第309話 魔力を感じる


 シャノンがミリーの周りを踊るように飛んでいる。偶に俺の所に来たり、サンやノルンの近くに行ったりしている。


 不思議と妖精であるシャノンは俺に無理矢理隷属させられたり、その前には脅し、魔力を奪い、魔法で身動きを封じられていた割には友好的に見える。

 普通は毛嫌いされ近寄る事すらされないと思うのだが、妖精の感性は分からないな。もしかしたらシャノンが特殊な可能性もあるか。


「しかしミリーと契約してからは騎士の近くには一切近寄ろうとしないな」


「〜〜♪」


「何だって?」


「どうも魔力の質が合わないそうで、近付くのは嫌みたいです」


 どうもシャノンはミリーと契約した事でミリー以外の人の言葉も理解出来るようになったらしく、ミリーへと聞こえるように言っただけの言葉にシャノンは答えた。

 ただシャノンの言っている言葉はミリーにしか分からないので、答えてくれたとしてもミリーに聞かなければ分からない不便さは残っている。


「魔力の質か。そう言えばシャノンは最初俺に話しかけて来てたな。何でミリーじゃなくて俺だったんだ?」


「〜〜♪」


「この場で一番魔力の質が合っていそうで、そして弱そうに見えたからだそうです。魔力量が最も少ない相手だったから捕まえられそうになっても逃げられると思ったみたいですね」


「まあ確かに弱そうには見えるか。一番若いし魔力量も同世代の平民と大差無いレベルに見えるよう抑えて隠蔽してるからな。でも亜空間へ逃げられるならそこまで相手の強さは気にしなくても良さそうだけどな」


「〜〜! 〜〜♪」


「騙されたって言ってますよ。それと強い相手は怖いみたいです」


 シャノンを騙したつもりは無いがちゃんと隠蔽を出来ていたと言う事実に俺は満足だ。


「強い相手が怖いって俺とサンとノルンはこの場にいる中で三強なんだが。しかも世界トップクラスの実力があるくらい強いぞ」


 ミリーの翻訳を信じるならシャノンは怖いと思っている相手に友好的な態度を取っている事になる。

 媚を売っているようには見えないので矛盾しているとしか思えない。


「〜〜♪」


「私からオスカー様の魔力を感じるみたいです。そしてそれはサンやノルンからも感じるそうです。契約した私から同じ魔力を感じるので一種の仲間だと思っているみたいですね。サンとノルンはオスカー様と契約をしているので特にオスカー様の魔力を感じられるのでしょう」


「確かに俺はサンやノルンと契約をしているが、ミリーとは魔術的な契約はしてないぞ? 契約をしたから魔力的な繋がりが出来てお互いの魔力を感じられると言うのは分からないでも無いが、そうでは無いミリーから俺の魔力を感じるのは変じゃないか?」


 一応騎士達とは契約を交わしてはいる。なんなら気休め程度だが防衛魔法も付与してある。

 なのに近付こうともしないのはおかしい。全員から俺の魔力を感じるはずなのに実際はミリー以外だと俺とサンとノルンにしか近寄らず、騎士達に近付くのを嫌がっている。


「簡単です。アルジとミリーさんはよく一緒に寝てるからです。ミリーさんはアルジの体液を沢山――」


 自慢気に話しているバカを俺は途中で黙らせる。

 普通に騎士達に聞こえるボリュームでそんな事を喋るなんて頭おかしいんじゃないか? ミリーが顔を赤くしているし、聞こえてしまった騎士達は聞こえていないふりをして口笛を吹いている。


「因みにだがサンはこのバカの言っている事を知っていたのか?」


「そうですね、知っていました。ただ流石に私はここで話せる内容では無いと思い黙っているつもりでいました。話すとしても最低限場所は考えます」


 知っていたか。と言う事はノルンの言っている事は事実なのだろう。間違いであったり意見に相違があればサンは何か言うはずだ。

 しかしサンはちゃんと場所を考えるんだな。碌でも無いから平気で言いそうではあったんだが、俺の侍女としての教育を受ける事でその辺はちゃんと理解しているようだな。

 きっと教育された事をちゃんと出来なかったら魔法の実験に付き合って貰っていたからだろう。


「ノルン、お前はもう少しサンを見習え。何でもかんでも口に出すな」


 はあ、何だかヨルを思い出してしまう。ヨルも結構すぐに口に出すからな。

 同じくらいの実力者でありながら余計な所まで一緒なんてやめて欲しい。マジでやめてほしい。

 まさかサンを見習えなんて言う日が来るなんて思いもしなかったぞ。


 しかしそうか、となるとアリスや俺の婚約者達はシャノンに嫌われる可能性は低いと考えて良さそうだな。


「〜〜?」


 俺に怒られてしょんぼりしているノルンを見て首を傾げるシャノン。

 此方の言葉を理解してはいるが、何故ノルンが落ち込んでいるのかまでは分からないみたいだ。


 うーん、となるとやはり俺達とシャノンでは考え方や感じ方が違うって事だな。

 今後シャノンがミリーの側に居るって事は俺の側にも居ると同義だ。こっちの感情等お構い無しで接せられた時、場合によっては殴りたくなりそうだな。

 出来れば一緒にいる時間が長い奴はその辺を気遣える相手がいいんだが。


 今もシャノンは不思議そうにノルンの目の前でフヨフヨと飛んでいる。煽っているようにも見えるその姿は残酷だな。そのせいでノルンがプルプルと震えているぞ。

 何と言うか、相性が悪そうだな。シャノンにそんなつもりが無くても無自覚にノルンは泣かされてそうだ。


 ノルンとシャノンを見ながら俺は頭を抱えたくなる存在がまた増えてしまった事に改めて気付かされたのだった。

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