第337話 相応しい
昼からは一緒にダンジョンの二階層を散歩した。
王族用や二公爵の別荘を見たソフィアは色々な感情を通り越して最終的に呆れていた。
「あれがテイラー侯爵家の為に用意した別荘だよ」
「とても素敵なのだけど、色々見てきたからもう感覚が麻痺してしまったわ。凄いのは頭の中で分かってはいるのよ?」
道中、遠めではあるが幾つかの他の貴族家の別荘を見ていた為によく分からなくなっているみたいだな。これなら最初に見せるべきだったかもしれない。
「入る?」
「うーん、本当は入りたいけどやめておくわ。やはり最初は当主であるお父様が入るべきだし、私は入るならやっぱり家族一緒の時がいいもの」
確かにテイラー侯爵が最初であるべきだな。それに家族一緒に入りたいと言うのも分からなくは無い。
今回はお預けだな。内装がどうなっているか確認したかったが仕方ないか。
その後は我が家の別荘へと戻り、一緒に紅茶やお菓子を堪能しながら話に花を咲かせたりして楽しい時間を過ごした。
他では中々お目にかかる事が出来ないソフィアの喜怒哀楽の表情がとても可愛らしくて、そして愛しい。
夕食はいつも通り母さんやアリスにエレナを含めた五人で楽しく食べる事が出来た。
母さんは俺の婚約者達と食事をする時は婚約者達のマナーをよく見ており、会話の内容や話し方についてもおかしな事を言わないかチェックをしている。
その場で注意すべきだと判断した場合は話の途中でも注意をするくらいだ。
だが一番恐ろしいのは話を止めてまで注意をすべきでは無いと判断された細かいミスについてだ。
過去全ての注意すべき点をまとめてあるノートが婚約者の数だけある。そして後でそのノートを見ながら母さんに俺から注意しておく様にと言われるのだ。
初めてこのノートを見た時は冷や汗を流しながら震え上がったものだ。
因みにエミリアが一番このノートに色々と書き込まれていたりする。
逆にソフィアは幼少期からよく一緒にいたのに注意点については一番書かれていない。
ミリーはポンコツ時代について書かれていないのでミリーも注意点をあまり書かれてはいない。
クロエは今年の夏休みの件でかなり書かれていた。
ソフィアはここ数年これと言った指摘はまったく受けていない。むしろ母さんは流石公爵夫人として恥ずかしく無いよう育てられただけはあると褒めている。
それだけソフィアが優秀であり、努力して来たのだと分かってしまう程に。
「ありがとうソフィア」
「どうしたのよ急に」
今は食事も終わり、自室へと戻って来て俺はまたソフィアに膝枕をしてもらっていた。
「母さんから呼び出しが無さそうだなって」
「あー、そう言えばそんな事もあったわね。何度かその事でクロエとエミリアが私に相談しに来たことがあるわよ」
「俺の言葉がキツかったとか?」
「違うわよ。オスカーに嫌な役をやらせてしまったって反省と、もうそんな役回りをさせないための立ち回り方を教わりによ。言ってしまえばオスカーに相応しい公爵夫人になるための勉強ね」
俺の知らない所で婚約者達だけの特別な勉強会が行われていたようだ。これって俺が聞いてよかったのだろうか?
「皆んなが俺に相応しい人になろうと頑張ってくれるのはとても嬉しくて幸栄な事なんだけどさ、俺は皆んなに相応しい人になれてるかな?」
「どうかしらね。公爵としてはまだまだだけど、頑張っている事は知っているわ」
第一声が否定の言葉じゃなくて安心してしまう。
「それにレイラお義母様を見るに、これからもっと頑張るのでしょう?」
「やっぱり気付いてたか。俺を一人前の公爵にしてみせるって真剣な眼差しで言われたよ」
ソフィアが帰ったら地獄が待っているのでは無いかと内心ヒヤヒヤしていたりしていなかったり。
「それなら大丈夫ね」
ソフィアはそう言いつつも、俺に憐れむような視線を向ける。
やはりソフィアも俺に地獄が訪れるのだと思ったようだ。
「でも一番大切なものは相応しいなんて言えないわね」
「一番大切なもの?」
何の事だろうか? 一番大切なものでありながら相応しく無いってのはかなり問題だ。今の俺に何が足りないのだろうか。
「オスカーが私たちを愛してくれている気持ちよ」
「え? 世界一愛してるつもりなんだけど、皆んなに相応しく無いくらい気持ちが足りなかった?」
「逆よ。私もオスカーを世界一愛しているけれど、オスカーが私たちを思ってくれる気持ちに釣り合っていないのでは無いかと不安になるの。オスカーの愛に私の愛はちゃんと応える事が出来ているかしら?」
成程、俺の気持ちは相応しいを超えた愛と言う事か。
……それって重いって事じゃない? 俺の愛が重過ぎるって事か。
「もちろんソフィアの愛を俺はちゃんと受け止めてる。そしてその愛に応えたいと俺は何時も思ってるよ」
俺の様に愛が重いとは言わないが、それでも俺に負けないくらいソフィアは俺に応えてくれる。ソフィアの愛が俺とは釣り合わないなんて考えた事が無いくらいだ。
「今はソフィアだけの事を言いたいけど、クロエやエミリア、勿論ミリーからの愛もちゃんと俺には伝わっているし、それに負けないくらい応えたいと思ってる。だから不安になる事なんてないよ」
不安そうなソフィアの顔を見てしまった俺は上体を起こして優しく頭を撫でながら答えた。
「うん、ありがとう……ありがとう……」
ソフィアはそう言いながら涙を一粒溢した。
マジか、そんなに不安になってたの?
「不安にさせてたみたいでごめんね。大丈夫、ソフィアの気持ちはちゃんと伝わってるよ。俺の事で泣いてくれるソフィアの気持ちが相応しく無い訳ない」
言葉をかけながら如何したものかを考えた結果、何を思ったのか俺はソフィアへ口付けを行ってしまう。
するとソフィアは更に涙を溢してしまい、俺の胸に顔を埋め、呻く様に泣き出した。
俺はソフィアを優しく受け止め、あやす事しか出来ない。
ソフィアをあやしながら思い出すのは剣術大会の日。確かあの日も今みたいにソフィアをあやしたんだよな。
大切な思い出の一つを思い出しているとソフィアから力が抜け落ちた。
どうやら泣き疲れて寝たみたいだ。
そう言えばあの日もソフィアは泣き疲れて寝たんだったな。
俺は取り敢えず先程から空気の様に気配を消しているミリーとメアリーへ視線を向けて苦笑いを浮かべる。
するとメアリーが申し訳無さそうな顔をする。気持ちは分からないでも無いが、別にメアリーのせいではない。
二人へ念話で後は任せろと伝えると、二人は大人しく部屋から出て行った。
二人が部屋から出て行ったのを確認した俺はソフィアをベッドへと運び横にする。
あの日と同じで無垢な寝顔をしている。
俺はそれだけで安心する事が出来たのだった。
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