座を横から掠め取った女だわ。考えるだけなら誰でも出来るわよ。なら私は貴女が私を陥れようとしていると考えてるわ」


 ニキータ様の言う通り証拠が無い。


 しかしジュリアさんが証拠も無くこんな事を言うだろうか?

 元王女の時は……証拠は無いけど俺が隷属させて吐かせたんだった。


 あれ? ジュリアさんってこう言う一歩間違えるとかなりヤバい事に関してはもしかして証拠が無くても言っちゃう人だったりする?


 元王女の件は状況証拠とかを入念に調べてほぼ黒と断定してたとは言え、結構ギリギリな賭けをするタイプなんじゃ……。


 そう考えると後ろ盾になる相手間違えたかも……。


「ジュリアさん、ニキータさんの言うように証拠もなく言っている訳ではないでしょうね? お二人のケンカだけならまだしも、フレディにまで関わる話で適当なことを言うのは見過ごせませんよ?」


 王妃様からしたらそうだよな。息子が国外追放された理由の一つがニキータ様にあるかも知れない、そんな話で嘘なんて吐こうものならビンタで済む問題では無くなるからな。


「明確な証拠はありません」


「証拠がないってやっぱり私を陥れるためのウソだったわね! 私の考えが立証されたわ!」


 鬼の首を取ったかの様にジュリアさんへ言葉をぶつけるニキータ様。


「しかし証明する方法ならあります。その為に今日ここへウィリアムズ公爵を招待し、私が同席することを条件にしましたから」


「え?」


 マジ? 俺は国外追放させたし尋問もしたけどニキータ様が関わってるなんて証明する言葉なんて持ってないぞ?


「ウィリアムズ公爵、魔法の行使を願えますね?」


 あー、そうね、そうなるよね。でもさ、ちょっとそれは良くないんじゃない?


「ジュリア王妃、失礼ですが私は貴女の都合の良い道具ではありません」


 こう言う事は事前に連絡と相談をしてくれなければ困る。急に呼ばれて女三人に囲まれて喧嘩に巻き込まれた俺の身にもなってくれ。

 普通に考えてムカついて反抗的な言葉を返してしまうのは当然だ。


「今回は急だったことで事前にお話が出来なかったこと謝罪します。しかしその分の謝礼は考えておりますのでどうかお願い出来ませんか?」


 謝礼? ジュリアさんからの謝礼って言うと、またオペラのチケットだろうか?

 くっ、そうだった場合かなり魅力的だ。またソフィアのキラキラとした表情が見られると考えると喜んで飛び付きたい。


「しゃ、謝礼と言われましても、ジュリア王妃のお言葉一つでこの場で魔法を行使する事は出来ません」


 どう考えてもニキータ様を隷属させろって事だろ? 誰も居ない所で俺が一人で一方的に使うのと、王宮内でしかも王妃様が目の前にいる状況で使うのでは話が違って来るぞ。

 と言うか王妃様やニキータ様が許可するはず無いし、ニキータ様の侍女も黙って無いだろう。


「ブリアナ王妃、ニキータ様、ここでウィリアムズ公爵が魔法を行使する許可をいただけますか?」


「そんな事が許されるわけないでしょ!」


「……誰に何の魔法を使わせるつもりかしら? それ次第では特別に許可しましょう」


 ニキータ様は自分が隷属させられると思っているのか拒絶している。

 王妃様は対象と魔法次第と言っているが、他に誰へ魔法を使うと言うのだろうか?


「まだ生かして捕らえている聖王国の宰相へ転移魔法をです」


 吹き込んだニキータ様じゃなくて吹き込まれた宰相相手にしかも隷属魔法じゃなくて転移魔法か。

 まあ亜空間移動は正確には転移魔法じゃ無くて亜空間魔法なのだけど、対外的には転移魔法と言ってるからここで訂正する必要も無いな。


「隷属魔法は使わなくても良いのかしら?」


「あの宰相には隷属の首輪を装着しており、現王妃である私も所有者として登録されてあるので問題ありません」


 そう言えば隷属の首輪を装着させて牢にぶち込んでたな。

 しかしジュリアさんも所有者として登録されていたのは初耳だ。


「そうなのね。私は良いと思うのだけどニキータさん、貴女はどう思いますか?」


「王宮内にそのような者を招き入れるなど到底許されるはずありません。論外です」


 まあニキータ様からしたらジュリアさんの考えが間違っていないならこの場に呼び出されたく無いか。他にも色々と理由をつけて拒絶するよな。


「ニキータさんの意見は分かったわ。ならばこの場にいる全員で決を取りましょう。一票でも多い方の意見を尊重します。それではまずジュリアさんの意見に賛成の者は挙手を」


 うわ、王妃様が勝手に一人で話を進めて挙手まで始めちゃったよ。

 大体この場にいる全員ってニキータ様と専属の侍女二人以外は王妃様とジュリアさんの味方だから一方的な決着になる事間違い無しじゃん。えげつない事するな。


 こうして王妃様による民主主義の暴力でジュリアさんの意見が賛成多数で可決されるのだった。

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